体育倉庫

BY hachi様






差し込む日差しに、白い埃が照らし出されていた。
乱雑に収納された道具たち。どれもこれもが埃に塗れ、暗がりに沈んでいる。

ここは―― 体育倉庫。
高価な器具さえ、ここに押し込まれているときは、打ち捨てられたごみのように見える。



「い、痛い・・・」

跳び箱の陰から、女の苦しげな呻きが漏れ聞こえてきた。

「痛い・・・痛いよぉ・・・」

彼女のつま先が、リズミカルに跳び箱の角を打つ。
自らの意思を持って足を動かしているのではない。
男の動きに合わせて、どうしても足が動いてしまうのだ。
男は無言だ。
先ほどから同じリズムで身体を前後に動かしている。
そのたびに鋭い痛みが走り、悲鳴を上げそうになる。
このままだと、痛みのあまり内腿の筋肉が裂けてしまうかもしれない。
それでも悠理は、必死に耐え続けていた。

「悠理・・・まだまだ序の口ですよ。少しは慣れてください。」
既に息の上がっている悠理とは違い、男は余裕綽々だ。
「だって・・・痛い・・・清四郎ぉ、もっと優しくしてくれよぉ・・・」
この痛みに耐えるなんて、絶対に無理だ。
なのに、懇願虚しく、清四郎はさらに行動をエスカレートさせる。

「痛いっ!」

「痛いのが過ぎれば、じきに気持ちよく感じるようになりますから。」

耳元で優しく囁かれても、痛いものは痛いのだ。それに、これを気持ちよく感じるなんて、天地がひっくり返ったって有り得ない。

静寂の中、つま先が跳び箱を打つ音が、妖しく響く。
押し殺した喘ぎが、男の加虐心をそそっているなんて、悠理が知る由もない。

いいように玩ばれて、口惜しくて仕方なかった。
でも、清四郎を選んだのは自分なのだ。
悠理は滲んだ涙を気取られぬよう、声を殺して俯いた。

限界まで開いた足。清四郎のリズムに合わせて、内腿の筋肉が悲鳴を上げる。
痛みのあまり、身体がバラバラになりそうだ。

「もっと力を抜くんです。強張ったままでは、痛みが増すだけですよ。」
そんなこと言われたって、こうも痛いと、力なんて抜けない。
ぐい、といっそう強く男が身体を寄せる。
それまで必死に声を殺してきた悠理は、とうとう耐え切れなくなって、絶叫した。

「いでででで!!馬っ鹿野郎っ!痛えじゃねえか!!」

殴ってやりたかったが、いかんせんこの体勢では、どうしようもない。
「馬鹿とは何です、馬鹿とは。僕は貴女のために貴重な時間を割いてまで、つき合ってあげているんですよ。」
清四郎は厭味っぽくそう言うと、悠理の身体を思い切り押した。

「ぎゃああああ!!」

本当に、内腿の筋肉がめりめりと音を立てて裂けた気がした。



*****




コトの始まりは、美童だった。

別に競っていたわけではないが、彼に負けたと分かった瞬間、悠理の負けず嫌いに火がついた。
が、ひとりで練習しても時間がかかるだけで、大した成果も上がりそうにない。 そのために清四郎を密かに呼び出し、人目につかない倉庫で練習をはじめたのだが――――
 
分かりきったことだが、彼は、大変に加虐的な性格であった。

「すぐに美童に勝ちたいんでしょう?なら、痛いくらい我慢してください。」
清四郎は冷たく言い放ち、悠理の背を押し続けている。
悠理は泣き喚きながらも、必死に耐えている。
女好きのヘタレ男に身体能力で負けるなんて、どうしてもプライドが許さない。
でも、特訓の相棒に清四郎を選んだことを、酷く後悔していた。

悠理が美童に負けたもの、それは――――
  開脚前屈の角度だった。

「ひいいいい!!」

ただ事ではない悲鳴に怯え、その日は誰一人として体育倉庫に近づこうとしなかった。






ご愁傷様vv




わかっていても、わかっていても、ときめいてしまうのはナゼ?それは私がSだから?(嘘)
体育倉庫というシチュが非常に淫靡。ぜひふたりには、違うことにも励んでいただきたいものです。


モドル