「清四郎くんの為になるウンチク講座〜耳垢編〜」
「なぁ〜、清四郎こっち来いよ〜。」 清四郎が剣菱家の悠理の豪華な部屋に足を踏み入れると 広いソファの上から彼の愛してやまない女性が手招きをして彼を呼んだ。 「どうしたんですか?悠理。」 白いホルターネックのカットソーにカーキ色のショートパンツ、 ソファの上に胡坐を掻いてニコニコと笑っている彼女の愛らしさに、 思わず笑みを漏らしながら清四郎は優しく問いかけ、彼女の前に立つ。 が、返ってきた答えに思わず彼の顔が曇った。 「ほら!父ちゃんが昨日奈良に行っててさ。お土産に買ってきてくれたんだよ、奈良の名産柿耳掻き! すご〜い調子いいじょ。お前のも取ってやるからこっち来いよ〜!」 「…いいですよ。そんなこと。それに、今日は試験前の勉強をする約束でしょう?」 「へ?なんで?お前やって欲しくないの?」 さりげなく清四郎の台詞の後半を無視しながら、悠理が首を傾げる。 「正直言って、やって欲しくありませんね。」 「そうなの?こないだ女三人で飲んでる時に可憐が言ってたじょ。 『男って、彼女に膝枕してもらって耳掃除してもらうっていうシチュに憧れるもんよね。』って。お前はそうじゃないの?」 「女三人で何の話してるんですか…まあ、たいていの男はそうなのかもしれませんが。」 「それに野梨子も言ってたぞ。『魅録も時々、耳掃除してくれよって、甘えてきますのよ。』って」 「魅録の奴、野梨子にそんなことさせてるんですか!元ゾクのヘッドともあろう奴が…」 「んで、美童もさ〜、『いいよね、耳掃除してもらうのって。その後のお楽しみにも続けやすいしさ。』って。」 「成る程、さすが美童ですな。それは使えそう…って、なんで女3人の会話に美童が混ざってるんです?」 「ん?なんか野梨子と可憐とこに行ったら、美童が来てたの。」 「ほー、成る程。」 「だからさ、してやるよ!清四郎。ほらぁ〜。」 悠理は自分のひざをぽんぽんと叩きながら、焦れた様にそう言う。 「僕はいいです。大体、お前にやってもらったら鼓膜破られるのがオチでしょうからね。」 「なんだと!いくらあたいでもそんなことするかよ!」 「はいはい、すみませんね。大体、僕の耳垢は湿性なんで耳掻きよりも綿棒のほうがいいんですよ。」 「シッセイ?それ何?シツレイってこと?」 「それは失敬。じゃなくって、耳垢が湿ってて柔らかいタイプなんですよ僕は。」 「え〜、何それ?気持ちワル〜い。病気じゃねーの?」 「(ムッ)違いますよ。耳垢には悠理のように乾いてカサカサした乾性と、僕のように柔らかい湿性があるんです! それに、世界的に言うと湿性の方が大多数なんですよ。」 「へ〜、そうなの?」 「そうなんです。(エヘン) それでね悠理、耳垢のタイプで人種のルーツがわかるんですよ。」 「え、嘘!何それ。」 興が乗ったのか、清四郎は右手の人差し指をぴんと立てて見せながら、滔々と論じ始めた。 「日本人の起源は南方からやって来た古モンゴロイドと、北方からやって来た新モンゴロイドとの 混血だと言われてましてね。古モンゴロイドの特徴は比較的長い手足・濃い体毛・彫りの深い顔・、 二重まぶた・パッチリと大きい目・濃く太い眉・そして湿った耳垢を持っているということ。 ほら、大体僕に当てはまるでしょ?それに対して…」 「お前、体毛薄いじゃん。」 「ぐ…(コホンッ) それに対して、新モンゴロイドは胴長短足・丸みを帯びた体型・薄い体毛・扁平な顔 ・一重まぶた・細い目・薄い眉・そして乾いた耳垢を持ってるんです。あれ?悠理にはあまり当てはまりませんね。 まぁ、おじさんには当てはまるところが多いかな?」 「ふ〜ん、そっかぁ。すごいなぁ。」 清四郎の博識ぶりに今更のように悠理は感心し、目の前の恋人を尊敬の目で見上げた。 その瞳を見つめ返しながら、清四郎は悠理の座っているソファーの背もたれに手を着き、 穏やかな口調で続けた。 「面白いでしょう?悠理。それでね…」 「んー?」 「湿性耳垢は乾燥耳垢に対し優生遺伝するんです。つまり、湿性耳垢の人と乾性耳垢の人の子供は 湿性耳垢になるってことですね。」 「うん?」 今ひとつ恋人の言うことの真意がわからない様子で、戸惑うような視線を投げかける悠理に 清四郎はあくまで優しく畳み掛ける。 「だから悠理と僕に子供が出来たら、その子の耳垢は湿性ということになるんですよね…」 「へぇ…」 「実証してみませんか?」 「は?え…と、あ…やめっ…あっ、ああんっ…」 二人の夜は続いていく… |