かめお編


清四郎くんのためになるウンチク講座〜鬼平編〜


ある夏の日、縁日の夜。
悠理は、浴衣姿で清四郎と童心に戻って楽しみ、また焼きそば やら、お好み焼きやらをたらふく食べ機嫌よく家に戻った。
清四郎は先にシャワーを浴び、バスローブ姿になって、童心か ら大人の気分へと切り替わっていた。
これから楽しい夜の始まりである。
ビール片手にリビングへ戻ると、浴衣姿のまま、悠理がテレビ にかじりついていた。
「清四郎、ついてるぞ〜。今日は24時間まるごと鬼平犯科帳だ ぞ。おまえ、鬼平好きだろ」
満面の笑みで悠理に問われた清四郎は、苦笑を浮かべつつ、
「好きですよ」
と、答えた。
(…って、まさかこれから24時間まるごと鬼平を見ようってん じゃないでしょうね)
という言葉を飲み込んで。


「おまさにも、こんな恋人がいたんだな〜」
悠理がうるうるしながら見つめる先には、二代目狐火勇五郎の 腕に抱かれるおまさの姿があった。
「[狐火]ですね」
清四郎は、悠理がこのまま長谷川平蔵の虜になられては堪らん と思いつつ、実は鬼平好きな自分がむくむくと頭を持ち上げた 。
「悠理、お前は鬼平をTVで演じた役者が何人いるか知ってます か」
「え、このおっちゃんだけじゃないの」
悠理の指の先には、中村吉右衛門丈がいた。
「彼で鬼平を演じたのは四人目です」
「ふ〜ん。その前は?」
「初代は松本白鸚、当時は松本幸四郎といっていましたが、こ の吉右衛門のお父上です。二代目が丹波哲郎、三代目は萬屋錦 之介です」
「へえ、とうちゃんも鬼平やってたんだ。丹波哲郎って、あの 大霊界のおっちゃんだよな。あたい、映画見たよ。よろづや? 錦之介って」
「お前がこの間まで夢中になって見ていた[子連れ狼]の拝一 刀ですよ」
「えっ!拝一刀って鬼平だったの?」
「いや、だから、拝一刀が鬼平なんじゃなくって、やっている 役者が同じなんですよ」
「…その錦之介の鬼平って、刺客もやってるの?」
「…どこに、裏で殺し屋やってる火付盗賊改方長官がいるんで すか…」
清四郎は、悠理の頭の中に乳母車を引いた長谷川平蔵が見える ようだった。

清四郎はコホンと咳払いをすると、
「鬼平犯科帳は池波正太郎という人が書いた小説です。といっ ても、長谷川平蔵という人は実在の人物ですが、密偵などは作 者の想像です。長谷川平蔵は、人足寄場を作ったことでも有名 ですね。池波先生は、一番最初のTVシリーズをやった松本幸四 郎をイメージして鬼平を書いたんですよ」
「へえ、そうなんだ。おまさとかは、ほんとはいなかったんだ な」
「この吉右衛門も、もっと若い頃に鬼平役をオファーされたん ですが、当時は自分が鬼平を演じるには若過ぎると断っていま す。ですが、原作者もスタッフも、吉右衛門に鬼平を演じても らいたくって、彼が引き受けるまで待ったんですよ」
「うん、わかる。ぴったりだよな、このおっちゃん」
悠理は感心してふむふむと頷く。


清四郎はビールをぐいっと飲むと、
「この狐火も、同じ話を幸四郎版、錦之介版、吉右衛門版と三 回、映像化されています。それぞれ狐火勇五郎を岸田森、近藤 洋介、速水亮が演じています」
「きしだ…しん?って聞いたことあるぞ」
「ほら、魅録からこの間借りた[怪奇大作戦]に出ていました よ」
「あ、あのSRIのおっちゃんか。京都で仏像に惚れちゃう」
「そうです。よく覚えていましたね。ちなみに近藤洋介は、豊 作さんのお気に入りの[暗闇仕留人]に出ていた、尼さんとい ちゃいちゃしている男です」
「あ〜〜〜、なりませぬ〜〜〜、だな」
「ほほう、当たりです。じゃあ、速水亮は?」
「え、このおっちゃん…う〜ん、どっかで見たことあるんだけ どな」
「ヒントは、変身、です」
「え…え〜〜と、え〜っと、あっ!わかった、Xライダーだ! 」
「よくできましたねえ。勉強もそのくらい覚られればよかった んですがねえ」
「…一言多いぞ」


「今日は24時間まるごとということは、24本やるんですね。と ころでTVの鬼平犯科帳は全部で何本あったか知っていますか」
「24本じゃないの?」
「違います。まず、幸四郎版は1969年版は65話あります。71年 版が26話。丹波版が1975年放映で26話。錦之介版は1980、81、82 年と放映され、計79話。吉右衛門版は1989年から2001年まで、9 シリーズ放映されて138話、今年もスペシャルがありましたね 。全部合わせると335話分ありますよ。1話50分として、16750 分、スペシャルはもう少し長いですから、ずっと見続けてもほ ぼ12日くらいかかる計算になりますね」
「えええ、そんなにあんの?」
「そうですよ」
「じゃあ、今晩見ても、全部は見られないんだ」
悠理ががっかりして呟くのを見て、清四郎はしめしめと舌を出 した。


清四郎は、浴衣の裾から見え隠れする、悠理の素肌にごくりと つばを飲み込んだ。
このまま、24時間鬼平に付き合わされたら堪らない。
鬼平は好きだが、ほかにもっと好きなことをしようと、悠理の 腕をぐいっと引っ張った。
「悠理…」
清四郎の熱っぽい眼差しに、悠理はびくんと体を震わせ、
「あ、あたい、汗かいたから、シャワー浴びてくるよ。お前、 鬼平見てろよ」
悠理が立ち上がろうとするのを、清四郎はぐっと引き寄せた。
「お、おい、あたい、汗、流してきたいんだよ」
悠理が狼狽えながら言う言葉に、清四郎はにやりと笑うと、
「原作の狐火にこういう場面があります。おまさが勇五郎に抱 き寄せられた時、おまさが「汗を拭いてからにして…」と言う と、勇五郎が「お前の汗の、どこがいけねえ」って言うんです よ。悠理の汗も、僕には美味です」
「…おまえ、話作ってない?」
清四郎はにやりと笑うと、
「僕は原作をすべて諳んじられるほどの鬼平フリークですよ」
「げえっ」
「おお、「げえっ」は池波正太郎先生のお得意のフレーズです ね。うん、合格です。悠理も立派な鬼平フリークですよ」
「…って、わけわかんないぞ〜」


なにが合格だか分からないまま、悠理は清四郎から火付盗賊改 の拷問よりも恐ろしい@@@なことや、@@@@な責めを存分 に体にたたき込まれた。
彼女が「恐れ入りました」と言ったかどうかは、清四郎しか知 らない。







チャンチャン♪



次、行ってみよー!
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こりゃダメだ、脱出!