事件 〜おまけ〜

  BY のりりん様




手をつなぎバスルームのドアをくぐった2人。
なんともやわらかい表情の清四郎は、離しずらそうに悠理の手を離し、バスタブの蛇口をひねりに行った。
白い湯気が上がる。
温かい空気があたりを包みはじめる。
その姿を後ろから見ていた悠理が、ふと壁の鏡へと目を移した。
そこに映っているのは  まだ赤みの残る瞼。
目元へと運んだ手には、傷と腫れがはっきりと残っている。
覗き込んだ鏡の奥にさっきの出来事が過ぎりそうになる。
そんな自分が嫌で思わず目を閉じた。
きつく
だが そんな不安の中、浮かんだのはやわらかい清四郎の笑顔だった。
(よし!大丈夫だ。)
ゆっくりと目を開けた。
そんな彼女を戻ってきた彼が腕の中へと閉じ込めた。
ふわりと背中から抱きしめられる。
清四郎の大きな手が悠理の傷ついた小さな手を包む。
そのままゆっくりと持ち上げられた手は彼の顔の前で止まった。
目を閉じた彼がその手に唇を寄せた。
静かな 口付け

温もりが伝わる
思いが流れ込む

悠理はじっとそれを見ていた。
清四郎は目を開けると、さっき見た少し照れたような笑みを見せた。
その顔に悠理の顔が赤く染まった。

嬉しいような
恥かしいような

なんともいえない気持ちになって
そんな彼女に声が降ってきた。
「入りましょうか。」
そういって鏡越しにこちらを見るその視線に悠理の顔が一層赤みを増した。
「せ、せーしろ、やっぱ あたいさぁ、さ、先に飯にしようかな。ふ、風呂はその後でもいいかなぁ〜 なんて。だ、だからお前先入れよ。あ、あたいは外で待ってっからさ、な。」
腕の中、頬を赤く染め目をあわすこともためらいながら話す悠理を見て、清四郎から再び笑みが零れた。
恥かしそうに俯いていた彼女は気付かなかったけれど。
彼が彼女の耳元に唇を寄せた。
「 ・・・ 分かりました。」
そういった後、悠理が視線を向けると鏡に映る彼は受話器へと手を伸ばしていた。
「えっ?何すんの、せーしろ。」
彼女には答えることもなく彼はそれに話し始めた。
「清四郎です。夕食は悠理と部屋で食べることにしましたので、申し訳ありませんがこちらへ用意していただけますか。 ・・・はい、宜しくお願いします。」
そういって受話器を戻した彼が今度はいつものような笑顔で悠理に微笑んだ。
「これでお風呂に入ってる間に夕食の用意が出来ます。それだったら悠理が一人で待たなくてもいいでしょ。」
ニッコリと笑顔を向ける清四郎に、彼女はしばし固まった。
「さ、入りますよ。」
そういわれ、彼の手が悠理のジーンズのボタンへと掛かる。
「わぁっ、せーしろ!お前、何すんだよ!!」
「何って、脱がせてあげようかと。」
「ちょっ、ちょっと待て!服くらい自分で脱げるわい!!」
「じゃ、入るんですね。」
そういって笑顔を向ける彼に言葉が詰まった。
「う〜〜〜。」
唸る彼女。
「そんなに腫れた手をしてて何をいってるんですか。」
そういいながら彼の手が悠理のパーカーの裾に掛かった。
「はい、バンザイ。」
「ぬわっ、何がバンザイだ!」
そんな彼女の抵抗空しく、パーカーの裾は上へ上へと上がっていく。
「こら、やめろっ!せーしろーー!!」
パーカーの中から聞こえる叫び声。
しかし、その声がはっきりと聞こえるようになったとき、彼女の白い肌は夜の空気に触れた。
