放課後の校庭で走る君を見た。

 

金色の日差しが、トラックに影を作る。ゆっくりと、夕暮れが空の色を変えてゆく。

 

放課後の校庭を一人走る彼女。
いつしか、見入っている自分に気がついた。まるで、魅入られた者のように。

しなやかな細い足で、力強く駈ける。
栗色の髪が向かい風にあおられ。
むき出しの白い額と、懸命な瞳まで、校舎の中の僕にも見えた。

僕の視線に気がついたのか、悠理と目があった。



「清四郎…?」

夕日に映えるつややかな髪。立ち止まった細身のシルエット。
眩しさに、目を細め呟く。
いつだって、犬だ猿だと、彼女のことを罵倒してばかりの僕だけど。
このとき、思わず口をついて出た言葉は、いつもとは違っていた。



「悠理、おまえはまるで、小鹿か駿馬のようだ・・・・」
そう、猿でも犬でもなく。

 

抑えきれない感嘆の言葉。

素直な、気持ちだったのだ。

「…なんだとーっ」
驚異的な聴力で聞き取った悠理は、ぷんすか怒りだした。



「今、あたいのこと、”
馬鹿”っつったなーっ!」

――――おや、わかりましたか。
だって、体育祭の終わった後で、トラック走ってなんになるというんだ?

「くっそ〜!次は負けないじょ〜、清四郎〜!」

汚れた体操着のまま地団太踏む彼女は、リレーでの完敗がよほど悔しかったらしい。
「ハイハイ、また来年」

僕は笑顔で手を振って答えた。
来年には、卒業なんだけどね。

 

ま、悠理の馬鹿は死ぬまで治りそうにないから、卒業しても楽しませてくれそうだ。

我知らず、僕は微笑んでいた。

目を細めたのは、眩しかったから。

夕日が――――悠理が。

 

「笑ってられるのも、いまのうちだ〜!」

悠理の怒鳴り声も、耳に心地良い。真横でがなりたてられるよりは。

 

グランド上の悠理と、校舎の中の僕。

声は聴こえるものの、隔たった距離。

埃まみれのグラウンドで、負けず嫌いの馬鹿の相手をする気はないけれど。

今あの単細胞の頭の中を占めているのは、僕のことだ。

 

ま、どんなことでも、悠理に負けてやる気はない。それこそ、初めて出逢った時以来。 

 

夕刻の風が窓から廊下を吹き抜ける。砂埃を避けて、僕は悠理に背を向けて歩き出した。

悠理の視線が背中に突き刺さる。僕は、ほくそ笑んだ。

 

毎度おなじみ、優越感。心地良い、この距離感。

 


――――いつまでも、変わりそうにない悠理を、見ていたい。

そんな想いがどこから来るのか、まだ認める気はないのだけれど。


 

 

 

2006.7.25 改稿


タイトルはもちろんお歌「初恋」からでーすv ん?若い方は知らない?

携帯操作の練習でポチポチ外出中に打った短文を、改稿いたしました。ですので、初出は携帯BBS。

これのせいで、パケ代定額に変えました。(笑)

ネット環境にない帰省中など、またチャレンジしてみます。

 

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