野梨子、魅録、可憐、さしもの美童さえ、絶句。 まぁ、なにしろ。 頭でっかちなのに、こういうことにはひどく不器用な清四郎。 意地っ張りで、鈍感な悠理。 自分の気持ちにさえ気づかなかった、恋愛指数の低いふたり。 惹かれあっていることは誰の目にも明白だったにもかかわらず、彼らが奔走しなければ、思いが通じ合うことがなかっただろう。 「・・・たしかに、『おかげ』は『おかげ』だけど、さ」 ようやっと、美童が呟いた。 悠理は真っ赤。 清四郎はウインク。 「両思いになった途端、これ・・・・?」 可憐が呆れ果て、席を立った。 「せっ、清四郎!は、放せ・・・!」 「本当に、放して欲しいんですか?」 「あ、あたりまえだろっ、皆の前でこんな・・・」 凝固していた悠理が清四郎の腕の中でもがいた。 清四郎はちょっと不服そうに、眉を上げる。 「ふがっ!」
![]() もちろん、可憐と美童はもう部室から出てしまっている。 「な、な、な、な・・・・!」 いきなり唇を奪われ、目を回しかけながら悠理は恋人にふたたび抗議しようとするが、衝撃のあまり言葉は出ない。 そして、まだきつく拘束してくる腕は解かれない。 「嫌でしたか?」 悠理は、ただただぶんぶん頷く。 「僕が、嫌い?」 その言葉には、慌てて首を横に振る。 「皆の前だから?」 もう一度、必死で頷く。涙さえ目尻に溜めて。 抑えても抑えても溢れ出る、喜びと愛しさ。 清四郎は幸福な笑みを浮かべた。 「・・・ふたりきりになれば、もっとスゴイこと、してあげますよ♪」 それは、まだ想いを自覚していなかった頃から、悠理を構うのが楽しくてしかたがなかった、意地悪な男の会心の笑みなのだと、わかっていたのだけど。 「「「・・・・・・・・!!!」」」 絶句し、魂を飛ばしたのは、悠理だけではなかった。 逃げ遅れ、石と化していた野梨子と魅録は、その後数日部室には近寄らなかったとか。 (2005.9) |