清四郎くんのためになるウンチク講座〜植木等編〜
がっくりしている。 清四郎が、このように打ちひしがれている姿は、阪神タイガースがロッテに日本シリーズで4連敗して以来だ。
「せ、清四郎…どうかしたの」 悠理がおずおずと声をかけると、頬を涙で濡らした清四郎が顔を上げた。 「清四郎…」 「ゆ、悠理…」
嗚咽を漏らす清四郎が、耳からヘッドホンをはずし、悠理の腕に崩れ落ちた。 「ど、どうしたんだよ、清四郎!」
悠理は、思わず清四郎を抱きしめた。 その時… 「ん?」 ヘッドホンから妙に明るい声の歌声が漏れ聞こえた。
悠理は、耳を凝らした。 「ごまをすり〜ましょう、陽気にごまをね〜あ、す〜れすれ」 悠理は首をかしげた。
こんなにがっくりしていた清四郎が聞いているのが、こんな能天気な音楽… あっと、悠理は思い立った。
(確か、クレージーなんとかというグループの植木等というじいちゃんが亡くなったとテレビでやっていたな。
豊作兄ちゃんが父ちゃんとテレビを見ながら、惜しい人を亡くしたと言っていたっけ。 って、もしかして、清四郎も…)
悠理は、くいっと清四郎の顔を上に向けると、 「もしかして、お前、植木等のファン?」 と、尋ねた。
清四郎は、ずっと鼻水をすすると、 「ファンなってもんじゃありません。あの人は僕の神様です」 「か、神様…?」
清四郎はすっくと立ち上がると、 「いいですか、悠理。悠理はドリフが好きですよね」 「う、うん。ちょっとだけよ」
「そのドリフの先魁がクレージーキャッツです」 清四郎は、ふんっと鼻を広げた。
「クレージはただのコミックバンドではありません。ジャスバンドとしても一流なんです」 「ジャ、ジャス?」
「ハナ肇をリーダーに、植木等、谷啓、安田伸、石橋エータロー、犬塚弘、桜井センリがメンバーです。まあ、石橋エータローは途中で退団していますが」
「ほえ」
「1960年代にテレビ、映画にと大活躍だったのですよ。殊に、植木等は無責任シリーズの映画と歌の大ヒットで、一躍スターとなりました。悠理も今度一緒に見ましょう。ほんと素晴らしい作品ですよ」
「う、うん…で、何本くらいあるの」 「30本はありますね。中でも、無責任シリーズと日本一シリーズは必見ですよ」
「さ、30本もあるの…?」 「大丈夫、三日もあれば観られます」
…合宿かよ…と悠理は思った。
ふと、清四郎は、かくっと肩を落とすと、足を交差しながら、手をぶらぶらさせ、 「あ、す〜いす〜いす〜だらった、すらすらすいすいすい〜〜〜」
と、歌いだした。 思わず吹き出しそうになるのを悠理はぐっと堪えた。 清四郎の目から懋だの涙が溢れていたからだ。 「清四郎…」
清四郎は、ヘッドホンのジャックを抜くと、流れるクレージーメロディに合わせて狂ったように歌い、踊った。 「せ、清四郎〜」
悠理はコミカルな歌なのに、何故か鬼気迫る清四郎を眺めていて、背筋がぞくっと震えた。 大丈夫か?この男は…
「悠理」
急に清四郎が悠理の肩をがしっと掴むと、 「これから二人で植木さんの追悼をしましょう」 「つ、追悼って、え、映画でも観るの」
「ハッスルです」 「へ?」 「クレージー作戦!くたばれ無責任です」 「なに?」
「その中で、植木さんは飲むと仕事や恋にハッスルするハッスルコーラを売るんです」 「で?」
「ですから、我々も、彼の追悼のため、ハッスルしますよ」 そう言いながら、清四郎は悠理の服を剥ぎ始めた。
「って、なんだよ、ぜんぜん追悼じゃないじゃんか」 「追悼です!ハッスルです」 わけがわからない理由で、悠理は一晩中ハッスルさせられた。
悠理が清四郎を日本一の無責任男と思ったのは言うまでもない。
チャンチャン・・・・

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