かめお編3


清四郎くんのためになるウンチク講座〜剣客商売編〜


ある夏の日、盆踊りの夜。
悠理は、飛び入りで清四郎とともに和太鼓を叩き、気分が良かった。
また焼きとうもろこしやら、イカ焼きやらをたらふく食べ機嫌よく家に戻った。
悠理はシャワーを浴び、パジャマ姿となり、心地よい疲労感を味わっていた。
これで、今日はぐっすり眠れる。
ビール片手にリビングへ戻ると、先にシャワーを浴びた清四郎がパジャマ姿でテレビにかじりついていた。
「悠理、ついてますよ。今日は24時間まるごと剣客商売ですよ」
満面の笑みで清四郎に言われた悠理は、ふと嫌なことを思い出した。
鬼平犯科帳の時も、仕掛人・藤枝梅安の時も、TVを見るどころか、(悠理にとって)たっぷりと責め苦を味わわされた
(…って、まさかまたこの間みたいな展開になるってんじゃないだろうなあ)
という言葉を飲み込み、悠理はじりじりと後ずさった。

「ほら、悠理も一緒に見ましょう。面白いですよ」
清四郎は自分の横にクッションを置くと、ぽんぽんとその上を叩き、悠理を誘った。
「この回は、妖怪小雨坊ですよ」
画面から、不気味な妖怪のような男が、にたりと悠理に笑いかけた。
「こ、これって、怖いのか」
「ホラーじゃないですよ。可哀想なお話です。見た目が人間離れしているがゆえに親にも疎まれた剣客が、ただ一人自分を身内と思ってくれる弟のために、秋山親子に戦いを挑むんです」
清四郎は、そう言うとまた画面に釘付けになった。
これなら、今晩は穏やかにテレビを見られるだろう、悠理はそう思って、清四郎の横に座り込んだ。
画面では、実の父親が小雨坊に斬りかかり、返り討ちにあう場面が映し出されている。
「ひでえなあ…実の親が、子を斬ろうなんて」
悠理がやり切れないというような表情を浮かべた。
「ほんとですよねえ。まあ、この男も気の毒なんですが、やはり人間としてはいただけません。関係ない人を殺したりもしていますからねえ」
「それに比べると、この秋山親子は仲がいいなあ。あんな若い嫁さんもらったとうちゃんなのに、息子はとうちゃんにも義理のかあちゃんにも孝行してるもんなあ」
「ええ、秋山大治郎は若いながらなかなかできた御仁ですよ」
清四郎は心から感嘆するように、大きく頷いた。
悠理は、画面に映る大治郎の顔を見ながら、
「こいつって、ケイゾク?」
「ええ、ケイゾクに出ていた渡部篤郎です。彼が藤田まこと版の初代大治郎です」
「初代って…二代目がいんの?」
「ええ、山口馬木也といって、万作おじさんの好きな水戸黄門の夜叉王丸ですよ」
「鬼若のライバルだなっ!」
悠理はふんっと鼻を鳴らした。
さすが肉体系の役者には強い。


清四郎はコホンと咳払いをすると、
「剣客商売はいままで3回映像化されました。TVシリーズは最初が秋山親子を山形勲と加藤剛。次にスペシャル版で中村又五郎と加藤剛が演じています。中村又五郎さんは歌舞伎の役者さんですが、彼が秋山小兵衛のモデルなんですよ」
「へえ、そうなんだ。で、このおっちゃんが三代目?」
悠理が藤田まことを指さしながら、にやにやと笑っている。
清四郎はふふんと笑うと、
「悠理、言っておきますけどね。決して中村主水が年取って、奉行所をやめた後、りつと別れておはると結婚して、名前を秋山小兵衛に変えたんじゃないですからね」
悠理はぐっと詰まると、顔を真っ赤にし、
「あ、あたりまえだろ、中村主水じゃないのくらい知ってらあ」
悠理、図星だったようである。


「あ、あたい、このねえちゃん、好きだな」
話をそらすかのように大声をあげた悠理の指の先には、颯爽とした、男装姿の佐々木三冬がいた。
「カッコいいよな。女なのに強いし」
「佐々木三冬は老中田沼意次の愛妾の娘で、正妻に阻まれ手元で育てられず、家臣の佐々木某に託しました。だから佐々木姓なんですね。女ながらに一刀流の使い手です。この佐々木三冬を見ると、僕は悠理を思い出します」
「へ?なんで」
「いいとこのお嬢様で、男勝りで、強くって、それでいて美人だ…」
清四郎の言葉に、悠理は耳まで真っ赤になった。
「な、何言ってんだよ…」
もじもじと、恥じらいながら俯いた悠理の、パジャマの胸元がうっすらと染まっていくのを見て、清四郎はごくりと咽を鳴らした。
24時間、剣客商売を見ている場合ではない。
清四郎は悠理を抱き寄せると、耳元で囁くように、
「三冬は剣術一本で、父親のせいか男に幻滅していたのですが、秋山親子に会って変るんですよ…」
「う、うん…それで?」
「三冬は大治郎と結婚して、剣術よりも素晴らしいものを知るんです」
「剣術よりも?それって、なに?」
「教えて欲しいですか」
「うん。あたいの知らないこと?」
「いいえ…悠理はもう知っていますよ」
「え、なに、なに」
清四郎は、悠理のパジャマのボタンを外しながら、耳元で、
「@@@@ですよ」
と、囁いた。
悠理は咄嗟に清四郎にパンチを入れたが、容易く躱された。
「は、話、作ってんなよっ」
清四郎は平然と、
「作ってなんかいませんよ。文庫本の「新妻」の114ページに二人の寝間の様子が描かれてます。そこには、(剣術のほかに、このような、すばらしいものがあろうとは、結婚前の三冬の、まったく予期せざるところであったといえよう)、とあります。悠理だって、僕と@@@@した後、そう思ったはずですよ」
しらっと言う清四郎に、悠理は真っ赤になって今度は蹴りを繰り入れた。
それもあっさりと躱されたが…
清四郎にじわじわと追いつめられた悠理は、愛想笑いを浮かべ、
「清四郎ちゃん、ほら、剣客商売、見なくっちゃ。せっかく第一シリーズから放映してるんだろ」
悠理の言葉に清四郎はにっこり笑って、
「大丈夫です悠理。僕は山形版も、藤田版も、スペシャルも、すでにDVDに録画してありますから」
「げえっ」
悠理は、思わず清四郎が言うところの池波正太郎定番の「げえっ」を漏らし、思わず、手で口を覆った。
「さあ、悠理、二人で無外流の奥義を極めましょう」
「なんだよっ、無外流の奥義って」
「僕はすでに免許皆伝ですから、悠理にもそれを伝授しますよ。突くも、引くも自由自在です」
「だからっ、何の免許が皆伝なんだよっっ〜〜〜」

何が何だか意味がわからないまま、悠理は清四郎から真剣での勝負を挑まれ@@@なことや、@@@@な責めを存分に修業させられた。
彼女が免許皆伝となったかは、清四郎しか知らない。






チャンチャン♪



次、行ってみよー!
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こりゃダメだ、脱出!