視聴覚室

BY hachi様





午後の低い日差しが、視聴覚室の中に長々と影を伸ばす。
女は微笑みながら、カーテンを開閉させる自動スイッチを押した。
低いモーター音とともに、ゆっくりとカーテンが広がっていく。
それに伴い、室内が暗くなっていく。
男は教室の真ん中で、その様子を黙って眺めていた。

外光は分厚い遮光カーテンに阻まれ、広い視聴覚室は夜の帳が下りたように暗くなった。

いつの間に移動したのか、女は唯一の脱路であるドアに凭れかかり、闇にも鮮やかな赤いくちびるを吊り上げて、にやり、と笑った。
「さあ、はじめようぜ。」
背中に回された指が、ぴんと音を立ててドアの鍵を閉める。
それまでカーテンを眺めていた男が、緩慢な動作で振り返った。

「悠理・・・わざわざこんな場所を選ばなくても良いのではないのですか?」
その言葉を聞いて、悠理はくっと低い声で笑った。
それから急に真顔になり、男を掬い上げるように睨んだ。

「清四郎、あたいと何年つきあってきた?このあたいが、場所を気にするとでも?」
挑戦的な視線。
清四郎は両手を上げ、降参の意思を示した。



*****




壁一面に広がったスクリーンに、明るい映像が映し出される。
ただ、音を消しているため、聞こえてくるのは二人の微かな息遣いだけだ。

ふたつの白い肢体が、しなやかに動き、絡み合う。
上になり、下になり。互いに身体を押しつけ、ひたすらにじゃれ合う。

組み伏せられて苦しくなったのか、白い顎が仰け反った。
僅かな隙をついて逃れようとしたが、すぐに捕まり、また圧し掛かられる。

逃げた罰のつもりか、もがく肩に歯が立てられる。
本気ではなかったろうが、意外にも強く噛んだらしい。
痛みのせいか、真っ白な足が限界までぴんと伸びた。

それでもふたつの身体は絡み合ったまま、決して離れようとしない。

逃れようとしながらも、本気で逃げない身体。
逃すまいとしながらも、遊戯を楽しむ身体。

邪気のない戯れは、時を忘れて続けられた。

「悠理・・・そろそろ・・・」
「駄目だ・・・ちゃんと、最後まで・・・!!」

遠くで、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。



*****




清四郎は深々と溜息を吐いた。
「悠理・・・これは、いつまで続くんですか?」
「えっと、あと一時間くらいだったかな?」

立ち上がろうとする清四郎。悠理はその腕を掴み、必死に引きとめた。
「オマエ、今日はヒマだって言ってたじゃんか!!もうちょっとだけ、ねえってば!」
眼を潤ませてこちらを見上げる姿はまるで子猫のよう。
清四郎は仕方なく元の場所に腰を下ろした。それでも心の中は不満でいっぱいである。

「可愛いだろ?ちぃちゃいときのタマとフク。昨日、たまたま見つけてさあ。子猫のときは、こうやってよくじゃれ合ってたんだよな。 あんまり可愛いから、皆にも見せようと思ってたのにさ、ヒマなのオマエしかいないんだもん。」
嬉々として喋る悠理を横目に、清四郎はやれやれと肩を竦めた。

まったく、どうして学校の視聴覚室で、タマとフクのビデオを見なければならないんだ?
悠理の家には、ここより立派なシアタールームがある。 別に今日ここででなくても、皆が集まれる日に改めて上映すれば良いのに。
まあ、思い立ったら即実行に移すのが、彼女の長所でもあるのだが。

清四郎はじゃれ合う二匹の子猫の映像を見ながら、本日何度目かの溜息を深々と吐いた。






うふふっvv




カワユイですねー、絡み合うふた・・・いえ、二匹。
悠理ちゃんのお願い攻撃に陥落している清四郎くんも実は大甘。
しかし暗闇でこんなハァハァもんの映像(注:猫の)見せられ、その気にならないのかねぇ?

例)

「楽しそうですな、タマとフク」
「かわゆいだろ♪」
「僕らもちょっと、真似してみません?」
「へ?」
ガバリ!

――――いちゃいちゃ♪


モドル