ひねくれ男の告白は

 

「おまえに言い寄る男なんてね、ほとんどが金目当てですよ。」

 

 

「うぬぬぬ〜?!」

差し入れの菓子を頬張っていた悠理は、友人の言葉に唸った。

 

茜色の西日の中。

ふたりきりの部室に満ちるのは、剣呑な空気。

 

悠理の食べこぼした粉をテーブルの上からはたき落としつつ、清四郎は不快気に眉を寄せた。

「だいたい、黙って立ってれば美形かもしれないが、基本男顔の猿面だし、1分も会話すれば知性教養皆無なのは隠しようもありません。」

「さ、猿面だとう?!」

知性教養の部分は認めつつも、悠理は額に血管を浮き出させた。

「意地汚いどころの騒ぎじゃない人類とも思えない喰いっぷりを目の当たりにしたら、たいていの男は引きます。」

机上を清四郎が片付けたにもかかわらず、それでもなおも菓子袋に手を伸ばそうとした悠理の前から、清四郎は菓子の包みを取り上げた。

「これ12袋入りの大箱なのに、もう半数は開けてるじゃないですか。いい加減にしなさい。だいたい、粉が飛んで迷惑です。」

「返せ、あたいのだ!」

清四郎は、ふう、とため息をついた。

「金持ちのくせにセコイは、手癖は悪いは、足癖も悪いは、霊感強くてトラブルメーカーだわ、取り柄といえば、猿並の運動神経と、虫歯もない健康体くらいですよね。」

「むきーっっ!!」

悠理は歯を剥いて拳を固め、友人に飛び掛った。

 

 

*****

 

 

「・・・・ちょっと、もうあたし黙って聞いていられないわ。あの男、ひっぱたいてきていい?!」

「待ってくださいな、可憐。悠理自身が報復しますわよ。」

「あ、でも殴りかかっても、あっさり避けられてるぜ。」

「清四郎も、殴られてやりゃあいいのにね。まぁ、言ってることはあながち間違ってはいないけど。」

 

 

*****

 

 

「くっそー、避けるな!おまえ、あたいに喧嘩売ってんだろ!」

拳の次は蹴りを悠理は繰り出したが、あいにく喧嘩自慢の悠理も武道の天才清四郎の敵ではない。

悠理の無駄な攻撃をあざ笑うように、清四郎は唇の端を歪めた。

 

「おまえに喧嘩を売って、なんの得になるんです?僕は、忠告してやっているんですよ。おまえが珍しくもラブレターを男からもらったって聞いたので。」

 

清四郎の言葉に心当たりがなく、ん?と悠理は、動きを止めたが、清四郎がまだ手に持っている菓子の袋を見て、合点がいった。

そういえば、先ほど部室の前で菓子と共にメッセージカードを渡された。

清四郎はその時居なかったし、悠理はカードなど読まなかったが、可憐が先ほどカードを読んで“これ、男子からじゃない!珍しいわねー!”

と言っていたことを思い出したのだ。

 

「あこがれています、って下級生から菓子もらっただけだ!金目当てとか関係ないだろ!」

清四郎はニヤリと笑った。

「ああ、なんだ。いつもの女子からのと大差ないですね。じゃ、その男はゲイの気があるんですな。おまえはそこいらの男よりも雄々しいですからね。」

「ぎぃぃ〜!ホモにモテるのも、剣菱目当てにあたいと婚約したのも、おまえの方じゃんか!!」

清四郎の瞳がわずかに陰る。

あの騒動は、悠理にとっては大迷惑極まりなかったが、清四郎にとっても痛恨事だったのだ。

 

「・・・僕は金目当てだったんじゃありませんよ。」

 

 

*****

 

 

「大差ないですわねぇ?」

「まぁ、あんときはね。だから、清四郎もリベンジしてるんじゃないか?」

「あれで?ぜんぜんフォローになってないじゃないの!」

 

 

*****

 

 

夕焼けが、窓の外を紅く染める。

部室内もオレンジの光で満たされる。

 

清四郎は、コホンと咳をついた。

「とにかく。金目当てでもなく、おまえのことを好きだっていう男は、かなりの酔狂か博愛者ですね、僕以外は。言い寄る男にほいほいついて行ったりなんかしてはいけません。かなりの確率で、マニアックな変態かもしれませんので。」

わずかに清四郎の顔が紅に染まっているように見えて。

悠理は慄いた。

「へ、変態って・・・」

「動物フェチとか、マゾヒストとか。」

清四郎はニヤリと笑う。いつもの、意地悪な顔だった。

「悪かったな!」

 

もちろん、噴飯やる方ない悠理は、あっさり聞き逃した。

清四郎が言った、「僕以外は」という言葉を。

 

 

*****

 

 

「美童、あんたでしょ、清四郎が悠理に告白するから、隠れてようって言ったの。あれのどこがよ!」

 

薄いドアに張り付き、聞き耳を立て覗いていた、仲間たちも。

 

 

「あの調子では、告白する前に嫌われますわよ。」

「いや、清四郎が悠理にボロカスの口を利くのは今更だろうぜ。」

「・・・変態、とは言わないまでも、しかし、まぁ、清四郎も酔狂者であることは確かだよねぇ。」

 

 

頭から湯気を出して怒り狂う悠理を、楽しげに見つめる清四郎に、仲間たちは処置ナシ、と呆れ顔。

 

 

 

秋の夕焼け空に、カァ、とカラスが一声鳴いた。

彼の告白を聴いていたのは、カラスだけ。

 

 

 

 

END(2007.10)

 


すみません・・・”ひねくれ男の祟り”継続中。

「ラブレター」完結編で清四郎にプロポーズをさせてみたのですが、あんなんなってしまいましたので、告白を書いてみたら、こんなんに。(大汗)

いくらなんでも連続してこんなのアップしたくなかったので、埋め込んでいたんですが、いつまでたっても祟りは去らず。お祓いしなきゃ〜!

 

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