「 つ な ぐ 」

          by 千尋様

 

 

 東京に初雪が降りた、その日の夕暮れ時。

 家まで歩いて帰る、と言った悠理は、冬だというのに、手袋を持って来てはいなかった。今朝は車で登校してきたのだから、こいつが今、手袋を所持していないのも頷ける事だ。

 僕は一つため息をついた後、手袋を片方、悠理に差し出した。


「僕のを貸してあげます。外はかなり冷え込んでますよ。いくらおまえが丈夫だからと言っても、風邪をひかれちゃ堪らない」

「貸してくれんのは、ありがたいけどさ。おまえ、右手しか貸してくれないのかよ」

「片手だけで充分でしょう」


コートを着て、左手に手袋をはめながら、僕は悠理に視線を流す。何かが解せないといった風な顔をしたまま、悠理はそれでも、フード付きのジャケットをはおり、右手に手袋をはめていた。


「あのさ。指先が余るんだけど」

「サイズかあわないのは当たり前です。僕の方が手が大きいんですから」


手袋をしていない素手のままの悠理の左手を、僕自身の右手の上にのせる。それをそのまま包み込むようにして指を絡めると、驚いたような表情をして、悠理が僕を見上げてきた。少し赤くなっている彼女の顔が、愛らしく見える。


「ほら。片手だけで充分でしょう?」


 素手と素手で繋いだままの手を、悠理の手ごと僕のコートのポケットに突っ込んで、僕は笑った。







−了−

 

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背景:夢幻華亭様