温泉欲情3

〜秘め百合の涙〜

BY カパパ様

 

二日酔い気味の朝でも、朝食はきっちり摂る。

美容の基礎。

それが、一日に数組しか客を取らない高級旅館の朝食であれば尚更よね。

だってそれも宿泊代金に入っているんだから。悠理じゃないけど『食べなきゃもったいない』と思うのは仕方ない。

 

『お客様に心からのくつろぎを』がモットーのこの旅館では、朝食も部屋に持ってきてくれる。男女に分かれて部屋を取ったけど、仲良し六人組としては三人ずつの食事は味気ない。女子の部屋に集い、六人分の食事を運んでもらった。細長いテーブルに全員が着席する。

まあ、客商売ならこれくらいの我侭は聞いて当然。

それでなくとも超高級旅館なんだから。

 

昨日の夕食も美味しかったけど、朝食も手は抜いていない。

繊細な味付け、小皿や鉢の模様、全てが『高級』と言っているような朝食だ。

自慢じゃないけど、この旅館に友達同士で泊まれる高校生なんて滅多にいない。

ただ金を持っているだけでは何年も待つハメになる。高校なんかとっくに卒業してしまうだろう。

剣菱財閥のコネのおかげで、こうしてのんびりとくつろぐことが出来るワケ。

悠理と友達でよかった、と心底思うひと時。トラブルメーカーの悠理とは「友達やめたい」と思う事も結構あるけれど。

 

ふと右隣を見ると、もう悠理はご飯のお代わりをしている。

朝っぱらから早食いの大食い。

それでなんで太らないのよ!?この子、夜の体操だってしてなかったのに。

昨日温泉で見たけどヒップも太腿も引き締まっているし、ウェストだって、あの夕食の量が信じられないほど。男の子みたいにスラリと伸びた手足が綺麗だった。

「女らしい」とはとても言えないけど、スタイルはいいのよね。

 

「ん、まーい!もういっくらでも入っちゃうなあ〜♪」

 

ガツガツ意地汚く食べている様子はとても財閥の令嬢とは思えない。

あーあー、もうご飯粒つけちゃって。

一応、男がいるってのに浴衣で胡坐をかいてるんだから。

悠理は本当に「女としての自覚」に欠けている。

全く色気のイの字もありゃしない・・・。ま、それが悠理の可愛い所なんだけど。

 

えっ?

悠理が可愛い・・?

ああ、まあそうよね。この子、まだまだお子さまだもの。

 

 

「おまえ、朝からよくそんなに食えるなあ・・・」

 

あたしの目の前に座る魅録が呆れている。なんだか顔色が悪い気がするけど、魅録も二日酔いかしら?ちょっと、運転大丈夫でしょうね!?

まったく悠理は二日酔いのフの字もないっていうのに。

 

「うわあ、僕、もう見ただけでお腹一杯だよ・・・」

 

ゲンナリとため息をつく美童は魅録の隣。『見ただけでお腹一杯』というのは、料理と悠理の食べっぷり両方ね、きっと。

本当に悠理は、いっそ気持ちいいくらいよく食べている。

 

「美童も飲みすぎたのではありませんの?」

 

心配そうに彼に声をかけるのは野梨子。あたしの左隣で、美童の真正面にあたる。

昨日の夜、野梨子は一番に眠りについたから二日酔いはないみたいね。

お味噌汁を飲んで「まあ、いいおダシですこと」と感心している。

悠理はニコニコ顔で何杯目かのおかわりを敢行中。

 

「・・・悠理、噛まないで食べると消化に悪いですよ。まあ言っても無駄でしょうが一口三十回噛め、と言われているんですからね。」

 

言っても無駄なら言わなきゃいいのに、清四郎が悠理に注意する。

清四郎は悠理と真向かいなのだけれど、テーブルの長い方で向かい合っている。

つまり清四郎の席は、悠理と真正面で悠理と一番距離のある位置。

悠理の様子が一番分かる場所。

 

「うるへー!三十回も噛んでたらメシが冷えちゃうじゃないか!」

「そのくらいの情熱で英単語も覚えて欲しいものですな。」

 

ったく、清四郎ってどうしてこうなのかしら。

せっかく旅行気分に浸ってるってのに、『英単語』なんて野暮もいいところよ!

美味しい食事もまずくなる、ってもの。

悠理が気持ちよく食べているのに邪魔しないでよね!

 

・・・・えっ!?

なんで『悠理が』?

なんかさっきから悠理の事、やたら考えてない!?

