「もう、がまんができないんです、悠理」 清四郎は後ろ手に扉をぱたんと閉じた。 「清四郎…」 悠理はこれから起こるであろうことを予測し、でも、もう逃れられないのを感じた。清四郎の目が、とても真剣だったから。 怖い、とは思う。でも自分も本心ではそうすることを望んでいなかっただろうか? 「いいよ。お前の気持ちは前から知ってた。好きなように、しろよ」 「本当にいいんですか?途中でやめろといわれてもきっと止められませんよ」 そう言いながら、清四郎は悠理に一歩、近づく。 「あっ…」 悠理は目をぎゅうっと閉じた。涙が頬を伝う。 がっくりと脱力している悠理の顔を清四郎が覗き込む。 「大丈夫ですか?まだまだこんなもんじゃないんですがね」 「だって、そんなコト…するなんて」 清四郎の長い指がつつ、と這う。 「悠理、皆していることです。慣れて下さい」 「でもやっぱ…こんなヌルヌルするし、き、汚い、よ」 「何言ってるんです?ほら」 「あ、ああっ」 「気持ちいいでしょう?」 「んん…」 なんて刺激。 あまりの感覚の痺れにめまいがして、清四郎に縋る。 初めての感覚に、悠理も最初は困惑気味だったのだが。 何度も何度も滑る手。 「ほら、もうこんなになってますよ、悠理」 「あ…あぁ」 少し、悠理のほうにも余裕が出てきた。 「これでもまだ、止めてほしいですか?」 清四郎が意地の悪い笑みを浮かべて、聞く。 「や…めるなんて、できないの分かってるくせにっ!」 たまらず悠理は叫んだ。 右手にゴム手袋、左手にカビ取りハイター。 悠理は左手に使い古しの歯ブラシを持ち。 そう、二人がしているのは、風呂場のそうじ。 「風呂に入るたびにカビが目について目についてしょうがなかったんですよ」 と、清四郎は言う。最近忙しかったですからね。休日の今日こそ、徹底的にやりますよ、と。 清四郎はゴーグルにマスクと顔面を完全防備している。しかし悠理は、カビ取りハイターを甘く見ていた。刺激臭で、目からは涙がこぼれ、鼻もつんとする。 「ほら、だから言ったのに。ゴーグル持ってきましょうか」 「うん」 悠理にしてはおとなしく、清四郎の言うことに素直に頷いた。 ゴーグルを装着し、さらに精力的にそうじに励む。それぞれに背を向けて、違う壁をこする。 「うぎゃあ、シャンプーの陰がすごいことに!」 「そうそう、そうやっていろんなもの動かして全部きれいにするんですよ。カビが少しでも残っていると増殖しますからね」 「だんだんきれいになってくなー」 「でしょう?やりはじめるとなかなか楽しいものですよ。カビにとっては地獄絵図。阿鼻叫喚のところを想像しながら最後の仕上げにシャワーをざぁっと」 「あ、最後にシャワーかけるの気持ち良さそう、やりたい!!」 「はいはい」 |