絵:たむらん様 文:フロ
どんよりと曇った寒空に、悠理はマフラーを巻きなおした。 寒さを払うように行き交う人々の足は速く、振り返る者もない。 なんとなく人恋しくなる、師走の街。
ふわりと、白い結晶が、悠理の鼻に触れた。 冷たいその感触に、悠理の目が輝く。 「・・・やった!初雪だ〜♪」 思わず、大きく口を開けて空を見上げた。
「こら、食べるな!東京の雪は汚れていますよ!」 「え?」
悠理はきょろきょろと周囲を見渡した。 橋の下に、懐かしい友人の顔を見出す。
「――――嘘、清四郎〜?なんでいるの?本物?」
目を丸くする悠理に、清四郎はニヤリと口の端を引き上げた。 「偽者に見えます?数ヶ月会わなかっただけで、もう僕の顔を忘れましたか?」 「何言ってんだよ!そこまで馬鹿じゃねーよ!」 悠理は大急ぎで階段を駆け下りる。 「よりによって、イギリスに居るはずのおまえに、こんなとこで偶然会うなんて思わないじゃん!」 卒業後留学した清四郎と顔を合わせるのは、夏休みに仲間達と会いに行って以来だ。 低くなる気温に反し、胸が温かくなる。素敵な偶然が、嬉しくてたまらない。 サンタに一足早いクリスマスプレゼントをもらった気分だ。
「いつ帰ってきたんだよ?水臭いじゃん!帰国するなら、あたい達に知らせてくれよ!」 清四郎の笑みが、ゆっくりと柔らかなものに変わる。離れていた月日を忘れさせる、温かな笑み。 決して優しい友人ではないのに、いつでも清四郎さえ居れば安心だと思わせるのはこの笑みだ。
「だから、すぐに会いに来たんじゃありませんか。」 「え?」 「ここで会ったのは、偶然じゃありませんよ。」 「へ?」 「悠理に、一番に会いたかったから。」
彼の笑みは、いつでも胸を温かくする。 冬の寒さなど吹き飛ばしてくれる。
「・・・おかえり、清四郎!」
悠理は破顔して友人の腕に飛びついた。胸に溢れる幸せが、清四郎にも伝わるといいのにと思いながら。
------今年もきっと、ハッピークリスマス。
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素材:salon de ruby様