リレー小説

真夏の夜の夢 後日談


  BY のりりん様





万作ランドを後にしたリムジンは剣菱邸へと入っていった。

車を降りると清四郎は大きく息を吸い込んで、気合を入れた。

この扉の向こうの状況を予測して・・・

剣菱夫妻は想像通り、にこやかに、超がつくほどの御機嫌で2人を迎えてくれた。

『狂喜乱舞』 そんな言葉がにあう程の笑顔で。

「これで剣菱も安泰だ。」「清四郎ちゃんなら安心よね〜。式はいつにしましょうか。」と大騒ぎしている夫妻を黙らせたのは、清四郎の

「悠理と真剣に交際をさせていただくことになりました。」

という丁寧な挨拶ではなく、彼らの愛娘のこの一言だった。

「・・・いいかげんに・・・・いいかげんにしろーー!!!」

その雄叫びに部屋の中は一転シーンと静まり返ってしまった。

普段は、バカだ、無邪気だと言われている彼女だが、あの剣菱万作と百合子の娘だ。

その迫力は彼らに勝るとも劣らない。

3人の視線が悠理へと集まった。

「あたいは剣菱のこととか将来のこととか考えてこいつがいいっていってんじゃないわい!!ちょっとはあたいの気持ちも考えろ!!」

「これじゃ、あの婚約騒動のときみたいじゃんか。あのときも、こういうのがすっごいヤだったんだぞー!!!」

彼女は、その瞳にいっぱい涙をためて、口元を震わせて話した。

真っ直ぐに前を見ていた顔が俯いた。

握り締めていた白い拳にぽたりと雫が零れた。

 

ずっと・・・ずっと好きだった。

 

清四郎は昨夜そう告げた時の悠理を思い出した。

あの騒動のときは悠理の気持ちなど、誰も気にしてなどなかった。

『好きな男と結婚したい』 『自分より強い男じゃなきゃ嫌だ!』

そういった彼女の言葉も押さえ込むこと、丸め込むことばかりが考えられ、真剣に耳を傾ける者等いなかった。

剣菱で自分の才能を試したい、彼女との結婚ということではなくそれだけを思っていた清四郎もその一人だった。

いや、あのときは自分こそがその主犯だったのかもしれない。

確かにあのときの自分には悠理は剣菱のおまけだった。

それがどれだけ彼女を傷つけたのか今なら分かる気がする。

綺麗な笑顔で想いを告げてくれた彼女の痛みが。

あの騒動の後も、悠理は変わりなく笑いかけ、傍にいた。

こんな自分に何もいうこともなく、ただいつもどおりに。

彼女の想いに胸が熱くなる。

なんて自分は馬鹿だったのだろうか。

そんなことを考えていた清四郎の隣で悠理がすぅっと顔をあげてこちらを向いた。

「せーしろ。とーちゃんやかーちゃんが言ってるような事でおまえがいいって行ったんじゃないぞ。誰もわかってくんなくてもいい、でもおまえだけは・・・」

ガラス色の雫が次々と頬をつたう。

悠理は零れ落ちる涙を拭おうともしないで肩を震わせ、そう話した。

見上げる濡れた瞳に優しい微笑を返すと清四郎はゆっくりと彼女の頭を撫ぜた。

「わかっています。わかってますよ、悠理。」

その言葉に彼女はただ、ただ頷いた。

悠理の頭から手を下ろすとそのまま彼女の白く柔らかい手を握った。

彼女と手を繋いだまま、清四郎が真っ直ぐに前を向く。

「おじさん、おばさん、交際を喜んでいただけるのは大変ありがたいのですが、しばらくはそっとしておいて頂けませんでしょうか。 悠理の気持ちを大事にしていきたいんです。」

そういった2人に百合子がそっと歩み寄ってきた。

その指が娘の涙を拭う。

「悠理、ごめんなさいね。私達が悪かったわ。」

「清四郎ちゃん、悠理を宜しくお願いします。」

 

 

彼女を部屋まで送り届けると、清四郎は

「じゃぁ、明日も学校ですし、僕は帰りますね。今日はゆっくり寝てください。」

「・・・・・うん。」

彼女は目をそらし、俯いままでそう答えたものの悠理の手はまだ清四郎とつながれたままだった。

恋人の顔が見たくて覗き込もうとした清四郎を涙のあとが残る彼女が見上げた。

「・・・もぅ・・・帰るのか?」

艶やかな唇がそう告げた。

さみしそうな瞳が上目使いに清四郎を見ている。

恋人に甘えるようにそういわれて『はい、帰ります』と言う男がどこにいよう。

清四郎は悠理を腕の中に抱きしめた。

「そんな顔しないでください。帰れなくなります。」

そういっている間も彼女は清四郎の胸に頬を寄せ、そっと背中に腕を回した。

「・・・一昨日までは何にもない顔して我慢できたのにな・・・。今日はすごくさみしいんだ。」

「・・・悠理。」

「あ、あたいがこんな事言っておかしいだろ。明日になったら会えるのにな・・・・」

そういって腕の中の愛しい人は微笑を向けた。

 

「電話します。僕も明日までは待てませんから。」

そういって彼女にキスをするとようやく部屋を後にした。

 

 

 

翌日からの学校では、いつもどおり振る舞いながらも2人の間に流れる今までとは明らかに違う空気の色と、漂う幸せのオーラに4人が気付かないはずはなかった。

散々からかわれ、おもちゃにされて真っ赤になる悠理。

照れながらも幸せそうな顔の清四郎。

ひとしきり2人で遊んだ4人が2人の前でこういった。

「悠理、よかったですわね。」

「仲良くしなよ。」

「大事にしてもらいなさいよ。」

「あんまりいじめんなよ。」

 

「「「「悠理を泣かしたら承知しないから」」」」

 

 

 

今度こそ、おしまい♪


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なんと!一年数ヶ月ぶりに復活のリレーSS!

私があんまり馬鹿なオチにしてしまったため、のりりん様が

続きを書いたものの、埋めてらしたんですよね〜。

しかし、なにしろ私の仕事は発掘人!埋まったままなぞ、許しません!

てなわけで、なんとも胸の温かくなる素敵な後日談として、アップさせて

いただきました。のりりん様、本当にありがとうございましたvv

背景: 柚莉湖♪風と樹と空と♪