あき編




「そ、そんなぁ・・・急に言われても、あたい初めてだし・・・・」
悠理の情けない声がした。
「そんなことで済まされると思っているんですか?」
今夜の清四郎は強気だった。

「後で、手が変になったりしない?」
悠理が心配そうに、清四郎の瞳を覗き込む。子犬のようなその表情に、一瞬仏心も湧いてきたが、いつも奉仕しているのは自分ばかりなのだから罰は当たるまい。
「まずは、嫌がってないでちゃんと握ってくださいよ。」
そう言って清四郎は、かたくて太いソレを悠理の白い手に握らせた。
「・・・・・・・」
悠理は不服そうだった。

「そうしたら、こうやって動かして。」
清四郎は悠理の手に自分の手を添えて、優しく説明した。
「こう?」
悠理が確かめるように清四郎を見つめた。
「そう、いい感じ・・・・上手いですよ・・・・・」
褒められた悠理は上機嫌だ。自然とその手にも力が入り、動きも早くなった。

「なんか手がべたべたしてきて気持ち悪いんだけど・・・・」
「そういうものなんです。それに、そんなに根元を持ったらすれて痛いですよ。
上の皮のところを握った方がいい・・・・」
清四郎に言われたとおりに、悠理は握り直し手を動かし続けた。

「ねぇ、なんかいつもと違う気がするんだけど大丈夫か?」
「ええ・・・・、でも、もう少し早く動かした方がいいかと・・・・・・・」
その言葉に、悠理の手の動きが更に早まった。
「いいですよ、悠理・・・・あと・・・少しだから・・・・・」

「もういいですよ。ありがとう悠理・・・・・・」
清四郎の優しい声が聞こえた。
ふと悠理が手元を見ると、手の中にあったソレは小さくなり、粘性の高い白いモノが飛び散っていた。
「後始末は僕がするから、悠理は早く手を洗って、着替えておいで。」
よく見れば、悠理の服にも飛び散ったソレは小さな染みをつくっていた。
「うん・・・そうする・・・・」
疲れた様子で悠理が洗面所へ消えた。

念入りに手を洗った悠理が、着替えを済ませて戻った頃には全てが片付いていて、清四郎はすでにダイニングテーブルの定位置についていた。

「さぁ、食べよう。」
テーブルの上には、白い炊き立てご飯、温かい味噌汁、数々の副菜、そして主菜の「まぐろのやまかけ」が並べられていた。
「うん、いだたきま〜す!」
「自分ですった山芋のお味はいかがです?」
清四郎が笑顔で訊ねた。
「サイコー!!でも、ちょっといつもよりザラついてるような・・・・・」
「それは、仕方ないな。『卸し金』ですると、どうしても粗い仕上がりになりますからね。」
「いつもの方が、好きだぞ。」
「一体誰が、『すり鉢』を割ったんでしたっけ?」
清四郎が意地悪な視線を、悠理に向けた。
「悪かったな、だから自分でやっただろう!!」
頬を膨らませてプイと横を向いてしまった悠理に向って、清四郎が言った。

「初めての悠理の手料理、おいしいですよ。また、お願いしますね。」

悠理の耳が、真っ赤になった。




チャンチャン♪


次、行ってみよー!
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こりゃダメだ、脱出!