「おっと、いけない。もう少しでコレを忘れるところでした」 長い一日が終わろうとしている頃、準備万端に整えた筈の清四郎が、慌てて言った。 フローリングの床に寝転んで、清四郎の行動を眺めていた悠理が、上半身を起こす。 「清四郎、すごく大事なものだって自分で言ってたのに、忘れんなよ! 第一、最初 から出しっ放しにしておけば、忘れることなんてないだろ。何でわざわざしまうんだ よ? 清四郎」 「人目につく所になんて、置いておけませんよ、コレは」 「何で? いいじゃん、別に。確かにコレ、清四郎のものだけどさ」 「僕の持ち物だから、見られたくないんですよ」 恥ずかしさを誤魔化すかのように、清四郎は憮然とした表情を作った。 「…そんなに恥ずかしいんだったらさ、いっそのこと、コレはあたいのもの、って ことにでもするか? ホントは清四郎のものだけど、対外的には、あたいのものだっ てことでさ」 清四郎の方へ這い寄って行きながら、悠理が言った。 「…いいんですか? 悠理」 少しだけ嬉しそうに、でもどこか申し訳なさそうに、清四郎が言った。 「うん。たいした事じゃないし。そのかわり、たまにはあたいにも貸してくれないか な? 一度でいいからコレで遊んでみたいんだ」 悠理が、清四郎を見上げて小首をかしげる。 「おやすい御用ですよ。いつでも使ってください」 「ホントに? ホントにいいの? やったあー!」 清四郎は破顔し、悠理は無邪気にはしゃいだ。 そして、清四郎は再度、悠理に笑いかけた。 「じゃあ、僕はお風呂に入ってきますから。僕が出たあとも、コレはそのまま湯船 に浮かべておきますからね。今日からずっと、コレは出しっ放しにします」 黄色いプラスチック製のアヒルさんと、水上走行する潜水艦、同じく水上を泳ぐクジ ラさんを、清四郎は、手にしていたパジャマの上にのせ、バスルームへと消えていっ たのだった… |