そのまま清四郎の手はジーンズのボタンへと掛かる。
後ろからまわした手が器用にファスナーを下げていく。
「自、自分で脱げるって言ってんだろうがー!!この、変態ー!」
そう悠理が叫んだときには彼女のジーンズは床へと落ちたところだった。
下着姿にされ赤く頬を染めた悠理が、とうとう怒鳴った。
「あ、あたい ばっか脱がせてないで お、お前も脱げー!!」
そんな彼女に噴出しながら清四郎が答えた。
「おや、脱がせてくれないんですか?」
意地悪な色を含んだ瞳が光ったように見えた。
悠理は音を立てそうな勢いで耳まで真っ赤に染まった。
「だ、だれがだっ!自分で脱げ!!!」
「はいはい、分かりました。」
声を出して笑いながら、清四郎は自分も服を床へと落としていった。
鍛え上げられた体が露になる。
(お前はいいよな、お前は・・・)
溜息をつきそうになる悠理に彼の手がのびてきた。
あっという間に自分の用意を済ませた清四郎が、今度は残っていた悠理の下着のホックを外したのだ。
思わず両手で押さえて胸元を隠す。
その隙に、清四郎は彼女のもう一つの下着を床へと落とした。
「うわぁっ!」
そう叫んだ彼女の両手を後ろから包み込むように掴む。
「往生際が悪いですよ、悠理。」
そういって最後の一枚をからだから外すと、その手をとったままバスルームへと入っていった。
立ち上る湯気が2人を包む。
悠理はシャワーの暖かな湯を頭から勢いよくかけた。
心地よさに思わず目を瞑る。
目を開け、雫を拭っている隙にシャワーは清四郎の手へと奪われていった。
同じように彼も頭から湯を浴びる。
気持ち良さそうに。
滴り落ちる雫を手で拭った彼が彼女へと視線を移した。
大きな手が手招きをしている。
「ん?」
首をかしげながら近づいた彼女の髪に冷たいものが落ちてきた。
そのまま髪を撫ぜられる。
徐々に泡立っていくそれに漸くシャンプーだと気が付いた。
「ちょっ、せーしろ!」
そこまで言いかけて抵抗の言葉は消えてしまった。
湯気に曇る鏡にほんのり映る彼の顔が少年のように嬉しそうだったから。
悠理の口元がフッと笑った。
一緒に入るのははじめてではない。
しかし慣れるというほどの回数も数えてはいない。
でも、彼のあの顔にはかなわない。
悠理は抵抗を諦めた。
その間も彼の長い指は彼女のやわらかい髪を洗っている。
それをシャワーで綺麗に流した後、今度は悠理が彼にいった。
「お前も洗ってやる、ここ座ってみ。」
その言葉に少々どきりとしたものの、清四郎は素直に腰をおろした。
彼女の指が彼の髪をかき乱す。
泡立つ髪に嬉しそうな声が聞こえる。
「どうだ?気持ちいいか?」 「ええ。」 そう返事をした彼に満足したのか、悠理は泡でいっぱいになった彼の髪を流し始めた。
「よし、出来た♪」
にこやかにそう言った彼女を今度は彼が捕まえた。
その手を掴み彼の前へと座らせる。
清四郎の手に持ったスポンジが悠理の肌の上を滑る。
泡のドレスを纏っていく彼女は無邪気に笑っている。
「せいしろ、くすぐったいじょっ。」
身をよじり、彼の手から逃げるように。
そんな彼女は知らない。
その姿が、どれほど男をそそるのか。
それもこんな夜なら尚更だ。
清四郎の手からスポンジが落ちた。
大きな手は、愛しい彼女を抱きしめた。
「おいっ、ちょっ・・・」
そう抵抗の言葉を出そうとして振り向いた悠理の唇は、彼のそれでふさがれた。

