ガチャ。

 

「・・・何をなさってるんですの?」

部室の扉を開けた途端、目に飛び込んできた光景に、野梨子は絶句。

 

最近悠理が持ち込んだばかりの真新しいソファの上で、友人二人は顔を引き攣らせた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・何って」

悠理はうつぶせで寝転がったまま、言いよどんで顔を真っ赤に染めた。

「何に見えます?野梨子」

清四郎はその悠理の体に馬乗りになった状態で、野梨子に顔を向ける。

能面のような笑顔。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・指圧?」

 

 

 

野梨子は人差し指を頬にあて、首を傾げた。悠理の背中の真ん中あたりで置かれている清四郎の右手を見る限り、そう見えないこともない。

「ええ、そうですよ」

清四郎は大きく頷き、悠理から身を離した。

悠理ももぞもぞ起き上がって、ソファに深く座りなおす。

並んでソファに座った幼馴染ふたりに、野梨子は眉を顰めた。

「清四郎はマッサージが得意だと聞いてますけど・・・私はしていただいたことはございませんわ」

「おや、あなたもして欲しいんですか?肩ぐらい揉んであげましょう」

能面の笑顔のまま、清四郎は野梨子にツラっと提案。

「!!」

悠理が弾かれたように、清四郎へ鬼のような顔を向ける。

悠理が口を開くより早く、野梨子の叱責が飛んだ。

「そういう意味じゃありません!いくら親しいといっても、男女なんですから、慎みを持ってくださいませ。女の子の体に乗り上げるなんて、誤解されますわよ!」

「誤解・・・・そうですね」

清四郎はクスクス笑いながら、片手をスッと悠理の手に走らせる。

「?」

悠理も驚いたように目を見開く。

野梨子には、一瞬、清四郎が悠理の手を握りしめたように見えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・誤解?

 

 

ドキンと野梨子の胸が鳴る。

幼馴染ふたりが惹かれあっていることは、こういうことには鈍い野梨子もなんとなく感じていた。

 

しかし、目の前のふたりに、甘やかな雰囲気は感じられない。

清四郎は何事もなかったように、平然とした顔。

悠理も、もういつもの表情。いや、イタズラが見つかった子供のような顔。

悠理は野梨子の視線から隠すように、わざとらしく手を後に隠した。

ちらりと見えたその手に、なにかが握られているのが見えた。

白い紙?

清四郎が何かを悠理の手に握らせたのだ。

 

もしも、ふたりが好き合った恋人同士なら。

一番に祝福し、応援する野梨子ではあるのだけど。

幼馴染ふたりの間に漂う雰囲気は、まるで、共犯者のそれだった。

 

野梨子は訝しげに悠理を見つめた。

ふと、違和感。

 

 

「悠理、あなた、ストッキングはどうしましたの?」

「え?!」

悠理はビクリと体を震わせた。

「そういえば、部室に来たときから、履いてませんでしたね」

清四郎も悠理の剥き出しの足を見つめ、首を傾げる。

 

清四郎の視線から隠すように、悠理は足を組んで、スカートの中に隠した。

「あ、暑くってさぁ。体育の時間に脱いで、そのままだよ」

わずかに頬を染め、モジモジと清四郎の視線を避ける悠理は、十分に女の子に見えた。

 

慎みはともかく、悠理にも恥じらいはあるらしい、と野梨子は安堵する。

女の素足をジロジロ見ている清四郎の方が問題だ。

 

「清四郎、あなたは・・・」

野梨子が居住まいを正してふたたび清四郎に説教を進呈しようとした、そのとき。

「秋だといってもまだまだ暑いよなっ」

悠理は落ち着かない表情で額の汗を拭った。

 

その手に持った、真っ白いパンティで。

 

「ゆ、悠理!!」

「え?・・・うぁっ」

 

悠理は自分が何で顔を拭いたのか気づき、慌てて手を離した。

ひらひらと、タマフクマークのパンティが宙を舞う。

 

 

パサリ。

 

 

 

野梨子の足元に落ちたそれが、先ほど清四郎が悠理にそっと手渡していたものの正体だと気づき。

 

 

バシンッ。

 

 

小気味の良い平手打ちの音が、部室に響いた。

 

