「ハ、僕が恋愛?」

馬鹿にしたように鼻で笑う清四郎にもメゲず、可憐は嬉々としてめくっていた雑誌を友人の前に広げた。

「だからこそ、興味あるんじゃないの。万が一ってこともあるかもよ。なにしろこれは一目惚れ度チェックなの♪」

 

 

いつか君に一目惚れ

 

 

昼食後のまったりとした生徒会室。閑をもてあましていた他のメンバーも、興味引かれて雑誌と清四郎の顔を見比べる。

 

可憐は問1の風景画を指し示した。

「この絵の中じゃ、どれが一番心惹かれる?」

「女性誌の心理テストですね。そんなものなんの参考にもなりませんよ。」

「いいじゃない、選んでよ。心理テストで自分でも気づかない一面がわかるかもよ。」

 

「そうだよね。この中で清四郎だけはどんな恋愛するのか、予想つかないなぁ。」

「あら、美童、私たちのことはわかるっていうんですの?」

「まぁね。だいたい、この中で恋愛経験がないのって、清四郎と悠理だけだし。」

 

経験がないと断言され、プライドに抵触したのか清四郎は片眉を上げる。

しかし反論はせず、肩を竦めた。

 

「まったく・・・・こんなものアテになりませんよ。」

清四郎はぶつぶつ言いながら、まるきり適当な所作で風景画をひとつ選ぶ。

「うん、で、次は?」

観念したのか清四郎は可憐に促されるまま数問の質問に答え、診断のページにまで行き着いた。

 

「んまっ!」

可憐の目が三日月形に笑んだ。

 

「清四郎、あんたの一目惚れ度はなんと90%!『怒涛の一目惚れ体質』ですって!」

 

皆も雑誌を覗き込んで確認した。

「あらあら・・・見事な高確率ですわね。『ある日突然、人生観が変わるほどの衝撃の出逢いが訪れ恋に落ちる』そうですわ。ほほほ、ご愁傷様。」

「清四郎の人生観が一変するのかよ。想像できねぇな。」

「偏差値は高くても恋愛指数は低いからなぁ。」

「ってか、清四郎がオンナ見て目をハートマークにしてるなんて、気持ちワリーじょ。」

意外な結果に、仲間達は大受け。

清四郎は大きくため息をついた。

 

「随分ですね。まぁ、あり得ませんから、ご安心ください。」

 

「あら、わからないわよ。今はあり得ないと思うけれど、それが一変するほどの出逢いが一目惚れなんだから!」

「『一目惚れ体質』かぁ。確かに、もっとも清四郎に遠い言葉に思えるよね。だから、おもしろいんだけど。清四郎が恋に落ちるところを見てみたいよな。」

美童の言葉に、仲間達は頷いた。

 

「よっしゃ、見てやろー!」

顔を輝かせた悠理はスックと立ち上がり、イシシとほくそ笑む。

「清四郎、早く一目惚れしろ!」

悠理は腰に手をあて、ビシッと清四郎に人差し指を突きつけた。

 

清四郎は呆れ顔で悠理にデコピン。

「痛っ」

「人をネタにして遊ぶな。だいたい、おまえはどうなんです?」

「あたい?」

清四郎は悠理の目の前に、雑誌をバサリと置き、顎で見ろとうながした。

 

可憐が頬肘をついて苦笑する。

「ああ、悠理の恋愛パターンね・・・。なんかそれは想像つく気もするけど。」

「そうですか?」

咄嗟に逃げようとする悠理の背後に回り、清四郎は悠理の肩に両手を乗せて座らせ、雑誌に顔を向けさせた。

「かろうじて哺乳類に分類されるとはいえ、悠理が恋愛ができるほど進化するまでの道程は、シーラカンスよりも遠い気もしますがね。」

「・・・・あたいのこと、もしかして馬鹿にしてる?」

「おや、わかったんですか。かしこい、かしこい。」

笑顔の清四郎に頭を撫でられても、当然ながら悠理は憮然としている。

 

「で、悠理はどれなの?」

「んと、こっち。」

悠理が選んだ回答を見て可憐は矢印を辿り、診断結果を確認した。

 

「・・・・フ、やっぱりね。」

可憐はさもありなん、と微笑した。

「どうだったんですか?」

興味なさそうな悠理の頭に手を置いたまま、清四郎が雑誌を覗き込む。

 

「悠理は一目惚れ度が最低ラインの20%『友達から恋愛に発展タイプ』ね。『淋しがり屋でスキンシップに弱く、身近な友人だと思っていた相手に気づけば心惹かれている』んですって。」

 

「どこが“やっぱり”、なんだよ?」

悠理が不服そうに口を尖らせる。

「あんたの場合、他に考えられないじゃない。」

断定的な可憐の言葉を聞いて、悠理の両側に座っていた魅録と美童が距離を取るように体を反らせた。

「身近な友人かよ、おいおい・・・」

「僕に惚れてもいいけど、体力持つかなぁ。」

笑いながら席を立った二人に、悠理は歯を剥き出し睨む。

「って、いきなり逃げんな!誰がおまえらに惚れるかよ!」

「ドウドウ、落ち着け。威嚇するんじゃない。」

清四郎は立ち上がりかけた悠理の肩に手を置き、再び座らせた。

 

「やっぱり動物ですな。診断結果は、『餌付けとお手で懐く』ってことでしょう?」

「ガウッ」

悠理は頭上の清四郎に顔を向け吼えた。

「人のこと言えんのかよ!『一目惚れ体質』ってのもなんかドーブツっぽいぞ!」

「人間は社会的動物ですからね。恋愛感情などはその最たるものです。恋愛感情もなく、スキンシップで発情するのこそが動物でしょう。ま、おまえらしいといえば確かにそうか。」

「にゃにい・・・・」

ああ言えばこう言う清四郎にやりこめられるのは毎度のこととはいえ。悠理はいつもよりも強気に言い放った。

「いつか、おまえが怒涛の一目惚れするのを、楽しみに見届けてやっからな!張り付いて監視してやる!見逃すもんか!!」

「いつか?」

顔面に『あり得ない』と大書きした清四郎は悠理の言葉に軽く応じた。

「おまえに発情期・・・もとい、恋の季節が来るのも、楽しみに待っていますよ。」

 

 

 

 

その後。

『一目惚れ体質』のはずの清四郎の一目惚れシーンを、仲間達が目撃することはついになかった。

結局、あてにならない心理テストだと、皆はすぐに忘れてしまった。

出逢いは、ずいぶん昔にすでに起こっていたのだと、誰もが気づかなかったから。おそらくは、当の本人までもが。

 

人生を変えるほどの衝撃の出逢い。今の彼を形成した、幼い日の邂逅。

それは、恋愛指数が低い男の、生涯一度の一目惚れ。

 

 

 

そして、悠理に恋の季節が訪れたのかどうかは――――内緒。

 

 

 

 2007.6.10 END

 


このふたり、無自覚のまんまどこまでも一緒にいそうだなぁ・・・・なんて、常日頃思っております。怒涛の恋の自覚なし。(笑)

先日会社でやらされた『一目惚れ度チェック』。私は清四郎ちゃん並の高確率ざんした。やはり魂は元南中の番長か?!顔面キックされた中坊に、ぞっこんLOVEvv(←馬鹿)

 

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