「いい男だよなぁ……」



魅録の言葉に、悠理、野梨子、美童、可憐の４人が固まった。
放課後、いつもの部室での出来事。


「今、なんつった？」
「いい男だなぁ…って、聞こえましたわ」
「それって……」
「あいつのこと、よね」


テーブルに肘を突き、頬杖をついた魅録のぼんやりとした視線の向こうには、部室の入り口近くで教師と立ち話をしている清四郎。
バランスの取れた長身に、精悍な横顔。
表向きの笑顔を浮かべ、深みのある声で教師と話しているさまは、理想の生徒会長様だ。


「ま、確かに（表向きは）いい男かもしんない…」
「性格に少し、問題はありますけど」
「でもそれを魅録が言うっていうのは…」
「もしかして……」
４人は同時に「ある言葉」を思い浮かべ、一様に青ざめた。


「どうしたんです？皆揃って青い顔して」
いつのまにか教師と話終えた清四郎が、皆の傍に戻ってきていた。
不審気に、４人の顔を順番に見ている。


「いや、魅録が…」
「魅録がどうかしましたか？…魅録？」
悠理の答えに、清四郎ははじめて魅録に視線を向けた。
「魅録？どうしたんです、僕の顔をぼーっと見て。魅録？聞こえてますか？」
魅録の顔の前で、ひらひらと手を振って見せる。
が、魅録は清四郎の顔をぼーっと見つめたままだ。


「…また、メカをいじって夜更かしでもしたんでしょうかねぇ？　しょうがありませんね、家まで送っていきますよ。野梨子、すみませんが…」
「え、ええ、いいんですのよ。今日は可憐と買い物に行く約束ですの」
「そうですか。じゃあ、お先に。ほら魅録、帰りますよ」


まだ呆けたままの魅録を促して帰っていく清四郎の後姿を、４人は呆然と見送った。
「あれって、やっぱりそうなのかしら？」
「な、なんだか想像がつきませんわ」
「魅録も、ゲイだったってことだよね〜。」
囁き交わす女二人に、美童がニヤニヤしながら言う。


「ま、誰にも春は来るってことだな。でも、清四郎はどうなんだ？」
「「「うーーん」」」


悠理の問いに、３人は腕を組んで考え込んだ。
情緒障害者、朴念仁。男にもてるのに、その気はないと言い張っている。


「魅録の恋は前途多難」それが、みんなの出した結論だった。

＊＊＊＊＊

「…まったく、どうしちゃったんですか？魅録」
学園外に置いてあった魅録のバイクのところまで来ると、清四郎は魅録に問いかけた。
魅録はライダージャケットを羽織ながら、清四郎にメットを放ってよこした。

「だって、さ。お前とセンコーの話長過ぎるぜ。今日は早く帰ろうって言ってたのによ…」
「すみませんね。でも、あんな表情で僕のことを見ていたら、あいつらにバレてしまいますよ」
「…バレたかな？」


はっとしたように、自分を振り向く魅録に清四郎は苦笑した。
バイクの後ろに跨り、魅録の腰に手を回すと、優しく囁く。
「さあ、ね。別にいいじゃないですか。もしバレていたとしても…」
魅録の背に、唇を寄せた。
「それとも、嫌ですか？皆に、僕と付き合っていると知られるのは」
少し、イジワルな言い方。
でも、その瞳はいとおしげに細められている。
魅録は腰に回った清四郎の手に自分の手を添え、愛しげに撫でた。



「いや。もう、いいかも。あいつらに知られても」


清四郎が、にっこりと笑った。本当に、嬉しそうに。
ぎゅっと、魅録の腰を抱く手に力が篭る。


「じゃあ、明日。皆に話しましょう」
「ああ……」
魅録は大きく頷くと、バイクのエンジンを掛けた。
バイクは走り出す。風のように。
二人だけの世界へと向かって。

＊＊＊＊＊

「じゃあさ、今度の日曜、二人をどこかに連れ出して……」
「うまく言いくるめて、二人っきりにさせるのよぉ！」
「でも、清四郎がのってきますかしら？」
「まずは、清四郎に魅録がゲイだっつーのを認識させるとこから始めないといけないんじゃないか？」
「あ、それって割と簡単かも」


放課後の生徒会室。
下校時間を知らせる音楽が鳴り響く中、友人思いの４人の会話はいつまでも続くのであった。

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