麗編


彼氏の名は清四郎。彼女の名は悠理。
ごく普通(?)の二人はごく普通(?)に恋をし、ごく普通(?)のお付き合いを続けていました。
ただひとつ違ったのは…


―――彼氏は「変態」だったのです。



  
『ラブラブシチュエーション〜オフィスレディー編〜』




「お待たせしました」
ガチャリ……剣菱邸の悠理の部屋に備え付けられているバスルームのドアが開き、清四郎が出てきた。
身に着けているのはダークグレーの仕立ての良いスーツ。中のシャツはオーソドックスに白、ネクタイもトラディショナルな柄だ。
はっきり言っていつもと大差ない。違うのはシルバーフレームの眼鏡を掛けていることぐらいだ。

「…今日は普通だな」
悠理は腕組みをして目の前に立つ長身の恋人の顔を見上げながら言った。
そう言う悠理は白いブラウスにグレーの三つボタンベスト。
グレーのタイトスカートから薄いストッキングを履いた足を覗かせて学習机のイスに腰掛けている。
ゆるく組まれた足の艶かしさに、清四郎の目がすっと細められた。
どうやら彼の頭の中ではこれから始まる事へのイケナイ妄想がぐるぐると渦を巻いているらしい。


「悠理、今日のシチュエーションは?」
どこから借りてきたか、オフィスデスクをがたがたと音をさせて引っ張りながら清四郎が聞いた。
「課長とおふぃすれでー」
机に肘をつき、悠理が気のなさそうな口調で答えた。
「オ・フィ・ス・レ・ディ・ー。通称OLと言えば、ナース、スッチーに次ぐイメクラ界の三大制服ですよ!もっと気合入れてください!」
こめかみに筋を立て、拳を握り締めて清四郎が叫んだ。
「どうせやるんなら、あたいスッチーの方が良かったなぁ」
怒られてもなお、気のなさそうに悠理は髪をいじりながら言った。
「おや、僕だってそう考えたんですがね。でもお前の頭ではあの「アテンション・プリーズ…」に続く一連の台詞は無理でしょう?OLなら「頭の悪いOL」という設定で出来ますがね。」
「お前、それが恋人に向かって言う台詞かよっ!」
机をバンッ!と叩いた悠理が柳眉を逆立てた。


(おっとやばい。ここで悠理の機嫌を損ねたらこの後のお楽しみが…)
清四郎は急いで懐柔策に出た。
「ほら、OLならデスクでおやつ食べ放題ですよ」(そんなことありませんね)
言いながら、デスクの引き出しからアメやガム、お饅頭などを取り出して見せる。
ケダモノを手懐けるには食べ物が一番だ。
「やった〜!これ全部食べていいの?」
「もちろんです」
悠理は幸せそうに手にした納屋橋饅頭(清四郎の脳内設定では先日名古屋出張より戻った某嬢のお土産)を頬張った。


むしゃむしゃと続く租借音を聞きながら、清四郎は自分のデスクに座った。
手に書類を持って読む振りをしつつ、悠理に声を掛ける。
「悠理君」
「はい、課長」
今までの鍛錬(?)の成果か、悠理は与えられた台詞を即座に口にした。
と言っても、悠理の台詞はこの「はい、課長」のみであるが。
ちなみに、今日の設定は「アパレル系商社の商品企画課の課長とOL」である。
何故部長ではなく課長なのか?清四郎の答えは「課長の方がエロい感じ♪」である。

「この間頼んでおいた新製品のモニター結果の報告書は?」
「はぁ?」
いきなり与えられていなかった台詞を求められ、悠理は呆けた声を上げた。
清四郎の目が眼鏡越しにきらりと光る。
「出来ていないんですか?…仕方がありませんねぇ。」
清四郎は片手を来い来いと悠理に手招きして見せた。
悠理は怪訝そうに椅子から立ち上がり、清四郎の前へとやって来た。
「じゃぁ、一緒にモニタリングしますか」
言うが早いか悠理の腕をぐっと掴んで引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。

「なっ、何すん…」
(何すんのって、決まってるじゃないですかねぇ)悠理のうろたえた声を軽く無視し、
「ではまず、生地の肌触りを…」
そういうと、清四郎は悠理の腰から身体のラインを撫で上げた。
「ひゃあっ!」
悠理はくすぐったさに思わず身をよじった。
「ふむ。肌触りはなかなかのようですねぇ」
撫で上げつつ、ついでにぺろんと首筋を舐め上げる。(それは余計なことだろう)

「では次は、着脱のしやすさです」
そういうと、ベストのボタンを上から片手でひとつずつ外し始めた。
「あ…ちょっとぉ…」
もう片方の手で服の上から胸を揉まれ、悠理は思わず喘いだ。
「悠理、台詞は?」
悠理の様子に眼を細め、敏感な部分を摘み上げながら意地悪く聞いてみる。
清四郎の中に流れる真性サドの血が騒ぐ瞬間だ。


「あ…課長…やめて下さい」
ずっくーーん!
悠理の少し鼻にかかった吐息交じりの台詞に、清四郎の男の部分が一気に元気づいてしまった。
(入れたいっ!)逸る気持ちを必死で押さえつける。(息が多少荒くなるのはしょうがない)
お楽しみはまだまだこれからだ。


「む…ん……着脱のしやすさも問題は無いようですね。では、今度は機能性です」
そう言うと清四郎はおもむろに悠理の膝を抱え上げ、足を大きく開かせた。
「ぎゃああっ!何すんだよっ、変態っ!」
「…だからそれは聞き飽きたと言ってるでしょう?ふむ、スリットの長さも良し。機能性、問題ありません」
悠理の感じやすい首筋を舌と唇で責めながら、足を掴んだ手を内側へと滑らせ敏感な部分を刺激する。
もう片方の手は胸のふくらみをすくい上げるように持ち上げて揉む。
「や、あんっ…何が機能性だよ…単なるスケベジジィじゃないか……」
悠理の負け惜しみに、行為に没頭しながらも清四郎は片眉を上げて答える。
「ちゃんと課長と呼びなさい!それとも、お仕置きして欲しいんですか?」


『お仕置き』と言う言葉に悠理は涙を浮かべてふるふると首を振った。
喧嘩上等の悠理をここまで怯えさせるとは。
一体今までにどんな仕打ちを受けてきたのだろうか?気の毒に。
悠理は清四郎を見返すと泣きそうな声で懇願した。

「やだ…ちゃんとするから…お願い」
ぼっきーーーん!(単なる擬音です。深く考えないように)
潤んだ瞳で見つめられ、清四郎の欲望は既に限界点に達しつつあった。
「で、では…」
思わず声が上ずる。清四郎は悠理を抱え上げて自分の方に向きなおさせた。



「最後はやはり一番重要な……耐久性のテストです!!」
言うが早いか清四郎のご無体な両腕が悠理の着ていたブラウスをむしり取り、悠理を机へと押し倒す。
穿いていた薄いストッキングも当然のように引き裂かれ、二人は性急な愛の営みへと突入して行ったのであった。
「あーーーーーーっ!」
後に残るは哀れな悠理の叫びのみ。……新商品の耐久性はどうやら不合格のようだ。




「なぁ……」
コトの後、引き裂かれた制服に目をやりながら悠理が聞いた。
「…何ですか?」
「どんなシチュエーションでもさぁ、結局やることって一緒じゃん」
「ぐ……」
「これって、何の意味があんの?」
悠理の素朴だが真っ当な疑問に清四郎は言いよどんだ。
「男の……」
「男の?」





「悲しい性…ですかね」








チャンチャン♪



次、行ってみよー!
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こりゃダメだ、脱出!