ポーン。 広い部室の天井近くまで投げ上げられる、ポップコーン。
「はぐっ!」
パチパチパチ。 口でキャッチした悠理に、仲間達は拍手を送った。 「お見事!」 投げた清四郎も拍手している。
なにしろ、横っ飛びにバック転。意地悪な清四郎が右に左に投げ分けるポップコーンを、悠理は今のところひとつも落としていないのだ。
「さっきのダイビングキャッチはすごかったぜ。」 「清四郎のフェイントに引っかかりながらも、落とさないんだから。」 「食べ物に対する執着はさすがですわ。」 本気で仲間達は感心していたのだが。 「まるで犬・・・だよねぇ。」 その美童の言葉にも、深く頷いてしまった。
清四郎はクスクス笑いながら、仲間達に肩をすくめてみせる。 「棒っきれでも咥えそうですよね。」 「あにっ?」 悠理は口をもぐもぐ動かしながら、聞きとがめて眉をひそめる。 清四郎は涼しい顔で、自分の口にも一掴みポップコーンを放り上げて入れた。 悠理に対抗しているわけではないだろうが、こんなことは簡単だと言わんばかりに軽くこなす。 それがまた嫌味なまでにスマートなものだから、悠理の鼻の穴が不快気に膨らんだ。 清四郎は自分が食べ終わると、ポップコーンの袋に手を入れ、ふたたび悠理を促した。 「ほら、悠理!」 まるで餌付けのごとき所作だったが、悠理の体は悲しいかな条件反射で瞬時に反応する。 また、空中キャッチ。 「んぎゃっ?」 しかし、悠理は咥えたものを、すぐに口からペッと吐き出した。 コロコロ床を転がるのは、清四郎が掌に隠し持っていたちびた鉛筆。 「残念でした。」 ニヤリと笑う清四郎に、悠理の顔が憤怒に染まった。
「本当に、棒っきれを投げなくても・・・」 「それで、悠理も咥えちゃうんだから・・・」 仲間達は呆れ顔。
「フェイントですよ。ついに引っかかりましたね。」 そう言って、清四郎は袋に手を入れ、ふたたびポップコーンを自分の真上に軽く投げ上げた。 余裕の笑顔。彼の顔は意地悪の成功に満足して輝いている。その顔と悠理の表情とが反比例しているのも、いつものこと。 しかし、落下するポップコーンへ顔を向けた清四郎が口を開けた途端。
「ふがっ!」 一声吼えて、悠理が飛び掛った。
「っ!」 清四郎は気配を察して、瞬時に上体を反る。さすがの、反射神経。
清四郎の顔のあった場所を通過したのは、パックリ口を開けてポップコーンをキャッチした悠理の顔だった。
スタッと、清四郎のそばに着地した悠理は、どうだ、と言わんばかりに清四郎を見上げる。 この悠理の行動は予想していなかったらしい。ポップコーンが惜しいわけでもなかろうに、清四郎は口惜しげな顔をした。 「・・・ったく、動物的瞬発力ですな。だけど、僕が避けなければ、あやうく衝突事故ですよ。」 「衝突しねーよ。おまえは避けたじゃん。」 悠理は勝利にキラキラ顔を輝かせ、ふふん、と目を細める。 「避けましたけどね、もう少しで顔と顔がぶつかるところだった。僕が口をちょっとでも尖らせていたら、唇が触れてしまいましたよ。」 「はぁ?」 状況を足りない頭で思い描いているのか、悠理は眉をコイル巻き。 仲間達も顔を見合わせる。 普通、ポップコーンを口で受けようとするときに、唇を尖らせる人間はいないだろう。 アーンと開けるだけならまだしも、悠理のように歯を剥き出すのもどうかと思うが。
清四郎は悠理にポップコーンの袋を手渡した。苦笑しつつポンポン頭を撫でる。 「やれやれ。おまえの食べ物への執着には恐れ入る。僕が先にポップコーンを口に入れていても、奪い取られそうだな。」 「ったりまえだろー!舌突っ込んででも食ってやるわい!」 それは、負けず嫌いゆえか、ポップコーンへの執着か。
清四郎に渡された大袋を抱えてはぐはぐ食べ始めた悠理と、その悠理をからかいながら小突いている清四郎。
その関係は、摩訶不思議とはいえ、犬と飼い主を一歩もでない。 しかし、呆れ果てる気持ちは、仲間達となんら変わることがないとはいえ。 ふたりが交わした言葉の状況を思い描くと、顔が赤らんでしまうのを野梨子は制することができなかった。
END
おまぬけ小ネタとはいえ、いつにもましてくだらん・・・(汗) 春の陽気に誘われて、頭になんか湧いたようです〜〜!ごめんあそばせ!(脱兎) |
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