秋の予感
秋の感触を肌で感じる、衣替え。
「おはよっ!」 「お早うございます。」 「おす」 「おっはよー!」
衣替えは、変わらないと思われた日常の中で、季節の移り変わりを意識させてくれる。 変わらないと思われた、彼らの関係も。
無個性なはずの同じ制服を着た同年輩の少女達の中、彼女だけが特別に輝いて見えた。
「どぉ?冬服も可愛いから好きよ、この制服。あたしがやっぱり一番似合うわね〜♪」 いつものように華やかな笑みを振りまく可憐の、意外な一面を知ったのは夏の終わり。 大胆な水着で遊びなれた女を装いながら、泡沫に消えた恋に涙する。 いたいけな可憐は、耳を傾けると波の音のする貝殻のようだ。 秋となったいま、潮騒がまだ胸から去らないのは、魅録だけかもしれないが。
「まぁ、美童、どうなさって?」 夏の砂浜に身を焼き目を奪われて来た、浮気な美童なのに。 小首を傾げる野梨子は、まるで白い砂浜に一粒落ちた真珠のように見えた。 大切に大切に育まれた真珠。 無造作に触れてはいけない珠だとわかっていたからこそ、これまで気づかないふりをして来たのか。 彼女に惹かれる、この自然な感情に。
「なんだよ、おまえら、悪いもんでも拾い食いしたみたいな顔してさ?」 呆然と言葉もない男たちに、悠理は怪訝顔。
御令嬢御子息揃いの同窓生たちの中でも一番裕福な財閥令嬢に違いない悠理は、 送迎車の中でも何か食べてたのか、口をもぐもぐ動かしてご満悦。 ぴょんぴょん跳ね放題の髪、豊かな表情。清楚なデザインの制服さえ、彼女が着ると躍動的に見える。 彼女はまるで、牧場に放たれた野生動物。羊の群れの中の肉食獣。 静寂と平穏に投げ込まれたカンシャク玉。
「・・・おまえじゃあるまいし、拾い食いなんかするもんですか。下品な連想ですな」 彼は憎まれ口に動揺する胸中を隠す。彼女に乱された心を。 「天高く馬肥ゆる秋、とはいっても年中食欲ばかりの悠理には関係ないんだからな。たいがいにしてくださいよ。」 欺くのは自分をも。 キラキラ生気に満ちたその瞳の輝きに惹かれている事実を認めない。 高すぎるプライドが邪魔をして気づけない。 今は、まだ。
だけど。 季節は流れ、変わってゆく。 ゆっくりと、満ちてゆく。
恋が芽生えたのはそれ以前であっても、熟し深まるのは秋。 物思う秋。
約一名以外は、自覚しつつある秋。 女の子バージョンも書いてみようかしらん♪と思ったけど、悠理はどうせ食べ物のことしか考えてないよな。(笑)
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