 

 

ふと隣を見ると、まだご飯粒をつけている悠理はふくれていた。

そりゃそうよね。清四郎の空気の読めなさ加減にあたしも萎えたもの。

ぷう、と頬をふくらませた悠理の横顔が可愛い。

まったく黙っていれば美形で十分通用するのに、「女の武器」を全然活用できていないんだから・・・。

なんだか出来の悪い子どもを見ているようで(実際そうだけど)、つい世話を焼きたくなる。

 

「ほら、悠理。お弁当つけてどこ行くの?」

 

なんて昔ママに言われた言葉をかけて、彼女の口周りを拭いてあげた。

悠理がきょとんとしている。

 

「なんだぁ?弁当までついてくんの?」

「違うわよ、ご飯粒のこと!・・・おば様とかメイドさん達に言われなかった?」

「うんにゃ、初めて聞いた。」

 

悠理は「おべんとつけてどこ行くの♪ 牧場よん♪」と一人で歌い始めた。

もう上機嫌になっている。

・・・か、可愛いじゃないのよう!!

ああん、もう!ほんと、バカな子ほど可愛いってよく言ったものだわ!

 

左袖をクイクイ引っぱられて隣を見ると、野梨子が清四郎を見るように合図していた。

野梨子にしては珍しく引きつった表情。

で、清四郎を見てみると。

 

な・・・何よ!

なんでか知らないけど、あたしの方を妙に不機嫌そうに見ているじゃないの!

睨んでる、って言ってもいいくらい。

何なのかしらコイツ。あたしに恨みでもあるわけ?

 

ちょっと視線を移動させると、美童は清四郎を見て「うわぁ〜、末期・・・」とモゴモゴ言っている。

その隣の魅録はため息をついていて、清四郎の顔を見て切なげな表情をしているのが少し気味悪い。

 

「なー、魅録は聞いた事あった?」

 

右隣に話を振る悠理の顔は、もうあたしからは見えない。

でも声の感じからして笑顔だわ。悠理は分かりやすいから。

 

悠理の表情は見えないけれど、あたしの正面にいる魅録の表情は丸見え。

彼は「いや・・俺もない・・・」とだけ言って、苦しげに横を向いた。横、というのは美童の方であって、清四郎の方でもある。

 

清四郎は、魅録のすぐ横にいる悠理を見ていた。

なにアレ・・・。

なんで悠理を見ているだけで、あんな顔してんのよ・・・。

すんごく愛おしそうな、幸せを内から噛み締めているような顔。

なんだか高校生離れした、圧倒的な慈愛に飲まれてしまった。

そして、同時に分かってしまった。

清四郎は悠理が好き。ポーカーフェイスも作れないほど好き。

 

そんな清四郎を見た魅録は、頬を染めて下を向いた。

魅録は全く理解できないけれど、まあいいわ。

 

 

「・・・きょ、今日、晴れて良かったね。」

「・・そうですわね。旅行はお天気に左右されますもの。」

 

強引な話題転換を試みたのは美童だった。同調したのは野梨子。

自然と今日の予定について話すことになった。

 

「なー美童、勝負しようよっ!でさあ、負けた方はバツゲームすんの!」

 

自分が負ける事を考えずに言い出した悠理の提案に、美童は遠慮した。

まあ肝っ玉の小さい男ではあるけど、結構そういうゲームには乗ってくるかと思ったのに。

 

「えぇ〜、そーゆー事なら勝負しないよぉ。清四郎、パス!」

「・・・ふむ。悠理、受けて立ちますよ。」

 

はあ、と胸を撫で下ろした美童を見てピンときた。

ふうん、清四郎を応援してやってる、ってわけね。

清四郎は清四郎で、不敵な笑みを浮かべて真正面の悠理に目を向けている。

その目の輝きが楽しそうで楽しそうで・・・。

 

「おーし!やってやろうじゃん。清四郎、ズルすんなよな!」

「しませんよ。ではお互い、あくまでもフェアプレイで。」

 

悠理の目もライバルを得た事で輝いている。

ライバル、か・・・。

あたしは悠理のライバルにはなれない。身体能力が違いすぎる。

悔しくて清四郎をねめつけると、そこには勝ち誇ったアイツの顔があった。

 

「可憐は美童にでも教えてもらえばどうですか?初めてでしょう?」

 

・・・・む、むかつくぅ〜!!

あたしを名指ししてきた、って事は挑戦と受け取っていいわけね!?

身体能力では負けるけど、あたしにだって意地があるわ。

ただで悠理をくれてやると思ったら大間違いよ!!

 

「あたしは悠理の応援をするわよ。」

 

悠理を見て「頑張って!勝ったらあんたの好きな物作るわよ。」と微笑んだ。

案の定、悠理はパッと顔を輝かせる。

・・・・くぅっ、やっぱり可愛いわ!

 

「おう!あたい頑張るじょー!へへーん、バツゲームは何にしよっかなあ?」

「そうよねえ〜、清四郎に何をさせるか楽しみよねぇ〜っ。」

 

女二人仲良く、きゃっきゃっと笑う。

チラリと目線を清四郎に向けると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

ざまあ見ろ、だわ!

