母の溜息

 

            by ましまろさま

 

 

「ん〜、これどうかな?」

「・・・知らないわよ。」

 

 注目されるのに慣れきっている彼は周囲の女性が飛ばすハートマークに気付き

もしない。

 いや、気付いていてあえて無視か・・・。

 

「冷たいな〜。僕一応お客さんだよ?」

 

 ジュエリーAKIでピアスを手に美童は片方の眉と口角を上げる。

 プレゼントに欲しい物ランキングトップはアクセサリー。

 普段のデートには花束やお菓子と決めているが誕生日だけは別だ。     

 

 ―自分だけの特別な日だもん。格別なプレゼントでなきゃね―

 

 よ〜く解かる。

 彼以外が言った台詞なら。

 いつも複数の恋人が存在するくせに。

 特別な日のありがたみも人数で割れば10%もないだろう。

 

「あんたの彼女の容姿を知ってたらアドバイスも出来るけど、知らないんだもの」

 

 知りたくもないけどと心の中で付け加える。

 

「大体毎回ピアスって芸がないじゃないの。あの清四郎ですら悠理にネックレス

を注文したのよ?」

「そっか、2人にとって恋人として初めてのクリスマスだもんね。」

 

 清四郎が悠理に選んだのはダイヤモンドのネックレス。

 0,65カラットDカラーVVS1の1粒がきらりと光る。

 ダイヤモンドには数年前発表された”リリーカット”が施されている。

 恋人に愛を誓うのと同時に未来の義母に媚を売るとは・・・。

 さすが腹黒い。

 

「立つ鳥跡を濁さずっての?後生大事にされない物がいいんだよ。」

「呆れた・・・別れる事前提にプレゼントだなんて!」

 

 複数の恋人たちに好意を持っているのは確かだ。

 ピアスならば贈る方も贈られる方も気楽なアイテムだ。

 彼自身、情のこもったプレゼントは苦手だ。

 恋人たちにリクエストを聞かれた時は上手に逸らすことにしている。

 ― キスと笑顔かな ―

 形どころか記憶にも残さずに済むから。

 彼の本能がその女じゃないと告げているから。

 

「ネックレスの事、悠理に内緒ね?」

「もちろん」

 

 女のハートを蕩かす事を知っていて、その笑顔はズルイ。 

 ブルートパーズとパールを上品に組み合わせたピアスを手に自分じゃない女の

もとに行ってしまった。

 

 

 

 

「可憐さんのお友達、いつみても素敵ですね?」

 

 ハートマークの眼をしたスタッフの声に眉を寄せる。

 

「女好きじゃなけりゃ〜ね。唯一の欠点のおかげで台無しなのよ。」

 

 娘の台詞に母はそっと溜息をつく。

 

 ―馬鹿な子ね―

 

 プレーボーイじゃなければ理想の相手だと言ってるようなものじゃないの。

 何故、彼が毎回この店を利用していると思っているのかしら?

 彼が決してダイヤとルビーを女性に選ばない事を知っているのかしら?

 花束もお菓子も使用するホテルまでも全てこの近辺だ。

 誰に何をアピールしているのか気付かないのだろうか?

 まあ、彼自身も気付いてないようだけど。 

 

 ―馬鹿な子たち―

 

 恋愛の達人なんて気取ってるから初歩でつまずくのよ。

 

 美童の出て行ったドアを眺め続ける娘を見て母はそっと首を振った。

 

 

                         おしまい

 

 

 

リリーカットは実在します。高さが出るのでリングよりペンダントとして使った

方がいいと思います。

 

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