にゃああ〜♪
並んで下校して来た野梨子と清四郎は、聞き覚えのある猫の声に、足を止めた。 「あら?」 大きな首輪をした毛並みの良い白猫が、菊正宗家の玄関の門をカリカリと掻いている。白鹿家で飼っている猫ではない。 「多満自慢?」 「富久娘ですよ。」 清四郎が友人の猫を抱き上げた。 野梨子は閑静な住宅地である周囲を見回す。 「悠理が来てるんでしょうか?」 しかし、どこにも黒塗りの車は見当たらない。 「違いますね。」 フクはゴロゴロと清四郎の胸に顔を擦り付ける。 清四郎は平然とフクの首輪を探った。首輪に仕込んであった一枚の紙をスルリと抜き取る。 「何をしてるんですの?」 野梨子が目を見開いて問うと、清四郎は紙を一読し、顔を顰めた。 「伝書猫ですよ。」 「え?ゆ、悠理からの手紙を運んで?!」 「見ます?」 人差し指と親指で挟んで、清四郎はあっさり紙を野梨子の前に広げた。
『 せいしろー!そりゃ、追試中に居眠っちゃったあたいも悪かったけど!そりゃ、本当にあたいはバカだけど!あんまりバカにバカって言ったら、傷つくんだぞ!しばらく口きかないかんな!! 』
びっくりマークだらけの汚い字は、署名がなくても差出人は明白だ。 清四郎は口元を歪めた笑みを浮かべ、鞄からレポート用紙を取り出してさらさらペンを走らせた。 あっという間に書上げ、折りたたんでフクの首輪に仕込む。 「へ、返事を書いたんですの?」 「口を利かないって言ってるんですから、仕方がないでしょう。」 清四郎はフクを地面に下ろした。フクは心得たもので、タッタと背を向けて走り出す。 野梨子は剣菱邸の方角へと駆けて行く猫の姿を、唖然と見送った。 「・・・まさか、あなた方、いつもこんなことを?電話かメールをすれば済むじゃありませんか。」 「なんでさっきまで部室で会ってた相手に、用事もないのにメールしなきゃならないんですか。ベタベタした友情はごめんこうむりますね。仲間とはいえ、僕らはそれほど仲が良いわけでもないし。」 「でも、文通っていうのもたいがい・・・」 野梨子の言葉の語尾が消えた。フクの去った街角に、もう一匹の猫の姿を見て絶句したのだ。 もちろん、フクではない。 清四郎はクスクス笑いながら、猫を抱き上げた。 「おや、今度はタマですか。よっぽど悠理は腹に据えかねているらしいな。まったく、あいつは怒った時だけ筆マメになる。どうせ誤字脱字だらけでしょうがね。」 返事が着く前に、悠理は第二便を送り出していたらしい。 清四郎はタマを抱いたまま門を開けた。 「しっかり赤字修正して返してやろう。じゃ、野梨子、また明日。」 2通目の手紙を読みながら、清四郎は野梨子に後ろ手をひらひら振って、家の中に消えた。
あっけに取られて立ちすくんだまま、野梨子は思い出していた。 そういえば、10億円偽装誘拐事件の時、悠理からの手紙を運んだのは悠理の愛猫だった。自宅以外の場所へ悠理がペットを連れ歩いている様子もないのに、なぜ猫たちが清四郎の家を知っていたのか、疑問に思っていたのだが。
「本人達が思っているより、ずっと仲が良いと思いますけど・・・?」 とはいえ、猫たちが運ぶ手紙は、甘さの欠片もないようだ。 ご苦労様な猫たちの往復は、その後も、剣菱家⇔菊正宗家間で見られたという。
摩訶不思議な幼馴染達の関係に、野梨子の困惑は深まるばかり。
END(2008.2.5)
不思議に思ってたんですよ。原作でどうして悠理のネコが清四郎の家を知ってたか。連れて遊びに行ってる様子はないし。 まぁでも、野梨子の初恋の回でもなにげに悠理は清四郎の家に遊びに来てましたから、六人揃ってでなくても、しょちゅうお互いの家に出入りしているのかも。(笑) |
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