温泉欲情2

〜そそり立つ君への想い〜

BY カパパ様

 いつもは海外旅行の多い有閑倶楽部だが、今回は国内だ。

可憐と野梨子の希望により、石川県の温泉に来ている。

俺としてはもうちょい遊びがいのあるところが良かったんだが、まあ決まったものは仕方ない。

馬に乗れる牧場があるらしく、悠理と美童は割と楽しみにしているようだ。

当然、俺が運転することになるだろう。運転は好きだし得意だ。昨日のうちに地図も確認してある。

 

昨夜、少し飲みすぎたせいか頭がだるい。運転を控えているから何とか酔いを醒まさなくちゃな。

だりーけど、朝風呂するか。

 

 

***

 

露天浴場には、先客がいた。

俺らの他にはいないと聞いたんだけどな。

旅館の人か?

 

朝もやと湯気で、その姿はよく見えない。

だが、そのシルエットは仁王立ちしているようだ。

泉質を確かめているのか?

いや、よく目をこらすと、こちらに背を向けている。

雄大な海を向いているわけだ。

ああ、景色を眺めているのか。ここの人だったら見慣れているかもしれないが、旅館の仕事は忙しい。ゆっくり眺めているヒマなんてないのだろう。

 

おはようございます、と声をかけようとした途端、その人影が振り向いた。

肩に手をやり、何かを掴み取ったようだ。

タオルか・・・。

 

げっ!?

って事は、今までタオルを腰に巻かないで立っていたのかよ!?

いっくら人がいないからって、大事なモノをさらして仁王立ちしていたってのか?

なんだよ、その変態的な行動は!

・・・あまり声をかけたくなくなってきたな。

ま、まあ「これから仕事で忙しくなるから、今この時だけは解放されていたい」って事なんだろうな。ストレスたまりそうだもんな、この仕事も。

 

気を取り直し、もう一度声をかけようとしたところ。

絶句した。

その人物は、俺がよく知っている人物だったからだ。

 

 

朝日が眩しいのだろう、少しばかり目を歪ませている。

それはいいのだが、なぜか嬉しそうだ。

俺に気づいた様子もなく、口がニヤけている。

な、何を考えてやがるんだ・・!?

 

すると、いきなり表情が一変した。

ハッ、と真顔になる。

何かを考え込んでいるようだ。

苦悩の表情。

あの清四郎が、何を悩むと言うんだ・・・?

逞しい裸身と相まって、美術館にある彫刻のようにも見えてくる。

 

 

目を閉じて、ふう、とため息を吐いた清四郎。

口元が綻んでいる。

幸せそうな笑み。

な、なんだ、悩んでいたんじゃねえのかよ!?

 

俺が戸惑っていると、また真剣な表情になった。

わ、わからねえ・・・。

あいつと初めて会った時、「ケタのちがう男だ」と思ったのは間違いじゃなかった。

早朝の露天風呂で仁王立ちした挙句に一人百面相・・・・ってどんな趣味なんだよ!

 

しかもその間、「心ここにあらず」の状態だったのは分かるが、ピンと張りのある男の象徴をずっと俺の方に向けていた。

まるで「見ろ!」と主張しているかのように・・・。

その主張に従って、思わず視線が固定されてしまう。

畜生、結構でけえな・・・。

 

それが、すっとタオルで隠された。

声がかかる。

 

「おはようございます。魅録も朝風呂ですか、珍しいですな。」

 

平然と言いやがった。

俺の朝風呂より、カラスが長風呂するより、もっと珍しい物を見せてくれたばかりの清四郎。もう表情はいつものポーカーフェイスだ。

 

「お、おう・・・。清四郎も朝から上機嫌じゃねえか・・・。じゃ、じゃあっオレもう行くから・・!」

 

とりあえずの返事は、自分の声じゃないようにカサカサしていた。

悪いが、俺はポーカーフェイスは得意じゃない。動揺は丸見えだろう。

あのニマニマ顔を見せられれば、誰だって「朝から上機嫌じゃねえか」くらいは言いたくなるさ。

 

が、正直に言って今は、清四郎と共に冗談を言い合えるような気分ではなかった。

怖い。

悠理が幽霊を見た時、異様に怖がっているのはこんな恐怖感なのだろうか?

「自分には理解できない恐怖」が差し迫っているのが怖いのだろうか。

 

とにかく清四郎に背を向けて脱衣所まで走る。

風呂場で走るのは危険だが、あいつと一緒にいる方が危険だ。

 

慌てて浴衣を羽織り、部屋へ向かう。

静かな廊下で後ろを振り返った。

清四郎はいない。

 

いきなりのダッシュで心臓がバクバク音を立てている。

壁にもたれかかり、帯を締めることにした。

結び目を作る際、下を見てみると・・・。

 

・・・・!!

お、俺のアレまで勃っているじゃねえか!?

ななな何で?

おい、嘘だろ?

いくら朝とは言え、起きてから結構経つぞ?

 

ま、まさか・・・・!!

まさか、もしや、冗談もいい加減にしてくれよ!?

あの、清四郎の姿を見て興奮なんかしてないからなっ!

 

 

仁王立ちの後姿が「ちょっと変態チックだが凛々しい」なんて思っていなかった。

 

朝日を眩しそうに見る目で「俺を見て欲しい」なんて思わなかった。

 

一人笑っていたあいつを「可愛いな」なんて、ましてや「俺だけにその笑顔を向けて欲しい」なんて思うはずがない。

 

悩ましげな表情が「セクシー」とも「抱きしめてやりたい」とも・・・!!

 

 

 

どんな女を見ても覚えなかった感情に戸惑う。

危険な香りのするこの感情は、どこかで甘さを伴っているようで。

ダッシュ後、数分しても心音は元に戻らなかった。

 

 

・・・この感情の名は、まだ知らない方がいい。

それを知ってしまう事は、「危険」に両足を突っ込む事になるからだ。

それに気がついてしまっている時点で、俺はもうあいつに囚われてしまっているのかもしれない。

 

いつも自信満々で何でも知っていて、そのくせ時々どうしようもなく幼稚なあいつ。

普段は大人顔負けの、というより並の大人では適わない知能と体力を誇るあいつは、時折悠理と負けず劣らずのアホをしでかす。

そのくせ、悠理を苛めている時はひどく楽しそうで幸せそうで。

・・・シアワセソウデ。

 

 

なんてこった。

危険な感情はやっぱり気づかない方がいい類のものだった。

俺が自分の気持ちに気づいた時には、既にあいつの心は親友のものだった。

 

ふっ・・・と自嘲の笑みがこぼれる。

酔いが醒めたばかりだというのに、今こそ酔いたい気分だ。

ちっ、参ったな。

 

 

・・・清四郎とは距離を置くことにしなくちゃな・・・

 

密やかな感情は、俺の心の中で殺すから。

手強くてすぐには殺せないけれど、いずれ消えてなくなるだろう。

 

だからそれまでは、あいつの目を見ることができない・・・。

 

 

END

 


清四郎編を書いていて、魅録の気持ちをSSにしたらギャグになるかなー・・・と思いつき書き始めたモノ。で、気まぐれというか何と言うか『アミーゴ』っぽくしてみようか、とフロンティア精神を出してみたら、無理やり感満タンのブツに仕上がってしまいました。

ギャグ→切ない片思い・・・これだけ聞けば、笑って泣けるラブストーリーっぽいのに。清純派オタクを自称して憚らない私ですが、これを機に一皮剥けたいと思っています。いやん、そんな意味じゃありませんよ!

 

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背景:柚莉湖♪風と樹と空と♪ 様