その温泉旅館でも部屋は二部屋とっていたが、六人はいつものように一部屋に集まり、陽気な杯を重ねていた。 深夜12時。 「ああ、湯冷めしちゃった。もう一回温泉に浸かってくるわ」 「可憐、さっき入った大浴場は12時で男性用に替わっていますわよ。くれぐれも間違えないでくださいな」 「あ・・・とそうね。さっき男子が入ってた地下の方のお風呂だっけ。どうだった?」 「どうって。ごく普通の温泉でしたよ。大浴場はどうだったんですか?」 「うん。普通のお風呂のほかに、いろいろ温泉の種類があっておもしろかったじょ」 「ここの旅館の売りは大浴場の方だもんね。あんたたちも行ってみれば」 浴衣姿でいつにもまして艶っぽい可憐、野梨子、そして浴衣姿でも少年のような悠理に、男性陣は頷いた。 「行ってみるか」 魅録が腰を上げたのを合図に、清四郎と美童もタオルを手に取る。 結局、悠理と野梨子も可憐に付き合うことになり、六人は揃って部屋を出た。 「ここは岩盤浴があるんですか。おもしろいですね」 「こう平たい岩があってさ。その上でごろんと寝転がるだけで『入浴』ってんだから、変だよなー」 「砂風呂も砂に埋もれて『入浴』ですよ」 他愛もない話をしながら、男女先ほどとは逆の方向に分かれて手を振った。
さて、大浴場。 五右衛門風呂だの薬湯だのの各種温泉のほかに、悠理の言っていた岩盤浴のコーナーがあった。 壁の説明書きを清四郎は興味深げに熟読している。 美童と魅録はさっそく、平たい黒い岩の上に横たわった。 まずは、腹ばいで5分。最初はあたたかく感じるだけだった岩が、だんだん熱く感じられてくる。 「この姿勢で腹を温めて、あと仰向けで10分寝ればいいそうですよ」 清四郎も二人の横に寝転がる。 「結構、熱くねぇ?」 「体には良さそうだけどねぇ」 「冷えは万病の元ですからね。女性はとくに」
なにげなく言った清四郎のその言葉で、三人はふと思い至った。 ここはついさっきまで、女風呂。この岩盤にも多くの女性たちが全裸でこうして横たわっていたに違いない。 そう思うと、なにやら黒い岩盤も艶めいて見えてくる。 同宿している団体客のオバチャンバアチャンは、この際、彼らの脳裏にはない。
「・・・なんか、熱くてたまんねーぞ」 「5分間って、長いよね」 「・・・ははは。まるで、フライパンの上で焼かれているようだって悠理が言ってたのもわかりますな」 壁時計を確認して、彼らは姿勢を仰向けに変えた。
今度は背中を焼かれながら、10分間。 彼らは無言で、それぞれの思考の海を漂い始めた。
仰向けに横たわっても、つんと天を向いて盛り上がる、可憐の豊満な胸。 誇らしげにくびれたウエストに手をやって扇情的に微笑む女に、男は魅入られる。 だけど、女王然と自信に満ちて見える彼女の内面が、優しく女らしいことはわかっている。 温かく柔らかな可憐。 その肌に触れたこともないのに、彼女の温もりを感じて、魅録は身を捩って想像を払った。
野梨子の真っ白い華奢な体は、この黒い岩の上で焼かれるには、あまりに無残な気がして。 まるで、禁断の淫靡な絵画。 無垢な純白の中でほのかに色づいた紅色の唇。罪の証のような赤い部位。 思い浮かべるだけで彼女の神聖さを汚した気さえして。 己の想像を恥じて、天にさえ顔向けできず、美童は顔を伏せた。 いつも差し出された花を摘み取ることに罪悪感のひとつも感じたことのない、彼なのに。
フライパンの上で焼かれる目玉焼き――――ならぬ。 悠理のこんがり焼けた伸びやかな四肢が、脳裏に浮かんだ。 なめらかな肌に浮かんだ汗の玉が細い体を伝い落ち、金色の産毛に弾かれる。 熱さに子供っぽく顔を顰めながら、ひりひりとした感触を楽しんでいただろう。 清四郎は自分の正気を疑いつつ、うつ伏せに姿勢を変えた。 中身は猿、見た目だって少年然とした女らしさのない悠理なのに。 彼女の裸身を想像するだけで反応してしまう自分が、明晰な頭脳でも理解できなかった。
男たち三人とも、仰向け岩盤浴が10分ももたず。 妄想を打ち払ったとき、三人の視線が絡んだ。 うつ伏せになったまま、無言で薄く微笑みあう。
ジュウウと腹を焼かれながら、さりげなく腰を浮かせ。 妙な姿勢の理由は、お互い問うことはなかった――――。
(2005.11.24)
昨夜、温泉で岩盤浴して来ました。・・・って、社員旅行でナニ妄想してんだか。男たちより罪深いぞ、自分! |