「痛っ」 夜、部屋で爪を切っていたら、深爪してしまった。 悠理と清四郎は、あれからうまくいっているようだ。 きっとそのうち子供でもできて、幸せな家庭を築くのだろう。 すばらしいことだ。 私はそれを望んでいた。つまり、悠理が幸せになることを。 だけど、あの夕方。 あの、私が悠理を抱いた日を、私は生涯忘れない。 三日月 ルーン様
「もうどうしていいのか分からないよ‥」 悠理が私にしがみついて泣いた。 私だって、この状況をどうしたらいいのか分からなかった。ただ、ショックで。 親友たちの裏切りに驚いたのではない。逆だ。 その裏切りを容易に想像でき、しかもそれが事実であったことに愕然とした。 「悠理‥」 悠理の髪を指ですく。朝髪をとかしていないのか、ばさばさの髪は絡まりあっていた。 彼女の、涙で湿った頬を撫でる。 悠理は俯いて、涙を流した。 はた、はた、と涙が音を立てて床に落ちる。 その音が、なんて悲しい音だろうと思う。 聞きたくなかった。そんな音など。 見たくなかった。太陽のように明るかった悠理が、こんな風に泣く姿など。 「悠理、悠理顔を上げて」 ただ、それだけしか言えなかった。 ひくっ、ひくっとしゃくりあげていた悠理が、急にしゃがんだ。 思わず私もしゃがみ、悠理の顔を覗き込む。 私は悠理に口付けた。 悠理の唇はかさかさに乾いている。 悠理の唇を舐めると、息苦しさを散らすように、彼女が唇を開いた。 その隙間に舌を差し入れたら、彼女の身体がびくりと跳ねた。 足は自然と、目の前のソファに向かう。 二人で、それが決まっていたことのようにして。 悠理のセーターを脱がせ、自分もカーディガンを脱いだ。 悠理の下着も取ると、白くしなやかな肢体が目の前に現れた。 暖かな部屋の中にいるのに、悠理の身体はとても冷たくて、それがなんだか深海の魚のように悲しかった。 悠理の首に舌を這わせ、次いで体中にキスをしながら、自分のブラウスのボタンをはずし、脱ぐ。 首筋に口付けて、脇腹を撫でると、彼女の腕が私の頸に巻き付いてくる。 そのまま手を上に這わせ、腋の下に親指を食い込ませて、びくびくと震える彼女の反応をみた。 「んっ…あん…」 無意識に股間を擦り付けてくる彼女の体液で、太腿が濡れた。 身体が蕩けてしまいそうだった。 はぁ、という、悠理のため息が聞こえる。 小さなさくらんぼを、ゆるく、やわらかく舐める。 「あ、や…やめっ…」 僅かに抵抗する脚を、膝の裏に両手を入れて押さえつけ、指を埋めた。 指を埋めた花びらの中の、小さな膨らみを押し潰すと、悠理は小さく叫んだ。 それは、本当に小さな声だったのだけど、私は聞き逃さなかった。 「せ…」と。 清四郎の‘せ’だ。 それでもかまわない。そう思った。 だけれど、腹立たしい。強く乳首を吸うと、悠理は小さな叫び声を上げた。 なだめるように、左手のひらで彼女の内腿を撫で上げ、右手の指を抜き差しした。 水音が、部屋中に響く。 その音と、目の前の悠理の肢体に、私は酔った。 「の、りこ・・・あたし、もう」 悠理が、限界に来ているのが分かる。 指のスピードを速めると、悠理の身体が震える。 「あ…あああああ!」 最後に、手を一際強く押し込むと、悠理の爪が私の背中に食い込んだ。 「はぁ・・・」 ベッドに倒れこみ、悠理の顔を見ると、悠理は泣いていた。 「悠理、ごめんなさい」 「なんで?」 悠理は、泣き顔を私に向けた。 「だって、泣いているから。嫌だったのでしょう?」 私がそう言うと、悠理は泣き顔のまま、薄く微笑んだ。 「違うよ。野梨子のこと利用しちゃったな、と思って」 私が、利用された? そうかも知れない。 だって行為の時、悠理は紛れもなく清四郎を想っていた。 そのことなら、知っている。 悠理に泣いてもらう必要などない。 私は、痛々しい悠理を見ていたくなかったのだ。 だから、悠理を抱いた。 悠理に私のことを考えて欲しくて、抱いたのではない。 それなのに、涙が零れた。 悠理、そんなことは黙っていて欲しかった。 そんなこと、私には分かっていたのだから。 「ごめん」 天井を向いて謝った、悠理の言葉が今でも私の胸の中にある。 それが、いつまでも私を突き刺す。 あれからも、時々悠理とのあの夕方のことを思い出す。 夕日の差し込むベッドの上で、私たちは狂ったように抱き合った。 お互いの心の隙間を、埋めるように。 実際には埋まりなどしなかったのだけれど。 決して交わることのない場所に、私たちは立っていた。 だけど、それでも求めずにはいられなかった。 狂おしいほどに、私は悠理に恋をしていた。 同情も確かにあった。 だけど、思えば私はずっと悠理に憧れていた。 私にはないものを、彼女は持っていた。 だからそれを、彼女が失いかけているそれを取り戻そうと、私は必死だった。 すべて丸くおさまり、あのときのことを考える度に思う。 私と悠理との関係は、清四郎と魅録の関係に似ていると。 深爪が痛くて、涙が出る。 窓の外には、切り取った爪と同じ形の、三日月が浮かんでいる。 泣いたのは爪。 三日月の形に切り取られた、恋心が悲しくて。 視界が歪む。 窓の外に浮かんでいる三日月も、ぐにゃりと歪む。 泣いたのは三日月? 私が、自分についた嘘を知っているから? 違う。 泣いたのは私。 悲しいのは私。 三日月の形に、この愛を切り取ってしまいたくなどないのに、切り離してしまったことが悲しい。 痛いのはこの心。 深爪をした日は、悠理を思い出して泣く。 切り取った爪が、いつまでもあなたを恋しがる。
FIN レズの人が深爪するのって、そういう理由だったのかー、どひゃーエロい〜、と驚き、こんなものを書いてしまいました。切り取った爪の形が、三日月に似ていることからタイトルまで付けて〜。すーいーまーせーんー!! |
背景:空中庭園様