ふたりして歩いてたら、一本の大きな桜の木があった。
「白いピンクの世界」
そう言ったら、
「薄紅の世界、だ」
って。
なんだよ、いいじゃん別に。 一緒の意味だろ。
どうせあたいにはそんなキレーなヒョーゲンなんてできない。
桜は、桜。
ホントいうと、あんまりこんな桜は好きじゃない。 花見して騒ぐようないっぱいの桜ならいいけど、
こんな、大きな桜の木は、あの日を思い出すから。
はじめて逢った、あの日を。
「思い出しますね、こんな桜を見ていると」
「なにを・・・・」
「お前とはじめて逢った日を、ですよ」
思い出すなよ、あんな日を。 あたいは忘れたい日なんだから。
「あの日、お前に逢えてよかった」
そんな目 で見るから、余計に忘れたくなるのに。
「そんな顔するな」
なんでこいつは、いつもあたいのこと、見透かすんだよ。 あたいの思ったことバレバレ・・・。
むかつく。
「あの桜を見に行きましょうか」
「どの桜」
「お前が嫌いな、あの桜」
・・・・・・笑うな。
「僕たちの、はじまりの場所、ですよ」
"だから、嫌いになるんじゃない"なんて。
そんなこと言われたら、嫌いになれなくなる。
「あの日があったから、今こうしていられるんだ」
強い眼。
大好きな、眼。
「きっともう満開でしょうね」
あたい、「うん」なんて言ってないのに、結局行くことになっちゃって。 でも、こうして手を繋いでくれてるから。
いつのまにか、こんなにも強く大きくなっちゃった手で。
だから、仕方なく。
まだ、こんな桜は好きになれない。
でも、こうして隣にいられるなら、笑って眺めてみるのも悪くないかもしれない。
end.
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