夕間暮れが近づく実験室に、男と女の姿があった。 男の長い指が、白い腹の上を滑る。 女は思わず顔を背けた。 「清四郎・・・止めようよ・・・」 「今さら何を言っているんですか?これは貴女のためなんですよ。」 清四郎は冷たく言い放ち、青褪めた女を見つめた。 「悠理、ちゃんと大きく開いてください。大きくですよ。」 悠理はくちびるを噛みながら、男の言うことに従った。 白い肉の奥から、ひくひくと動く、小さな赤い粒が現われた。 それに清四郎のピンセットが近づいていく。 「ひっ!」 金属の先端が触れた瞬間、実験台に固定された身体が大きく跳ねた。 「もう止めてくれよ!」 「ここまできて今さら何を言うんです?止めるなんて、許しません。」 男の眼に凶暴な光が宿る。 怯えた悠理は、黙るしかなかった。 「ああ、ヌルヌルして指が滑りますね。」 忌々しげながらも、清四郎はどこか楽しそうに呟いた。 ピンセットが柔らかな肉を押し退けながら、体内へと侵入していく。 「!!」 悠理は両手で顔を覆い、短い悲鳴を上げた。 ピンセットが身体の奥を探る。 とうとう我慢できなくなり、悠理は叫んだ。 「もう嫌だあ!清四郎、止めてくれよ!!」 泣きじゃくる悠理を見下ろし、清四郎は深々と溜息を吐いた。 「元はといえば、悠理のせいじゃないですか。」 「だって・・・だって・・・」 「だってもへったくれもありません。貴女のためなんですから、もっと真剣になってください。」 「だって、無理だよ!カエルの解剖なんて!!」 「恨むなら、生物のテストで一点なんて絶望的な点数を取った自分の脳味噌を恨んでください。」 そう。これは生物の特別補習。赤点を取った悠理に付き合って、清四郎も参加しているのであった。 |