鐘が鳴る。

二人で勢いよく打ち鳴らすのは、幸せの鐘。

本当は、過去の煩悩を払うための鐘なのだけど。

 

「むぐっ?!」

突然、唇をふさがれた瞬間、新しい年が明けた。

 

 

 ハッピー♪ベル

                       byフロ

 

「これ、いっぺん突きたかったんだよね〜♪」

大晦日の深夜。剣菱家の菩提寺にやってきた6人組。

一般参列者に開放された除夜の鐘突きを、並んで待つ。

「美童、一緒に突こうか♪おまえ背が高いから、あたい持ち上げて上の方にぶら下がらせてよ。」

ご機嫌悠理の言葉に、美童はふるふる首を振る。

「冗談!勘弁して!」

「悠理、ブランコじゃないのよ!」

「悠理を抑えられるのは清四郎だけですわ。ペアは清四郎と組んでくださいな。」

野梨子はそう言って、可憐の腕を取り梵鐘に向かう。

「ちぇーっ」

悠理が口を尖らせている間に、野梨子と可憐が太い綱を揺らして鐘を鳴らした。

「次ですよ。悠理、行きましょうか。」

清四郎が悠理を促す。

「おう!」

元気よく答えて、ふと悠理は笑ってしまった。

いつの間にか、清四郎に呼ばれたら条件反射的に応じてしまう。犬と飼い主あつかいされても、これでは仕方ないだろう。

思えば、彼と野梨子の二人を長い間天敵のように感じていたのに。

意地悪な優等生は、いつの間にか誰よりも頼りになる仲間となっていた。

 

清四郎の広い背中を追い、鐘楼を駆け上がる。

鐘の前でスタンバった悠理は、清四郎の前でバンザイの姿勢をとった。

「??なんです?」

「だから、抱っこ。」

悠理はまだブランコをあきらめてはいなかった。

「・・・フッ」

しかし、もちろん清四郎が悠理の思惑通りしてくれるわけはなかった。

友人は鼻でせせら嗤い、バンザイ体勢をスルーして綱を悠理の手に握らせる。

「ほら、せーので揺らしますよ。」

ま、いっか、と悠理も清四郎と一緒に綱を握って揺らした。

ふたりの手と手が重なる。

背後から、大きな清四郎に抱えられるような体勢は、暖かくて。

真冬の深夜であることを忘れさせる。

「ふふふ。」

なんとなく、笑みが漏れた。

やっぱり、抱っこして持ち上げてくれたらいいのにな、なんてらちもないことを悠理が考えていると。

「・・・・悠理、なにかこれって、二人の初めての共同作業、って感じがしません?」

背後から清四郎が耳元に囁いた。

「へ?初めてって・・・何度も共同作業してるじゃん、やくざやマフィア相手に・・・・」

と、悠理が首を傾げた途端。

身をかがめた清四郎の影が、悠理の視界をふさいだ。

視界だけでなく、奪われたのは唇。

 

手のひらからスルスルと抜けた綱は、梵鐘を打ち鳴らす。

 

ゴーーーーーーン・・・・・・

 

唇に触れた温かで柔らかなそれは、そっと離れた。

ゆっくりと、名残を惜しむように。

 

「・・・・な、な、な・・・・・・」

「いえ、なんとなく、つい。」

「つ、ついって!」

悠理の脳内は??マークでグルグル。目を白黒させる悠理に向かって、清四郎はにっこり微笑んだ。

「来年も再来年も、悠理とはこうして共同作業するのか・・・・・と思うと楽しくなってしまってね。」

「きょ、共同作業って、鐘突きかよ?!」 

あまりにも平然とした友人の態度。

動揺する自分の方が悪いのか、と悠理が混乱していると。

 

「悠理、清四郎、どうしたの?」

先に鐘を打ち終わった可憐と野梨子がふたりを呼んだ。

鐘楼の下で待つ友人達には、梵鐘にさえぎられてふたりの姿は見えなかったようだ。

「いえ、なんでもありません。煩悩も払いましたよ。」

清四郎に背中をポンとたたかれ、悠理も頭グルグルのまま鐘楼から降りた。

やっぱり、清四郎の態度は自然体。動揺しまくりの自分の方が変な気もする。

「煩悩払ったって?108個も?」

何も知らない可憐が、清四郎の言葉尻を取ってケラケラ笑った。

「いえ、ひとつだけです。」

ハハハ、と笑う友人の軽快な声を聞いて、いまだ茫然自失の悠理の背中をぞくぞくと震えが走った。

やっぱり、なにかがおかしい。

 

「お、おまえの煩悩ってどんなだ〜〜っ???」

 

思わず裏返った声で叫んだ悠理に、清四郎はにやりと目を細めた。

 

「・・・・ふふ。知りたいですか?あと107個。教えるのはやぶさかではありませんが♪」

 

それは、悠理の天敵の顔。意地悪な悪魔の笑み。今では誰より頼りになる友人だとわかっているけれど。

悠理は口元を押さえて、清四郎から飛んで離れた。

 

「煩悩退散、怨敵調伏〜〜!」

 

悠理がわめきながら九字を切っても、清四郎の笑みは曇らない。

「怨敵とは、酷いですねぇ。悠理には明るい未来が見えないんですか?きっと僕らは幸せな毎日を送れますよ。うん、そうだ。これまでどうして気づかなかったんだろう・・・」

清四郎は遠い目をして独り言のように口の中で呟いている。

何を考えているのか、うっとりと甘い笑顔がかえって怖い。

彼の脳内光景が悠理に見えるはずもなかったが、背中のぞくぞくはグレードアップ。胸まで響いて脈打ち始める。

それは予感か、本能の警鐘か。

落ち着かないけれど、不快な感覚じゃない。どうしてか、なんてわからないけど。

 

「きっと、来年も良い年になりますわよ。」

幼なじみの言葉をどう解釈したのか、野梨子が請け負った。

「あら、もう今年よね!」

可憐も笑顔だ。

新しい年が、いつの間にか明けていた。

 

「明けましておめでとう。今年も・・・・・いや、これからもよろしく、悠理。」

清四郎が珍しく殊勝にペコリと頭を下げる。

「あ・・・いや、ども、こちらこそ。」

思わず悠理もペコリと応じた。だから、条件反射なのだ。

まだ温もりの残る唇の感触と、得体の知れない胸の予感に戸惑いながら。

 

 

そして。

鐘楼の上では、男二人が戸惑っていた。

清四郎と悠理の後ろに並んでいた美童と魅録は、目撃した行為よりも、その後の共同作業を男同士でする気になれず、鐘突きを辞退した。

 

除夜の鐘が、新年のまだ明けぬ空に鳴り響く。

来るべき未来。

いつか、幸せの鐘を鳴らすふたりを、予感しながら。

 

 

 

END

 


明けましておめでとうございます!清四郎くんだけでなく私も除夜の鐘では煩悩は払えそうにありません。今年もまだまだ妄想三昧♪

 

 

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背景:Abundant shin様