君に桜吹雪を
BY
さる様
「おわっ!来た来た!待ってました〜っ!」
清四郎は、文庫本から顔をあげ、目の前で奇声をあげる恋人を恨みがましい目でじとっとにらむと、ため息をついた。
たっぷりと夕食をとり、悠理の部屋に二人で引き取ってから早一時間。
いつもなら、とっくに一緒にベッドに沈んでいるかシャワーを浴びている頃合いである。
部屋に入ってすぐ、背後から抱きしめたら、悠理は甘い吐息をもらした。
さらに手を服に忍び込ませ、肌身をまさぐると悠理の瞳が潤んだ。 その表情に欲情し、清四郎は愛しい女の身体を素早くベッドに運んでのしかかった。
髪や額、頬に軽く唇を落としながら、悠理のシャツのボタンに手をかける。 「やん・・・」
悠理は恥ずかしげに身をくねらせ、顔を背ける。 それが、ますます清四郎をそそった。
もう、辛抱たまらずシャツの前を引きちぎろうとしたそのとき。
「あーっ!」 いきなり、悠理が叫んだ。
びくん、と清四郎の手が止まる。 悠理の目は、ベッドサイドにおかれた時計に向けられている。
「な、なんですか、いきなり?驚くじゃないですか・・・」 言いかける清四郎の胸を押し退け、悠理が身を起こす。
「ちょ、悠理、いったい・・・」 肩にかけた手は振り払われ、悠理はするりと清四郎の下から抜け出した。
「そーだよ、今日はアレじゃん。あー、もう始まるじゃんかよ」 悠理がテレビに突進する。
ベッドに取り残された清四郎は、四つんばいのまま呆然と恋人の背中を見つめた。
そんな清四郎を一顧だにすることなく、悠理は嬉々としてリモコンでテレビを点けた。
ぱっと画面が明るくなり、音楽と共に桜の映像が映し出される。 そして、でかでかとタイトルが浮かび上がった。 「遠山の@さん」
「間に合ったー。最初から見てないと、なんだかわかんなくなっちゃうんだよな」 どっかと、ソファに腰を下ろすと、ようやく清四郎を振り返り、
「ね、清四郎も一緒に見ようよ」
清四郎は、むっとしながら無様な自分の体勢を立て直すと、ベッドから降りて悠理の元に歩み寄る。
「悠理、そんなのどうでもいいじゃないですか」 すでに盛り上がった下半身は悠理を求めてやまない。
ソファに座った悠理の正面から、抱きしめようとした。 が。 「おいっ、見えないじゃんかよ、どいてよ、そこ」
差し伸べた手は振り払われ、ぐいっと腰を押されて横にどかされた。 それでもあきらめきれず、横から悠理の頬に手を伸ばそうとした。
その手を、ぎゅっとつかんだ悠理が上目遣いに拗ねた表情で言った。
「今日は、最終回なんだ。あたい、すんごい楽しみにしてたんだもん。見せてくれたっていいだろ。ね、せいしろ?」
悠理のおねだりをはねつけられたことなどない。 清四郎は、ため息を吐きつつ、それに屈した。
それから小一時間。
場面が変わるごとに一喜一憂する悠理の横で、清四郎はやむなく読みたくもない文庫本に目を落とす羽目に陥った。
ちらちらと悠理に目をやるが、彼女はこちらを見向きもしない。 ときに涙ぐみ、拳を握り締め、頬を上気させ。
コロコロと表情を変える恋人は愛らしくて、幾度となく襲い掛かりたい気分に駆られたが、悠理の拒絶を思うと手が出せない。
清四郎の心中と下半身に悶々とした鬱憤が蓄積されていった。
ようやく、話はクライマックスに差し掛かった。
シラをきる悪党どもに、裃の片肌脱いだ@さんのタンカが炸裂する。
「おうおう、
この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえぜ!この遠山の桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろぃ!」
「かっこい〜っ!」
悠理は拍手喝采。 うっとりと、画面に目を注ぐ。 「いいよなー。この桜吹雪。かっこいー。おうおう、この桜吹雪に・・・」
片肌脱ぐ動作を真似る悠理に、1時間あまり忍耐を強いられた清四郎の理性がぷつりと切れた。 「つけてあげましょうか?」
「へ?」 ようやく悠理は、据わった目をした恋人の様子に気づいた。 「な、なに?清四郎ちゃん、ど、どしたの?」
「だ・か・ら、桜吹雪、つけてあげましょうかって言ってるんですよ」 「つ、つけてあげるって、ど・・・うぎゃあああ!」
ソファから抱き上げられ、ベッドにぽいっと投げ出されて悠理はあせった。 「な、な、何すんの、清四郎ちゃん?まだ、終わってな・・・」
「このあとは、@さんが、優しいこといって、町人姿にもどるだけだ。何度も見てるんだからもういいでしょう」
「だ、だからって、なにすんの、せ、せいしろ?」 慌てふためく悠理をよそに、清四郎はてきぱきと彼女の服を剥いでいく。 「あっ!」
首筋を強く吸われて、悠理が声をあげた。 「ほら、1枚」 「な、なにが・・・」 「ほら、2枚」
ブラを押し下げられ、清四郎の唇が愛らしい膨らみの上部に吸い付く。 「あ、あうん・・・じゃなくて、あっ、ああっ、なに2枚って・・・」
「花びらですよ、ここも、ほら」 今度は肩のうえ。強く吸われた場所が、赤く色づいていく。 「悠理の望みどおり、桜吹雪つけてあげますから」
顔を覗き込み、うれしそうに笑う清四郎に、悠理は慄いた。 「い、いや、そーいうことじゃ、あん、あっ、ああん・・」
次々に刻まれていく花びらに、悠理はもう言葉もない。
「なんてったって、”桜吹雪”ですからねえ。ちょっとやそっとつけたくらいじゃ、足りないでしょう。ほら、ほら、隠し彫りもしましょうか?」
「・・・んっ。そんなとこ、やっ、ああん、あん。あうっ、」
清四郎の唇が、悠理の肌に刻んだ桜吹雪。
それが、悠理の憧れのお茶目なお奉行様と、同じ場所だけで済まなかったのは言うまでもない。
ヲワリ
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