an ovulatory phase2.

                By 麗様

 

 

「はい、もしもし?」

「あ、清四郎? あたい。今どこ?」

 

悠理からの電話を受けたのは、東村寺で寒稽古を終え、汗だくの胴着を脱いで着替えようとしていた時だった。

 

「東村寺です。久しぶりに、和尚に稽古をつけてもらってたんですよ」

携帯を耳と肩の間に挟み、タオルで胸、脇と汗を拭いつつ答える。

「ふーん、そか。なぁ……」

普段とは違う、甘えるような悠理の声音。僕の頭に、今月のカレンダーが浮かんだ。

 

「今から、来れない?」

 

 

……やっぱり。

そろそろだとは思っていたが、今日は月に一度のあの日だったのか。

今日はこれから家に帰って、のんびりと読みかけの本を読んで過ごそうと思っていたのだが、「月に一度のお勤め」をしに行かなければならないようだ。

軽く溜息が出るが、これは悠理の飼い主である僕の義務だ。誰かに代わってもらうわけにもいかないのだから、仕方がない。

 

 

「…いいですけど。稽古で汗をかいたので、一度うちに戻ってシャワーを浴びたいんですが」

東村寺には、シャワーなどという気の利いたものはないし、汗臭い身体で恋人でもない女性を抱くのはためらわれる。

「うちでシャワー浴びればいいじゃん。風呂の湯、入れとくし」

僕の意向など無視し、あっけらかんと悠理は言う。早く来い、ということか。

 

「…わかりました。今から行きますよ」

「ん、待ってる♪」

語尾にハートマークがついているかのような悠理の声に、僕は観念して電話を切った。

 

 

 

今日は、月に一度の悠理の発情日である。

 

 

 

******

 

 

 

「遅かったじゃん、せーしろぉ」

 

部屋に入ると、悠理が跳ねるように僕のそばに来た。

普段、僕が家庭教師としてこの部屋を訪れる時には、「早いな、もう来たのかよ? あたいまだ、おやつ食べ終わってないんだけど」などと不機嫌そうに言うくせに、えらい違いである。

違いついでに、悠理は僕の肩に手を置き、胸に顔を摺り寄せてきた。

 

「あ、なんか…汗の匂い…」

悠理はくんくんと鼻を蠢かせた。

「汗臭いでしょう? すみませんが、シャワーをお借りしますね」

犬のように胸から脇へと鼻を押し付けてくる悠理の肩をつかんで身体から離し、僕は部屋に備え付けられているバスルームへと向かった。

 

 

悠理とは長い付き合いだが、この部屋のバスルームを使わせてもらうのは初めてである。

なんとなく、二人が今まで過ごしてきた歳月に感慨を覚えながら、大きな洗面化粧台が備えられた脱衣所で、僕はポロシャツとズボンを脱いだ。

バスルーム自体は淡いピンクのタイルで、ところどころに薔薇の花模様が描かれている。これはもちろん悠理の趣味ではなく、百合子おばさんの趣味だろう。

ゆったりとしたバスタブには、すでに湯がなみなみと張られていたので、僕は軽くかけ湯をしてから、バスタブに身を沈めた。

 

久しぶりの稽古で疲れた身体に、湯は熱くもなくぬるくもなく心地よい。ほぉと溜息が出た。

僕は目を閉じて、ぐっと足を伸ばした。このまま、眠ってしまいたい気分だ。

だがそんな僕の気分をぶち壊すかのように、コンコンとドアがノックされた。

 

「なぁ、あたいも入っていい?」

ひょこんと、悠理が顔を覗かせる。目が爛々と燃えているような気がする。

どうやら、先ほどかいだ僕の汗の匂いに、情欲を掻き立てられてしまったらしい。

 

