清四郎くんのためになるウンチク講座〜桃編〜 悠理は期末テストを控え、清四郎の部屋で勉強をしていた。 おやつを取りにキッチンへ行っていた清四郎が、桃二つを手に戻って来た。 「約束どおり、キリのいいところで一休みするとしよう。」 そう言って、最後の問題を解いていた悠理の隣に座ると、果物ナイフを手に器用に桃を剥き始めた。 悠理が一休みできる状態になった時には、二つの桃は皿に入れられ食べられるのを待っていた。程よく冷えた桃は、頭を使って消耗していた悠理を元気づけた。 「なぁ、桃太郎が入っていた桃ってどれくらいの大きさだと思う?」 「何です?突然。そうですねぇ・・・・桃太郎を種だと考えるなら、悠理が膝を抱えて丸まったくらいはあると思いますよ。」 清四郎の言葉に、悠理が夢見るような表情で言った。 「昔はそんなに大きな桃があったのかぁ・・・・。いいなぁ、食べてみたいなぁ・・・・・」 「今も昔もそんなに大きな桃はありませんよ。」 「え〜、そうなの?」 悠理が不服そうに清四郎を見た。 「諸説あるようですが・・・・。『川上から流れてきた大きな桃を拾った。』というのは、『川上の方から旅をしてきた、大きなお腹の妊婦さんをおばあさんが自宅で介抱した。』と、いう考え方をしている国文学者の方の文章を読んだことがあります。その妊婦さんが出産の時亡くなったので、老夫婦が赤ん坊を育てたということだと書かれてありました。」 「・・・・・なんか、悲しい話しだなぁ・・・・・」 「そうですね。昔話やお伽話には、比喩に隠された真実というものがあるようですね。 僕が知っているもう一つの説では、川上で採れる桃を食べて元気になった老夫婦が、お互いを求め合って授かった子どもが『桃太郎』だということになっていましたよ。」 「いくら元気になっても、ジィさんとバァさんじゃ無理だろう・・・・・」 嫌悪感のためか、眉を顰めて悠理が言った。 「絵本の影響で、ものすごい年寄りのイメージがありますけど、昔は男性の大厄である数え42歳を迎えたら初老といわれていたんですよ。60歳を迎える人が稀だったからこそ、還暦のお祝いを派手にやる風習が残っているんです。江戸時代の大奥などでは、30歳を迎えた女性は『お褥下がり』といってお払い箱になったりしていましたし、高度成長期前くらいまでは母親が42歳を過ぎてから出来た子を『恥かきっ子』といって陰口を叩いたりという風潮も残っていましたからね。食い扶持を減らすため、生理が始まれば嫁に出されていたとも言われますから、40歳を過ぎれば孫がいたって可笑しくなかったんですよ。世が世なら、悠理もとっくにお母さんですよ。」 「げ〜、考えたくもない・・・・・」 吐いて捨てるように言った悠理に向って、清四郎は更に喋り続けた。 「いいですか?桃の果肉には食物繊維が多く含まれていますから、便秘の解消になります。その上ビタミンCも豊富で、美肌や老化防止にもなるんですよ。種の中にある『桃仁』は漢方薬の材料としても知られ、血液の循環を良くする働きがあり、生理不順や更年期障害に対して効用があります。しかも香りには、女性が感じ易い強迫観念を和らげる働きがあるんです。 つまり、たくさん桃を食べて美肌になり、更年期の生理不順が解消され、リラックスしたおばあさんは女盛りを取り戻したんでしょうね。もともと男性は生涯現役ですから、綺麗になったおばあさんに・・・・ってことなんだと思いますよ。納得しました?」 「・・・・・・・・・・」 「それからもう1つ。ヨーロッパでは『桃』を綺麗な女性の例えに使うそうですよ。柔らかくて丸みのある果肉と甘い香りが女性を連想させるからなんでしょうね。ほら、可憐なんて『良く熟れた桃』そのものって感じじゃないですか。」 「言われてみれば、そうかも・・・・・。じゃあ、野梨子は『まだ硬くて酸っぱいヤツ』だな。」 悠理が清四郎を見て笑った。 「でも、あたいはちっとも桃っぽくないな〜。言われても気持ち悪いだけだけど・・・・・」 「そんなことないですよ。悠理は僕にとって、いつだって食べごろの桃なんですから・・・・」 そう言って清四郎は、いつの間にか腕を回していた悠里の肩をそっと抱き寄せた。 「え・・・・・、ちょっと。おい、こら・・・・」 「今日は誰もいませんから、大丈夫ですよ。」 「そうじゃな〜いっ!!勉強しないと〜〜〜〜〜!!」 「嫌いなことを無理してやるのは体に良くないですよ。」 「覚えた公式が・・・・・・」 「また教えてあげますから、安心してください。」 「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 「良く喋る口ですねぇ・・・・・・・」 「んぐっ・・・・・・・」 続きは皆様の頭の中で・・・・・・ |