ふたりの家で、かすかに軋む音がする。 「ね、清四郎…まだぁ?」 そう尋ねる悠理の額にはうっすらと汗がにじみ、その身体はゆるく上下に揺れている。 「まだですよ。まだまだです」 そう答える清四郎の顔は涼やかだ。 「えーっ…」 不満そうな声を上げつつも、悠理は動きを止めない。 「…あたい、疲れてきた…」 「何言ってるんです!さっきの僕の半分も動いてませんよ」 にべも無く言われてしまい、悠理は、頬を上気させつつ動き続ける。 しばらくして悠理が口を開いた。 「こんなに大変だとは思わなかった…」 「今更ですよ。大体、やってみたいと言い出したのは悠理の方なんですからね」 「…だって、ビデオ見てたらやってみたくなったんだもん!」 「だから、意外と大変ですよって止めたじゃないですか」 「だってやったことなかったしぃ〜。気持ち良さそうだったんだもん!」 悠理は、恨みがましそうに、けれどどこかに甘さを含んだ視線を、清四郎に送る。 「まあ、言いたいことはわかりますけどね」 清四郎は苦笑しつつ、さり気なく悠理の動きをチェックする。 「ほら!甘くなってきてますよ。もっとちゃんと腰を入れて!」 「へーへー」 「これが終われば美味しいご褒美に変わるんですから、頑張って下さい」 “ご褒美”という言葉を聞いて、悠理は俄然張り切り出す。 「よぉし!待ってろよ、あたいのうどん〜〜!!」 そう、悠理は手打ちうどんの腰を出すため、生地を足で踏んでいたのだ。 ビデオとは、手打ちうどんセットに同封されていた“手打ちうどん講座”のビデオ。 清四郎の横でそれを見ていた悠理は、厚手のビニール越しとはいえ、うどんの生地を足で踏むという誘惑に勝てなかったのだ。 「ふむ。そんなもので良いでしょう」 「やった!うどん!!」 「さて、次はこれを1時間以上寝かせて…と」 「ええーーっっ!!!」 「まあまあ。知り合いの先輩から教わった、チョコシロップを使ったアイスクリームを作っておきましたから、それをおやつに休憩しましょう」 “おやつ”という言葉を聞き、途端に満面の笑みを浮かべる悠理。 「やったあ!清四郎ちゃん、愛してる〜〜!!」 その後、悠理が美味しく頂かれてしまったかどうかはさておき。 アイスもうどんも、それはそれは美味しかったそうです。…ごちそうさま。 |