 

「・・・僕が負けるとでも?ほほぉ、随分強気な態度ですねぇ。」

「ったり前だい!今日は負ける気がしないぞ!!よし、バツゲームは・・腹踊りだ!しかも勝った方が負けた方の腹に顔を描くの!へへ、どんな顔描いてやろっかな〜♪」

 

悠理らしく色気のない提案。

その幼い発想に微笑みを誘われる。

 

 

えっ!?

ちょっと待って!?

 

もし、もしもよ、悠理が負けたら。

細くて白くてきめ細かい悠理のウェストに清四郎がマジックペンを走らせることに・・・!

ムッツリスケベの清四郎にはたまらないシチュエーションじゃないの!

マジックペンだけじゃなくて、あいつの唇とか舌とか指とかも走りそうだわ!!

 

それに悠理が勝ったとしても。

あどけない顔でマジックペンを握る悠理に腹を見せる清四郎が、変な気を起こさないとも限らない。

「マジックよりもコレを握ってくれませんか?」とか言ってヘンなモノを握らせそうじゃない!!そしてそのまま、純情な悠理を無理やり・・・!!

 

だめよ、悠理!!

危険すぎるわ!!

どっちに転んでも、あいつが得する仕掛けになるのよ!

 

 

「いいでしょう。・・・悠理、覚悟しておくんですね。」

「へっへーん、それはこっちのセリフだい!」

 

だめよ、悠理!

あんたの貞操の危険なのよ!?

あの清四郎の顔と言ったら「この世の悪魔」そのものじゃないの!

あいつの頭の中ではどんな「ムッツリ」が展開されているのか、少しは考えなさい!

 

「おーし!メシも食ったし、ちょっと腹ごなししよーっと!」

 

立ち上がった悠理は大きく伸びをした。

しなやかなラインが分かる。二の腕がのぞく。

・・・きれいな悠理。女のあたしでも見惚れてしまう。

 

「ふぅーっ、じゃあ行くか!」

 

両腕をパンッと下ろすと、胸元が少し肌蹴ている。

頓着していないくせに滑らかな肌。

浮き出た鎖骨が誘っているようで。

・・・やだちょっと色気あるじゃないの、この子。

 

ドキドキと高鳴る胸に、熱くなってゆく頬。

このときめきは今まで何度も経験した事がある。

トクン、トクン・・・。

 

玉の輿を狙っているあたし。金持ちの悠理。

世話焼きなあたし。世話焼かれな悠理。

たくさんの恋をしているあたし。まったく無垢な悠理。

 

正反対だけれどピタリと合致するように出来ている?

神様がくれた相手なのかしら・・・。

王子様が見つからないわけだわ、だって王子は姫だったんだもの。

 

悠理が男だったらいいのに。

それを本気で望んでしまったあたしは我侭なのかしら。

 

 

「お・・・お前なあ!あたいだって一応女だぞ!!」

 

あたしの心の内を見透かしたように、彼女は言った。

胸がドキドキする。

どうしてバレたのよ!?

 

「それはすみませんね、だったらもっと女性らしくしてくださいよ。」

 

見ると、清四郎が悠理の胸元に手をやっている。

 

な、朝っぱらから、皆の前なのよ!?何やってんのよアイツ?

公明正大に堂々とスケベするつもりなの?

 

横にいる魅録も、あたしと同じく硬直している。

顔が真っ青だ。・・・あたしも、かも。

 

「ハイこれでよし。女だと言うなら、恥じらいと慎みを持つことですな。」

 

どうやら肌蹴た胸元を直していただけのようだ。

だけなんだけど。

悠理は真っ赤になって逃げ出した。

顔から湯気が出そうなほど真っ赤だった。

それは間違いなく『恥じらい』だと思う・・・。

 

あたしと一緒にお風呂に入っても照れない悠理。

清四郎に浴衣を直されただけで恥らう悠理。

・・・・・悠理は清四郎を意識してる・・・・。

 

 

あーあ、やだやだ。

この可憐さんともあろう人が、末代までの大恥だわ。

 

「あたし、もう一度お風呂いただいて行くわね。」

 

だってそうでもしなきゃ、涙を流せないもの。

可愛い悠理、お願いだから、あたしの目にあんたを追いかけさせないで・・・。

 

END

 


悠理が受けだから攻め女子を相手にするとなると、やっぱり野梨子が王道(?)ですよね。ちょっとスカして(死語)、王道じゃない道を行ったら・・・こんな罠が潜んでいました!という感じです。やっぱ可憐さんは無理だよ!!

でもGLがこんなに楽しいとは思いませんでした。本気で病みつきになりそうな予感大。こんなに長くなってしまったのは楽しかったからですね、ハイ。正直、自分と言う人間がよく分からなくなってきています。

 

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背景:柚莉湖♪風と樹と空と♪ 様