「…どうぞ」

風呂ぐらいはゆっくり一人で入らせて欲しいと思ったが、ここに来ている目的は悠理の情欲を冷ます為なのだから、仕方がない。

悠理は嬉しそうにニカッと笑うと、着ている物をぱっぱと脱ぎ捨て、バスタブに跳び込んできた。

バシャン!と溢れた湯に顔を直撃されそうになり、僕は顔をしかめた。

「なんですか、行儀の悪い。もっと静かに…」

説教しかけた僕の胸に、すり、と悠理がなついてきた。

 

「いいな、おまえの胸。厚くって…」

細い腕を僕の首に回しながら、悠理は大きく息を吸い込んだ。

僕の足の上に悠理が乗り、身体をぴたりと寄せてくる。

潤んだ目で僕をうっとりと見上げる悠理は、なんというか……僕の目から見ても充分にかわいらしい。

柔らかな下腹が下腹部に押し付けられると、男の欲望に火がつくのは不可抗力というもの。

僕は悠理の腰に手を回し、ぐっと引き寄せた。下肢と下肢が、さらに密着する。

 

「あ…」

悠理の唇から、吐息が漏れる。その息を吸い取るように、唇を合わせ、舌を差し入れた。

すぐに悠理が応えてくる。

「ん…ん……」

甘えるように鼻にかかった声をあげながら、舌を絡ませ、吸いあげてくる。

 

 

僕の胸の奥がずき、と痛む。

それは、恋人同士でもないのに身体を合わせる事に対する罪悪感からだ。

しばらく前から、毎月こうやって身体を合わせる度に感じるようになった痛み。

 

 

「悠理…」

まるで赤ん坊が乳を吸うように、悠理は無心に僕の唇を吸い、ゆっくりと腰を僕の身体に擦り付けている。

「悠理、ここじゃダメですよ。ベットで……」

「何で?」

あえぐように僕が言うと、悠理もあえぐような声で聞いた。

「何でって……」

 

発情期ということは、悠理の身体は今、最も妊娠しやすい状態だということだ。

避妊具無しで行為をするわけにはいかない。

それは悠理のお相手をする際の、僕に課せられた義務である。欲望に流されるわけにはいかない。

 

僕がそのことを言いかけると、悠理はすぐに了解したのか、「じゃ、取って来るよ!」と、びしょ濡れの身体のままバスルームから飛び出していった。

悠理が部屋の中を駆けていく音を聞きながら、僕はぼんやりと開けっ放しのドアを眺めていた。

間も無く戻ってくる足音が聞こえ、悠理は「はい!」と避妊具をバスタブのふちに置くと、またバシャン!と音を立ててバスタブに跳び込んできた。

 

「これで、いいだろ?」

小首をかしげて僕を見つめ、首に手を回してくる。

当然、悠理の腰はまた僕の下腹部に押し付けられる。

 

しょうがない。

僕は苦笑しながら悠理の腰を引き寄せて彼女の唇を吸い、乳房を少し乱暴なくらいに揉みしだいた。

「あ、や…ふぅん」

悠理は甘えた声を出し、瞳をうるませて僕を見上げた。

 

なんてかわいい顔をするんだろう。こいつは、こんな時。

好きでもない男に、ただ身の内の烈情を冷ます為だけに抱かれているというのに。

誤解しそうになる。こんな表情を見ると。

 

もやもやと沸き起こる怒りにも似た感情にまかせて、乳房を揉む力を緩めぬまま、もう片方の乳房に吸い付いた。

激しく舐め、吸い、硬く立ち上がった乳首に歯を立てた。

「あぁっ!やぁっ!」

悠理が首を振りながら仰け反り、湯面が波立つ。

僕は構わずに唇で乳首を挟んで吸いながら引っぱり、片方の手を悠理の足の間へと移動させた。

 

 

