「サンタが家にやってくる」


「クリスマスにサンタを待ってたのは、父さんが生きてた小さい頃までだけど・・・でも、 今はまたサンタが家に来てくれることを信じてる」
仲間内では常識人を自称する可憐のこの言葉に、仲間たちは目を丸くした。
「今度のクリスマスには、きっとサンタがプレゼントを持ってきてくれるわ」
なに馬鹿なことを、と呆れる悠理と野梨子に、可憐はウインク。
「やって来るのは背の高いサンタクロースよ。恋人がサンタクロースになるの。私だけのね」



その言葉を思い出したのは、悠理にも恋人と呼べる存在ができた、最初の クリスマス。
「大人になれば、サンタが家にやってくるんだってさ」
可憐の話を一緒に聞いていた恋人は、すぐに悠理の言わんとするところを察したようだ。
「ふむ・・・わかりました」
なにやら思案顔。
付き合いはじめてからも、今一つロマンチックには遠いふたりだ。
あいかわらず、鬼教官と劣等生。主人とペット。
このクリスマスは、そんな腐れ縁から方向転換し、一気に恋愛ムードを盛り上げる、 良い機会になるかもしれない。
「色々準備が必要ですな」
「準備?」
悠理の期待値は跳ね上がる。
「ケーキ?プレゼント?」
「そんなものは、クリスマスパーティで山ほどもらえるでしょう」
おまえからのプレゼントは特別なんだけど――――なんて、悠理の心中を読み取れる男なら、 もっと早くにラブラブムードも盛り上がるというもの。
彼、菊正宗清四郎の恋愛偏差値は、悠理以下。
文武両道、眉目秀麗、才気煥発な彼だったが、ロマンチシズムだけは、 哀しいかな欠片さえ持ち合わせてはいなかった。

「用意と言えば、決まっているでしょう。赤い服に帽子はシーズンですからどこでも手に入るとして・・・」
本気でサンタになりきる気らしい。
「トナカイもソリもいらないじょ」
考え込んでいる恋人に、悠理はこわごわ声をかけた。
完璧主義の彼のこと、体重増量に挑み、白い髭さえ生やして来ないとも限らない。
「でも、白い大きな袋は必要なんでしょ?」
清四郎はにっこり微笑んだ。
袋にはプレゼントと、相場が決まっている。
「うん♪」
悠理は元気よく肯いた。素直に嬉しかった。
清四郎は尻尾をふる(幻)悠理の頭を撫でながら、また考え込んだ。
「それから、登山靴も必要ですな・・・ロープや赤外線スコープは魅録に用立ててもらうとして・・・」
「はぁ?」
「剣菱家はセキュリティシステムで守られているんですよ。家宅侵入にはそれなりの準備が必要です」
「な、なにも侵入しなくても・・・」
「せっかく、悠理の部屋には暖炉があるんですから、やはりサンタとしての正しい作法は踏襲したいんですよ」
「・・・って」
悠理はガックリ肩を落とした。
赤外線スコープを装着し、家屋侵入するサンタ・・・。
だんだんロマンチックとは遠ざかる。
「待っててください、おまえの期待には応えてみせます!」
しかし、握りこぶしで自信の笑みを見せる恋人は、確かに悠理だけのサンタクロース。
悠理の大好きな、笑顔だった。
少々トンチンカンでも、今年はサンタが家にやってくる。






そして、クリスマスの夜。
だから悠理は、かなりの覚悟をして待っていた。
腹に綿を詰め込んだサンタ服で現れようと、はたまた盗賊ばりの目空き スキー帽に黒のボディスーツで現れようと。
しかし、清四郎はそのどちらでもあり、どちらでもなかった。
予告通り、ごそごそ灰を撒き散らし、暖炉から飛び降りて着地した彼は、 黒皮のパンツに赤いサンタの上着という出で立ちだった。
装着していた暗視ゴーグルを取り去って、悠理ににっこり微笑む。
「お待たせ」
「遅いじょー!」
悠理がむくれるのも無理はない。
恋人としての初めてのクリスマス。
ふたりっきりで過ごそうと待ち続けて数時間。もう日付もかわろうという深夜になっていた。
パーティの残り物を部屋に持ち込んでいたが、ケーキもシャンペンも待ちきれずに消費済み。
悠理の機嫌も目付きもはなはだ悪い。
「せっかくのクリスマスなのに・・・」
ぶちぶち愚痴る悠理に、清四郎は片眉を上げた。
サンタ服のボタンを外しながら苦笑する。
「イブからクリスマス当日に変わる時刻をわざと選んだんですよ。それに、夜這いは深夜と相場が決まってます」
「へ?」
思わず聞き間違いかと聞き返したとき。
清四郎が悠理に近づきつつサンタ服の上着を脱ぎ去った。
「うひゃっ?!」
我が目を疑い、悠理の声は裏返る。
この寒空に、清四郎は素肌。
呆然と逞しい胸を凝視しているうちに、悠理はベッドの上にポイと放り投げられていた。
「ななななななななな?????」
「だから、夜這いです。もちろん準備は万全です」
清四郎は真っ白になっている悠理にかまわず、持参した白い袋からなにやら取り出す。
本来ならプレゼントの入っているはずの袋。
しかし、取り出した小さな箱には、ラッピングはなかった。
清四郎がにっこり笑って差し出したのは、お徳用コ@ドームの一箱だった。
「なんじゃそりゃーっ」

男の思いやり徳用パックに、あられもない雄叫びを上げた悠理だった。
なにしろ。
付き合いだしたといっても、彼らはキスはおろか手を繋いだこともなく。
それまでがそれまでなだけに、肉体接触(しがみついたり雑魚寝したり)が皆無とはいえないが、 とにもかくにも恋のレッスンを始めたばかり。
と、いうか恋のレッスンの第一章として、ふたりきりのクリスマスに期待していた悠理なのだ。

「え?悠理はペッ@リーの方がいいんですか?一応それも用意してきましたけど・・・」
清四郎は怪訝な顔をしながら、せっせと手を動かし、悠理の服をすばやく脱がせにかかる。
「ペ・・・?」
なんのことやら理解できない悠理をよそに、清四郎は着々と攻撃態勢を固めた。
「ま、待て待て待てっ」
わたわた慌てたときには、悠理のセーターはひん剥かれ、ぱち、とブラの留金が外されていた。
スルリとあっけなく、パンティが足から引き抜かれる。
「待て、と言われて待つサンタがどこにいます?」
清四郎はジッパーを外した。
「サ、サンタ?!どこが!」
「深夜に侵入、プレゼントを挿入、これぞ完璧なサンタぶり」
にんまり自画自賛。
「お待たせしました、プレゼントです!」

「なんか違うーっ!!!!」
と、いう悠理のわめき声は、聖なる夜のしじまに消えていった。





2004.12.25 thanks♪


・・・・ゴメンナサイ。とにかく謝っとこう。
「恋人はサンタクロース」つータイトルでもいいのですが、ロマンチックを期待させたら悪いなーっと。(笑)
hachiさまとメールで盛り上がった「手の早いサンタクロース」ネタ。
すんばらしいイラストいただいちゃったので、こりゃ書かなあかんな、と。(笑)
顰蹙ながら、気持ちだけメリークリスマス♪


モドル