清四郎くんのためになるウンチク講座〜サケ編〜 清四郎と悠理は、『回転寿司』のカウンターに二人並んで腰掛けていた。 悠理が「一度、行ってみたい」と言うので、今日のデートコースに組み込んだのだった。 悠理の前には空いた皿が山と積まれていて、回ってきた皿を自分で取ることも出来ない状態になっていた。 必然的に清四郎は、悠理の指定するネタの皿をとる事となった。 「次、イクラね。」 清四郎が呆れ顔で、十数枚目のイクラの皿を悠理に手渡しながら言った。 「ねぇ、悠理。イクラって、ロシア語で『魚の卵』って意味なんてすよ。だから、『数の子』も『タラコ』も『キャビア』もみんな、『イクラ』なんですよ。」 「・・・・・・・・・・・」 食べるのに忙しい悠理の口は返事をしなかったが、目が「へぇ〜」言うように相槌を打った。 「じゃあ、『スジコ』も?」 「当然です。ところで『スジコ』は、なんの子か知ってます?」 「・・・・『スジ』?」 「そんな魚がいたら、今度見せてください。」 清四郎は呆れながらも、思ったとおりの回答にニンマリした。 「加工の仕方が違うだけで、『スジコ』も鮭の卵なんですよ。『スジコ』はサケをさばいて卵巣を取り出してそのまま味付けしたものです。『イクラ』は成熟した卵をバラバラにほぐして、味付けしたものなんです。『イクラ』の方が手間がかかっている分、臭みが少ないんですよ。」 「『白子』は?」 「アレはちょっと違うんですけど、後で説明してあげますよ。」 一瞬、清四郎の瞳が怪しく光ったことに悠理は気づかなかった。 「次、カツオとサーモンね。」 「まだ食べるんですか?」 言っても無駄だとは分かっていても、一応訊ねてみる。 「ここのネタ、結構イケるんだもん。」 そう言いながら、清四郎が差し出した新しい皿に手を伸ばした。 「カツオは赤身の魚です。鯛は白身の魚です。サケはどっちだど思います?」 「サーモンピンクって言うくらいだから、ピンク身。」 またもや、思ったとおりの答えに吹き出しそうになるのをこらえながら清四郎が喋り始めた。 「実はね、サケは白身魚なんですよ。」 「白くないのに?」 「ええ、サケは生まれた川から海に下りていくのは知っていますね。でも、中には川に留まるのを選ぶものもいるのです。ヤマメやヒメマスなどがそうなんです。ヤマメは海に下りたものはサクラマスになるし、ヒメマスはベニザケになります。ヤマメやヒメマスはもとより、サケの仲間のイワナやニジマスも白身魚でしょう。だから、サケは白身魚なんです。」 「じゃあ、あの色は?」 「あの色はアスタキサンチンという成分で、野菜や果物に含まれているベータカロチンの一種なんです。エビとカニの殻と、サケとマスの肉だけに含まれているもので、強い抗酸化力を持つ成分として注目されているんですよ。川に留まったものには見られないので、回遊している間に採る餌のエビなどから着色されると考えられているんです。因みに赤身魚や、牛肉や豚肉の赤はミオグロビンという全く別のものなんですよ。ミオグロビンは・・・・」 「もういい、いろいろ言われても覚えられないから。・・・・・・今度はネギトロ取って。」 清四郎が解説しているうちに、何とか自力で取ったのだろうか。気が付けば、悠理の前の皿の山はさらに高くなっていた。 「いいですよ、好きなだけ食べてください。食べ終わったら、腹ごなしに一緒に汗を流しましょうね。『白子』についてはその時に説明してあげますよ。」 清四郎は悪魔の笑みをうかべつつ、悠理が満腹になるのを楽しみに、皿を取り続けるのでありました。 注:『白子』=魚の精巣または、精子。 清四郎が悠理に「白子のみます?」と、言ったとか言わないとか・・・・(爆) |