第三話〜中編〜 「欲しいのはチョコだけか?」 そう言ったまま、悠理の瞳は清四郎の黒い瞳を真っ直ぐに見ていた 射るような視線。 はじめてみるような、その色。 「・・・その言葉の意味を分かってるんですか。」 そんな清四郎の言葉にも、悠理は何も答えない。 変わりに、彼の大きな手にその白い指を絡めてきた。 もう片方の手が、清四郎の頬へとのびる。 悠理の手が彼の頬にそっと触れた。 静かな部屋で。 鼓動が早くなる。 「・・・好きだよ、せーしろ。」 彼女の唇がそう告げた。 その瞳が妖しく光る。 それは ーーー 女の色だった。 愛しい女からの初めての告白の後、清四郎は気がつくと彼女の唇に自分のそれを重ねていた。 歯止めの効かぬ、深くなる口付け。 むさぼり、吸い付き ・・・ 絡め取る。 夢中で味わう甘い唇から、時折声が漏れる。 そんな声がさらに清四郎を 煽る。 どこまでも。 離れることなく、耳たぶを甘噛みすると悠理の体が仰け反った。 腕の中でしなるからだ。 その間にも彼の手は、彼女の肌の上を這いまわる。 清四郎はどれだけこの腕で抱きしめても逃げてしまいそうなぬくもりを必死で追いかけていた。 目の前に現れた悠理の白い肌に目を奪われながらも。 まっさらな彼女の全てに口付けの雨を降らせる。 清四郎の唇が触れるたびに色づいていくその艶やかな肌、愛しい唇からもれる彼女の吐息。 内側から沸き起こる衝動が押さえ切れない。 (・・・くそっ・・・!) 震える小さな肩、きつく閉じられた瞳。 だが、それを気遣う余裕は、ない。 柔らかな彼女のふくらみにむさぼるように唇を這わせ、彼の手は足の内側をなで上げ悠理の中心へと向かっていく。 滑らかな肌と、その香りに清四郎は眩暈をしそうになりながらもその唇からは想いが溢れる。 「・・・悠理、悠理。・・・愛してる。」 そんな清四郎の腕の中で、悠理の声の色が次第に変わっていく。 「ぃや、・・・せ・・・し・・ろ・・・」 自分を呼ぶその艶めく声に、清四郎は一層狂わされていく。 暴れ出す、欲望。 ーーー 悠理が欲しいと 。 清四郎にとって、そういう行為が初めてというわけではもちろんなかった。 だが、ある意味初めてだったのかもしれない。 清四郎はこのときまで知らなかったのだから。 『愛しい女を抱く』 ということがどれほどのことなのか。 悠理に溺れそうになる自分。 冷静さなどは欠片も残っていなかった。 彼の人生でこんなことは、初めてだった。 『悠理をこの手に捕まえた』 さっきまではそう思っていた。 しかし、捕まったのは、清四郎の方なのかもしれない。 腕の中の愛しい女は、与えられる初めての感覚にも敏感に反応し、白い指はしきりに清四郎を追いかける。 その指が男の肌に触れるだけで、彼の体は一層熱を増していく。 体の中心に与えられる刺激に、悠理が痛みだけでない声をあげたとき、清四郎の我慢も限界だった。 「悠理、少し我慢してください。」 そういって逃げる腰を掴むと、彼自身を滑り込ませた。 「・・・っいっ・・た・・・」 眉間に皺を寄せ、痛みに耐える彼女を抱きしめ、より奥へと進んだ。 きつく、熱い彼女の中で己を手放しそうになりながら。 「・・・せ・・ぇ・・しろ・・・」 そう言ってしがみつく悠理に口付けながら自分の口からも彼女の名が零れた。 「悠理・・・悠理・・・」 ひとつになった2人。 溶けてしまいそうな体。 清四郎もこんな感覚は初めてだった。 痛みを堪えるように眉間に皺を寄せる彼女が愛しくてたまらない。 気遣いながらも、欲望は激しさを増す。 清四郎からの刺激に悠理の体が仰け反るのを見たとき、言葉を降らせた彼も己を手放した。 「愛してる。」 2人の体が重なり、シーツの海へと沈んでいった。 ゆっくりと瞼が開いていく。 初めて感じる体のだるさが、昨夜のことを思い出させる。 初めて味わった、痛みだけではないあの感覚を。 何度登りつめても離してくれなかった男の熱い体を。 熱を帯びた眼差しと、繰り返された囁きを。 途端に襲われた恥ずかしさに胸元のシーツを引こうとして、自分の肌につけられた幾つもの赤い花びらにその手が止まった。 まるで 所有の証。 頬が染まっていくのが自分でもわかる。 それを隠すように目の前の逞しい胸に顔を埋めると、頭上から優しい声が降ってきた。 「おはよう、悠理。」 そう言って悠理の髪を撫ぜる清四郎には顔を向けずに返事を返した。 「・・・おはよ。」 「つらくないですか?」 そんな清四郎の声にも顔をあげずにいると彼の手が悠理の頬を包んだ。 大きな手に包まれた頬は、そのままゆっくりと彼の方へとむけらていく。 だが、途中でその頬は大きく反らされた。 ブンッと音のしそうなほどの勢いで。 彼に背を向けた後、シーツを掴んでまま悠理は彼から離れていった。 ベットの端へと。 それは明らかに照れだけではない行動だった。 そう、不機嫌のしるし。 「どうしたんですか。」 清四郎は、そういいながらもベットの上で彼女を追いかけた。 原因を探るため、頭の中をフル回転させながら。 だが、後ろから伸ばした腕もパシッと音を立てて叩き落とされた。 「悠理、何を怒ってるんですか?」 「黙ってても分かりませんよ。」 「僕が悪いのなら謝りますから。」 その言葉達にも、背を向けたままの彼女。 「悠理!」 再び清四郎がそう呼んだ時、不貞腐れた声が聞こえた。 「・・・・・・お前・・・・慣れてる・・・・」 顔など見なくても分かるほど、不機嫌な声。 それは昨夜の出来事に対してだ。 清四郎は、思わず息が詰まった。 こめかみを抑える。 ごまかすことも出来るかもしれない、だが・・・ 清四郎は少し体を起こすと、ゆっくりと話始めた。 「慣れてるといわれても・・・・」 ひとつ区切って大きく息を吸った。 「・・・・確かに、興味があって女性とそういう経験をしたことはあります。そこに感情は一切伴ってはいませんでしたが。」 その言葉に悠理の肩がピクリと動いた。 「でも、もうそんなことはしません。」 「お前だけです。」 そういって後ろから彼女の顔を覗き込んだ。 不機嫌に口を尖らせたままの顔が、ゆっくりと清四郎の方を向いた。 その髪を撫ぜる。 「もう、お前だけです。」 そういった彼にようやく尖っていた唇が動いた。 「ほんとか?」 「えぇ、ほんとです。」 その返事に悠理の顔がようやく和らいでいく。 再び、彼に背を向けた彼女がベットの下へと手を伸ばし何かを掴んだ。 それは、昨日の追いかけっこの戦利品。 その包みを清四郎の前へと突き出した。 「なら、やるよ。一日早いけどな。」 シーツだけを身に付けてそう笑った悠理はとてもきれいだった。 それを受け取りながら、お礼にキスを降らせた。 ずっとずっと欲しかった、彼女からの特別なチョコレート。 「ありがとう、悠理。」 その言葉に照れてシーツの海にもぐっていった彼女を追いかける。 カーテンの隙間からは、舞い散る白い雪が見える。 幸せな時間の流れる、2人の初めての朝。 ←BACK お宝部屋TOP |
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