 

「この、変態!!!」

 

 

 

 

 

野梨子がプリプリ退出したあとの部室で、清四郎は赤くなった頬を押さえた。

「・・・・・納得いきませんね。なんで僕だけ殴られるんですか」

「まぁ〜その〜・・・野梨子、潔癖だから」

「なんだって”変態”?僕がチャックを開けて野梨子に露出して見せたわけでもないのに。ノーパンは悠理の方でしょうが」

「って、誰が脱がしたんだよっ」

「お前が、ストッキングなしで挑発してくるからでしょうが」

「挑・・・って、だから、暑かったんだって!」

悠理は拾い上げたパンティで、パタパタ顔を仰ぐ。

 

「さっさと履いてくださいよ。帰ったと思った野梨子がまだ居たんですから、他の連中もやってくるかもしれません」

「お、おう」

悠理は恋人に背を向け、下着をつけようと身をかがめた。

ごそごそ履いていた悠理だったが、ふと、途中で清四郎に顔だけ向ける。

「あのさぁ、清四郎ちゃん・・・もう、しない?」

赤らんだ顔で上目遣いのこの問いに、清四郎は苦笑した。

「おや、まだ煽る気ですか?」

愛しい彼女に一歩近づき、背後から腰に手を回す。

「ち、違う、違う!」

悠理は真っ赤な顔をぶんぶん振った。

ぐいっと、下着を上まで引き上げ、履き終える。

そして、清四郎の腕から逃れるように、ぴょんと一歩離れた。

「しないんだったら、これ、ちゃんと着けて欲しいだけ!」

清四郎に向けられた自分の背を指差す。

「ああ、こっちね」

清四郎は悠理の背を指先で撫でた。

先ほど外したブラジャーのホック。野梨子と遭遇したため、中途半端に終わっていた。

 

ふたりの、体の昂ぶりも。

 

「・・・やっぱり、続きをしましょうか?」

背後から身を寄せた清四郎の右手がゆるゆると前に回る。

耳たぶを甘噛みされ、大きな手に胸を弄ばれ。

悠理はぶるんと体を震わせた。

「あん・・・」

清四郎の左手は下肢に回り、スカートを引き上げて素足を遡る。

着けたばかりの下着に、侵入する指先。

 

「濡れるといけませんから・・・もう一度脱ぎますか?」

「ん・・・もう、手遅れ、かも」

 

欲望にかすれた清四郎の声に、悠理が鼻にかかった声で答え。

首をねじった悠理の唇に、清四郎の唇が触れる――――その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリ。

 

 

「・・・なっ」

扉に手をかけたまま、硬直した魅録のピンクの髪。それよりも紅く急激に染まる顔。

 

絶句している友人の姿に、さすがの清四郎も焦ってしまった。

悠理の中に埋めていた指を慌てて引き抜き。

「指圧ですよ、指圧っ。なんだったら、あなたにもしてあげましょうか?」

 

 

ドカッ。

 

 

 

咄嗟の発言は、彼もパニックに陥ったためだったのだが。

容赦なく悠理には蹴り飛ばされ、大事なところを押さえてうずくまった清四郎に。

 

変態っ!!」

 

と捨て台詞でトドメを刺したのは、魅録だったのか、野梨子の残影だったのか――――。

 

 

 

 

 

 

ちゃんちゃん♪・・・最低・・・

 


いや、もちろん、”変態”発言は、野梨子の残像ですよ。魅録は真っ赤になって鼻血前屈みで退室。(笑)

可憐なら、「きゃーっ!こんなとこで何してんのよ、サイテー!さ、さては悠理があのソファを持ち込んだのって・・・イヤッ!あたしもう二度とあれに座らないからね!」かな。処女だし。

美童だけでしょう。「おっと、失敬。ごゆっくり♪」とにこやかに祝福してくれるのは。しかし、生徒会室の鍵を外から閉めそうだ。気を利かせてなのだけど、鍵がなく、ぶちやぶるのもはばかられて、窓から脱出する恋人たち。かなり、情けないかも。しかも悠理は”気持ち悪い”とノーパンだったり・・・やめとこう、これ以上の最低妄想。(爆)

 

ガラクタ部屋