「悠理、アレの買い置きってもうありませんでしたっけ?」 朝の食卓で、清四郎が尋ねる。 「んあ?もう無くなったのかよ」 マーマレードをたっぷりと塗ったトーストを、大口を開けて頬張ろうとしていた悠理。 「お前が一度にたくさん使うからすぐ無くなるんだろ」 「そうは言っても、悠理だって使うじゃないですか」 「そうだけどさー。基本はお前じゃん」 そう言い放つと、悠理はもぐ、とパンを口に入れる。 「そんな、リスみたいに頬張らなくても、誰も取りはしませんよ」 くすくす笑いながら、パンで膨れた悠理の頬に触れる。 「…今度はどっちが買いに行きますか?」 「この前はあたいが行ったんだから、今度はお前の番だじょ!」 「そういうところはちゃんと覚えているんですねえ…」 苦笑しつつ、空になった悠理のマグカップに温めておいた牛乳を注いでから、コーヒーを入れる。悠理はそんな清四郎の姿を当然のように見ている。 「あったり前じゃんか!いくらあたいでも、あれだけ買うのって恥ずかしいんだぞ!」 「他のも一緒に買えばいいじゃないですか」 「“僕なりにこだわりがあるので悠理は買わなくていいですよ”って言ったのは誰だよ…」 「まあ、確かに僕ですけどね」 「しかも、アレだってあの大きさじゃないとダメなんだろ?」 悠理は頬づえをつき、口を尖らす。 「そうですよ。そうじゃないとすぐ使い切ってしまいますからね」 「置いてある店遠いんだよなー」 「悠理にとっては運動にもならない距離でしょう?」 「そうだけどさ!アレばっかり5個も6個も買ってみろよ!あたい変に思われるじゃないか!!」 どうやら、悠理のわだかまりはそこにあるらしい。 「僕だって恥ずかしいですよ。なんたってスーツ姿ですからね」 「そんなん関係ないやい!」 「はいはい。すみませんね」 どんなに言われたって、結局折れるのは清四郎だ。だいだい、こんなことで朝からケンカするのもバカらしい。 「帰りに、ちゃんと買ってこいよ!すぐ無くなんないように、最低5個!」 びしっと人差し指をつきつけられて命令される。 その日の帰り。 清四郎の手には、ハーシーズのチョコレートシロップ(大)のボトルだけが6個入った紙袋が下がっておりました。 その日の夜のデザートは、もちろんチョコレートパフェ。…ごちそうさま。 |