「清四郎、あ、あ、あ、あ・い・・」 悠理は真っ赤な顔でドモった。 「あ、アイシテ・・・・痛っ」 清四郎は涙目で口を押さえた悠理にクスクス笑った。 「何、舌噛んでるんですか。」 「ら、らって・・・こんら、こんなこっぱずかしいこと言えるかっ!」 「いつも言ってるじゃないですか、魅録には。」 部室には燦々と春の陽が降り注ぐ。 しかし、清四郎のすだれ髪の下の影は濃い。目だけは不穏な光を宿し、唇は笑みの形にゆがんでいた。 「誰のおかげで補習を免れたんですか?いやぁ、僕も今回はかなり苦労しましたよ。ねぎらいの言葉くらい、サラッと言えないもんですかね。」 「言ったじゃないか、さっき!“清四郎ちゃん、ありがと〜♪”って!!」 「“ありがと〜”より、“アイシテル〜”の方が、最大級でしょう。」
悠理は拳を握り締め、プルプル震えた。 「んでも、そんな録音機セットされて、言えるかよ!」 清四郎は手にした集音マイクを顔の前で振った。 「なにしろ、随分面倒を見てやっているにもかかわらず、悠理が僕に感謝の意を表するなんて、大変珍しいですからね。証拠を残さないと。」 悠理はうぬぬと唸る。 「〜〜その録音機をどけてくれたら、何度でも言ってやらぁ!」 清四郎の目がキラリと光った。 「・・・・何度でも?」 マイクはテーブルにコトリと置かれる。 「では、衆人環視ではナンですので、あちらで。」 「ほえっ?!」 清四郎は素早く悠理の腰に手を回し、ひょいと抱え上げる。 そして初めてテーブルの仲間たちに顔を向けた。 「じゃ、皆さん、後ほど。」 そのまま悠理を片手でぶら下げ、清四郎は隣室に消える。 生徒会室と繋がる、仮眠室に。 唖然呆然、ふたりのやりとりの一部始終を目にしてしまった仲間達は。 「・・・・・悠理を助けに行かなくって、大丈夫かしら・・・・・・。」 可憐は赤面しつつ、閉まった扉を不安げに見る。 「・・・仮眠室に連れ込んだからって、まさかヘンなことはしないだろ・・・・?」 自信なげに答えるのは魅録。 「・・・“後ほど”って言ってましたから、私達がここに居ることを認識してますでしょう・・・・。」 野梨子の言葉も語尾が消える。 「認識してても、全然平気なところが怖いよね、清四郎って。」 美童があっさりと断定した。 「ま、でも、僕らには平気で“アイシテル〜♪”を大安売りする悠理が、清四郎に言おうとすると真っ赤になっちゃうんだから、放っておいてもいいんじゃない?清四郎もあんなに悠理からの言葉を聞きたがるなんて、可愛いところもあるじゃないか。」
「「「どーこーがー・・・」」」
にこやかな美童の言葉に、他の三人はテーブル上に放置された録音機を見ながら眉を顰めた。
しかし、誰一人、閉じられた扉に近寄ろうとはしなかった。 仮眠室からは、ボソボソガタガタ小さな物音が聞こえてきたものの、心配された怒号や悲鳴は響かず。
案外と、彼の望みはささやかなものだったらしい。 うららかな春の午後。 願うのは、ただ、あなたからの言葉。 聴かせて欲しい――――愛の言葉を。
(2007.4.10) 前回の小ネタ、「すべてのものにあなたを思う」と同じく、仲間達の前で繰り広げられるお馬鹿ラブ。今度はさすがに、自覚ありかな?いや、しかし、清四郎が自覚してたら、ささやかな望みですまないかしらん?仮眠室でのガタガタ音の解釈で、違ってきそうだ。(笑) |
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