努力、根性、義理人情

 

美童が狙っていたミス一年の美少女を、魅録があっさり振った、午後のこと。

 

「美童も女ったらしを自認するなら、もう少し粘ってみるべきですね。」

部室で新聞を読みながら、清四郎が冷たく言い放った。美童にねちねちいびられていた魅録への助け舟だったのだが。

 

美童はむっと唇を尖らせた。

「だってさー、魅録に憧れてるっていう娘に、いまさらアタックしてもな。だって、僕達ってタイプ反対だろう?」

「まぁ、確かにね。美童がプレイボーイで鳴らしてるのは、ルックスに騙されてその気になりそうな娘を落としてるだけですもんね〜。」

可憐がふふんと嘲笑する。

「可憐だって、似たようなもんだろ、スケベ親父専門のくせに!」

「なぁんですってぇ!」

ガタンと可憐は席を立った。

 

似たもの同士二人が角を突き合せるのに、野梨子は呆れ顔。

魅録は美童の愚痴から解放されて、こっそり安堵。

悠理は最初から話などろくに聞かずにオヤツ摂取に全力集中。

清四郎はバサリと新聞を畳んだ。

 

「恋した相手が、たまたま自分のことが好みで即両思い、なんて幸運、そうはないでしょうが。本当に好きな相手ならば、好かれたくて努力するでしょう?美童は根性が足りませんよ。」

「僕の場合、人種的特性もあるからね。金髪碧眼が苦手な娘もいるんだから、仕方がないじゃないか。」

 

清四郎は苦いものを含んだように顔を顰めた。

「世の中には、才気溢れる美青年よりも、マッチョな筋肉マンが好きな女だっていますしねぇ・・・・。」

誰よ、美青年?と、可憐と野梨子が顔を見合わせる。

 

清四郎は遠い目。

「欲しいものを手に入れるために必要なのは知恵と知識と思っていたが、腕力も必要だと思い知らされましたよ。」

なんの話だ?と、魅録と美童が顔を見合わせた。

 

憂いを込めた眼差しで、清四郎は大きなため息。

「努力、根性、不屈、が最重要の三原則だと、学びましたね。もっとも、それで腕力を鍛えてみても、相手は色気より食い気・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

はぁぁぁ、とあまりに深い嘆息に、仲間達は一斉に視線を一人の人物に向けた。

 

その視線の先では、悠理が煎餅を齧りながら呟いた。

「なんか知らないけど、結構清四郎も苦労してるんだなぁ。」

一応、話を聞いていたらしい。

 

はっ、と清四郎は顔色を変えた。

悠理に向って、両手を顔の前でぶんぶん振って否定する。

「な、何を言ってるんですか!僕の話じゃありませんよ!一般論です、一般論!」

 

 

 

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅぅぅぅ〜ん。」」」」

 

仲間達は雄弁な笑みを浮かべ、ガタンと席を立った。

「えーと、俺、そろそろ帰るぜ。」

「私もそろそろ失礼しますわ。あ、清四郎はゆっくりなさって。可憐、一緒にお買い物でもしませんこと?」

「いいわね、行きましょう。」

「なに、なに?なんか食いに行くんだったら、あたいも行く!」

席を立とうとする悠理の肩を、魅録が押えて席に戻した。

「おまえは残ってろ。」

「そうよ、あたしと野梨子はエステに行くのよ。あんたには用がないでしょ。」

「悠理は、”色気より食い気”だからね。」

クスクス笑いながら、美童が清四郎の肩を叩く。

 

「ま、健闘を祈るよ。努力、するんだろ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

清四郎は苦虫を噛み潰し、先ほどから真っ赤に染まったままの顔で、仲間達を見送った。

 

「健闘?清四郎、なんか戦うの?」

一人、話の見えない悠理は首を傾げる。

さんざん食い散らかした上、もう一袋スナック菓子に手を伸ばした悠理に、清四郎は呆れ顔で微笑んだ。

「ま・・・これも、自分との闘いですかねぇ。」

パシリと悠理の手を弾くのを忘れずに。

 

 

いつの間にやら、二人きりの午後。

仲間達の心遣いむなしく、清四郎の努力はいまだ実を結ぶ気配はなかった。

それでも、彼は諦めるつもりもないのだった。

 

努力、根性、義理人情――――必要な三原則は、揃っているのだし。

 

 

 

 

(2007.1.13)

 

 

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