すでにお湯ではないもので潤みきっている所に、ゆっくりと指を滑らせる。

ここは優しく。羽毛で撫でるように。

「あ、ああっ…ん……んんっ」

あえぐ悠理の顔が見たくて、乳首から唇を離した。

悠理はとろんとした目で僕を見ると、ふらりと僕の首筋に頭を寄せてきた。

僕の首筋に、悠理の吐息がかかる。

僕は悠理の髪に何度かキスしながら、手の動きを早めていく。

やがて悠理の背が一瞬強張り、切なげな息と共にくたりと身体の力が抜けた。

 

「…満足、しました?」

手の動きを止めて、意地悪に聞いてやる。

「や…もっと…」

悠理は僕の首筋に顔を埋めたまま、いやいやをするように首を振った。

僕はわざと溜息をつき、悠理の肩を掴んで脇へ退かせると、起き上がってバスタブの縁に腰掛けた。

 

「清四郎?」

悠理が不安そうに僕の名を呼ぶ。

僕は彼女と目を合わせずに、避妊具を取り上げると無言でそれを着けた。

発情していても、そういう生々しい光景は恥ずかしいのか、悠理は顔を背けた。

その頬を両手で挟んで仰向かせると、一瞬、悠理の目に恐れが浮かんだ。

 

「咥えろ」と、言ってやりたい心を抑えて、僕は悠理に口づけた。

悠理はほっとしたように、口づけに応えてくる。

僕は悠理の身体を引き上げ、膝にまたがらせた。

 

指で潤んだ部分を開きながら、いきり立った僕自身を押し込む。

「あ、はぁっ!」

深く深く、奥底まで押し入れると、悠理は僕の背に腕を回して抱きついてきた。

ゆっくりと、二人同じリズムで腰を動かす。

「ああ、悠理…」

僕は彼女の腰を抱き、下肢がより密着するように引き寄せた。

 

生温かく、包み込まれる感覚。

悠理の中に入った時から、もやもやとした感情が消え、代わりに痺れるような快感が湧いてくる。

月に一度だけ、味わうことが出来る至上の快楽。

それは悠理にとっても、僕にとっても。

 

互いのリズムが速度を増す。

腰を摺り寄せ、ぶつけ合いながら、二人して快楽の頂点へと登りつめていく。

悠理の声が高くなり、僕を強く引き寄せるのを合図に、僕は自分を解放した。

熱いほとばしりが、薄いゴムの膜に当たって僕を濡らす。

「あ…あ……」

悠理が、快感の名残の息を吐き、僕にぐったりと身体を預けてきた。

その身体を抱きしめ、僕も大きく息を吐き出した。

 

 

 

*****

 

 

 

快楽から冷めると、悠理はいつも少しバツの悪そうな顔をする。

その表情は、さっきまでの快楽に溺れていた女とは別人のようだ。

 

「あの。ありがと、な」

そう言いながら、僕の胸を軽く押して離れると、そそくさと身体を洗ってバスルームを出て行った。

僕は溜息をついてその後姿を見送り、バスタブに深く身体を沈めた。

 

「せーしろー、コーヒー飲む〜?」

間延びした悠理の声が聞こえる。

「ええ、お願いします」

そう答えると、すっかりぬるくなってしまった湯に、くしゃみが一つ出た。

 

 

 

いったいいつまで、僕達はこの行為を続けるのだろう。

胸にまた、もやもやとした感情が湧き上がって来る。

悠理を満たし、僕も満たされる。心まで―――

その為には、今のままではいけないような、そんな気がする。

 

かといって、どうすればいいのか。

また次の発情日にも、僕は黙って悠理の誘いに乗るのだろう。

たぶん。

 

 

 

 

 


2008冬のおまつりの最後を飾った排卵期続編でーす♪

「エロ書くの久々じゃない? どこまで、どういう描写で書いていいものやら…さじ加減がわからない!」とか本人は叫んでましたが。さすがのラブエロ職人、本領発揮!(笑) ちょいコメディタッチながら、切なく甘いエロエロにトロトロです〜vvってか、私の好物の風呂場エッチをありがとおー!

 

 

 

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