すべてのものにあなたを思う

 

猿山の前で、清四郎はクスクス一人で笑っている。

周囲の親子連れが、ぎょっとして清四郎と距離を取る。

彼の挙動不審はここに至って、最高潮に達したようだ。

 

「絶対、一番動物園を楽しんでいるのは、清四郎よねぇ。」

「ずっと、あの調子だな。」

「一人でほくそ笑んでいる様子は、気持ち悪いですわ。」

「誰のことを考えているかは、一目瞭然なんだけどね。」

 

案の定、清四郎は笑いながら、ちょいちょいと手招き。うんざり顔で、悠理が応じる。

ふわふわの悠理の髪をひと撫でし、清四郎は猿山を指差した。

指の先には、毛づくろい中の小猿。その茶色の毛は悠理の髪に酷似していた。

悠理は頬を膨らませた。拳骨を振り上げて、清四郎を打とうとするが、あっさり避けられている。

それももう、今日は何度も繰り返している光景だ。

 

次に清四郎は隣のゾウの柵の前で、腹を抱え笑いだした。

ゾウは鼻を振り上げながら、大量のキャベツとリンゴを消費している。

たまたまリンゴを頬張っていた悠理は、清四郎が手招く前に彼の意を悟り、齧りかけのリンゴを投げつけた。

清四郎はニッと笑って、そのリンゴを受け取る。一口齧ると、悠理に感謝の一礼。

自分が投げつけたくせに、悠理は惜しそうな顔をした。

 

快晴の休日。

動物園に行きたい、と主張したのは悠理だった。

『ジャンケンに負けたんだから、仕方ありませんね。』と興味なさげに、清四郎は言っていたが。

きっと、彼の希望の博物館に行ったとしても、同じ結果に違いない。

ゾウがマンモスの化石に替わるだけ。

 

 

「・・・・なんかあたし、あいつらと一緒にいるの、馬鹿らしくなったんだけど。」

「私は入園して早々、清四郎がペリカンを指さして『悠理みたいですよねぇ』と言ったときから、そう思ってますわ。」

「ペンギン見てもラッコ見ても、言ってたよな。」

「そこらあたりはいいけど、アレはまずいよ、豚とかカバとかヒヒとか。そんなのに似てるって言われたら、悠理でなくても怒るよ。清四郎って、女心をわかってないよね。」

 

水牛の柵の前で悠理の飛び蹴りをひらりとかわし、清四郎は楽しげに闘牛士を気取っている。また悠理がお約束通りの反応をするものだから、すっかり彼らの回りには見物人の輪ができていた。

さりげなくその輪から距離を取り、仲間達は顔を見合わせため息をついた。

 

「「「「と、いうより、自覚してないのが問題かも?」」」」

 

 

 

――――すべてのものに、あなたを想う。

その理由は、ひとつだけ。

 

 

 

2007.2.5

 


タイトルはリナパークの曲なんですが、大好きな歌なので、いつかこれで長篇シリアスを書こう!と思ってたのに・・・たのに、こんな馬鹿ネタに使っちゃった。(笑)

 

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