甘く、激しい口付け

彼女の思考が奪われていく。
悠理の滑らかな肌が、一層赤みを増す。
その上を彼の大きな手が這いまわり絡みつく。
ふくらみを捕らえ、うなじをかきあげ唇を離れた彼の舌が纏わり付く。
「・・・ ぃ・・や せ・・ぃ・・・しろ・・」
そんな彼女の声に男のからだは一層熱を増していく。
火照る体
彼女に狂っていく自分
触れ合う素肌がそれを一層加速させていく。
離したくない
離れられない
鏡越しに見えた艶を帯びた表情の悠理に酔わされていく。
だが、そんな彼女をゆっくりと味わう余裕など、どこにもない。
清四郎は、その華奢な体を抱き寄せ、自分自身をすべりこませた。
「・・・うっ・・・く・・ぁあ・・・」
悠理の声がバスルームに響く。
清四郎が彼女を抱きしめる。
すがりつくように
包み込むように
繋がっても尚一層求める心と体
唇を奪いながらも欲望は激しさを増す。
もっと もっと
彼女が欲しいと
彼女の白い指が彼の肌をきつく掴んだ。
飛び散る雫
堪えきれない声
悠理が唇から男の名を零した。
答えるように清四郎が彼女の名を呼び、2人は溶けていった。


少し湯船の中でそのからだを抱きしめた後、立つことの出来ない彼女を抱き上げて、バスルームを後にした。
パウダールームの床にバスタオルを引き、そっと彼女を降ろす。
まるで壊れ物を扱うように
とても大事そうに
ピンクに色づいた彼女の肌が水を弾く
表情にはまだけだるさを残しながら
瞳を閉じ、まだ少し荒い呼吸の悠理を愛しげな視線が包む。
その髪からしたたる雫を拭い、からだを拭いてやる。
されるがままになっている悠理の手に赤い血が滲んでいるのが見えた。
傷口が開いてしまったようだ。
清四郎の眉間に僅かに皺がよった。
だが、零れそうになった溜息は飲み込んだ。
悠理の傷は自分の所為。
彼女のからだを拭き終わった清四郎は、その傷口へと唇を寄せた。
滲む赤い液体を舐めとる。
その感覚に悠理の身体が粟立った。
瞼が開く。
「な、なんだよ、せーしろ。」
「・・・少し血が滲んでたんですよ。・・・後で手当てしましょうね。」
そういって横たわる彼女の前髪をかきあげた。
清四郎に手伝われてお揃いのパジャマを来た悠理が部屋へと戻ると、きちんと夕食の用意がされていた。
途端に悠理の瞳に輝きが増す。
そんな彼女と一緒にとる夕食はとてもおいしかった。
いつもより速いペースでグラスを開けていく彼女と、それを嬉しそうに見ながらなかなか箸の進まない清四郎。
彼の頭の中には今日の彼女の言葉が何度も繰り返しまわっている。
「食わないのか?」
無邪気に問われた言葉に素直に答えた。
「いいえ、いただきますよ。」
「 悠理 ・・・ 愛してます。」
一瞬止まって見る見る耳まで赤くなる悠理に清四郎の顔に笑みが出来る。
「ば、ばかたれ!急に何言い出すんだ!!」
「んなこと言ってないで早く食え!!」
手を振り上げながら話す悠理に一層笑顔が増す。
「はいはい、分かりました。」
笑いながらそう返す清四郎はこの日人生で初めて味わっていた。
胸がいっぱいで食事が喉を通らないということを。
珍しくアルコールに酔った彼女は食事の後、清四郎に抱きかかえられベットへと沈んだ。
そんな悠理を腕の中に抱きしめまま、清四郎は彼女を追いかけて夢の国へと入っていった。








END


****************のりりん様コメント****************


こちらもお誕生日リクいただいたお題の中のものに、私の妄想がくるくる回ってしまい書いてしまったものです。
いつもより少々(かなり)甘めかと思いますが皆様胸焼けなどされてませんでしょうか?
快く受け取っていただいたフロ様、読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます。
本当に感謝いたします!
これに懲りずにまたお付き合いくださいませ。

きゃーっ!!ラッブラブのお風呂エッチィィィ♪♪ ・・・はっ、すみません、我を失ってしまいました。言わずと知れたフロです。
しかし、私がリクしたのは「恋人達の甘い一夜」であって、 けっして「お風呂エッチ」ではありませんことよ!そんな、ズーズーしい・・・ポッ。
のりりんさんが私の発した電波をキャッチした模様。ありがとうございます〜〜vvv
「事件」のあとのふたりなだけに、思いの強さもひとしを。ニヤケながら感動させていただきました。
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