恋薬

 

――――なんかおかしいと思ってたんだ。
間違いない、これはアレだ。アレに違いない。
くそぉ、清四郎のやつ、許せない。



「ひどいじょ!清四郎〜!」
部室に飛び込んで、あいつの顔を見るなり、叫んでいた。


「は?いきなりなんですか」

部屋には他に仲間の姿はない。居残り補習させられていたあたいを待っていたわけでもないだろうけど。

清四郎は新聞をたたみながら、首をかしげている。

勢いのまま怒鳴りつけたものの。

いつも通りの涼しげな顔を見てると、憤りのあまり泣けてきた。

いくらあたいが丈夫だっていっても、酷すぎる。あたいのこと、ペット扱いしてるのは分かってたけど、あんまりだ。


「悠理?どうしたんだ」
「う…うえっ…」

 

悔しくて、悲しくて。
えぐえぐ泣きじゃくったら、清四郎は驚いてあたいの頭を撫でた。

優しいおっきな手。
あたいは、ますます泣けてきた。
「いったい、どうしたんだ?」

覗きこんでくる黒い瞳から顔を反らせ、清四郎の手を振り払った。
こんなの、もう耐えられない。

「…あたいは、おまえのオモチャじゃない!」

あたいの激しい口調に、清四郎は息を飲む。


「おまえ、あたいに一服盛っただろ!」
「…は?」
「とぼけんな!だって、おまえ見てると心臓ばくばくするし、頭ん中カーッて熱くなるし、喉がカラカラになるし!こんなの、絶対おかしいよ!なんか、ヘンな薬の実験台にしてんだろ〜っ!」

あたいの涙声の抗議に、清四郎は唖然と無言。

夕焼けが室内を赤く染める。窓の外でカラスが、カァと鳴いた。

だけど、清四郎は一言も発しない。身じろぎもせず立っている。

あたいは、ただ泣きじゃくることしかできなかった。

 

どれくらい、そうしていたのか。


「…僕にだけか?悠理」
観念したのか、清四郎は静かな声で訊いてきた。

「ドキドキして、体が熱くなる?催淫剤を飲んだみたいに?」
実験結果が気になるのか、清四郎は次々に質問してくる。
自白も同然。

「…解毒剤、ちょうだいよ…」
悲しくて苦しくて。
あたいは、それだけ言うのがやっとだった。

馬鹿なあたいと、頭の良すぎる清四郎。全然釣り合わない二人。それでも、友達だと思ってたのに。

「…こんなの、ひどいよ…」
実験動物にされるなんて。

「悠理…」
泣き崩れかけたあたいを、清四郎は抱きしめた。
「僕は、何も盛ってないんですけどね…」
ギュッと抱きしめられて、ますます苦しくなったのに、清四郎はこの期に及んでシラを切ろうとする。

「…でも、特効薬は分かります」

そう言って。
清四郎はあたいの唇をふさいだ。

―――清四郎の、嘘つき。
くちづけは、ちっとも解毒剤にはならなかった。
あいつがあたいに与えた薬の。

してやったり、の、満足そうな表情でそうと知れる。
きっと新開発の自信作。

―――効き目抜群の、惚れ薬。

 





(2006.7.16改稿9.26)

 


携帯小説第二段です。短編を書くのが苦手な私には、携帯で小説を打つのは携帯操作以外にも作文の良い練習になります。だらだら長く書けないもん。(笑)

前後左右(?)なしの、ワンシーン短編に、また挑戦してみたいです。

 

 

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