九州一の大歓楽街中洲のど真ん中まで移動した二人は冬場のお薦め、”ふぐを満喫する”ことに決めた。
店の入り口を入ったとき、身なりがいかにも今時の若者な二人に”一見はお断り”だと言いかけた案内係りは、でてきた女将に目配せされて黙った。 女将が魅録のピンク頭と顔つきで松竹梅時宗をすぐに連想させたためだった(かねがね、魅録の自慢話を聞かされていたためだと言う)。
「まあまあ、これは松竹梅様の御子息ですわね?。お父様にはいつもご贔屓にしていただいておりますのよ。さあ、どうぞこちらへ」 悠理と魅録は奥まった一角へ案内された。
「うっま〜い♪」
小鉢の骨煎餅から始まって、ふぐ刺・ふぐ唐揚・ふぐちり・雑炊、その他、季節物で女将お薦めのオコゼ料理を次々に平らげる。
「…相変わらずよく食うよなぁ」 「うるへーぞ魅録。うわ!これも美味い!!」
ヒラメ、イカ、鯛の刺身、アジのタタキ、アラカブの煮付、鯛茶漬、太刀魚、イワシ、キスなど玄海の幸の塩焼… 年齢には少々目をつぶってもらったらしく、ふぐのひれ酒をいただいて、心ゆくまで冬の味覚を堪能していく♪
「よぉ、悠理。今夜は金曜だから明日はいいとして、月曜までには戻る気でいるんだろうな?」 魅録は幸せ一杯で胃袋を満たしている悠理にあきれ顔で訊ねる。
「……美味い物食ってるときに、やなこと思いださせんなよ」 箸をとめ、悠理がしょげる。
「んな事いってもなあ」 魅録は酒を杯につぎ足し、すする。
「…お前だって聞いてただろ?あの清四郎の”美童には……譲れません!!”ってやつ」 「ああ」 「それだけでも学校行きずらいのに、あの目立つ奴らが廊下であたいの名前叫んで徒競走だぞ!?……あいつらなんか間違ってるよな」 悠理ははーっとため息をついた。
(こいつにはなぁ…男心はまだわからねえよなぁ。まあ、あいつらもやること派手だけど) 魅録は、助言するべきかしないべきか迷ったが、そのままへたりこもうとする悠理を見かねて口を開いた。
「−−美童の方はどうなってんのかわかんねーけど、清四郎がかなり前からお前の事を気にかけてたのは知ってたぞ?」 「へ?」 悠理がきょとんとして魅録をみる。
「お前は全然意識したことないんだろうけど、あの…婚約騒動の後しばらくした頃から、なんか違うかなと…思い始めて。最近は清四郎に自覚が出たみたいだったから、俺だけじゃなくて野梨子や可憐だって気づいてると思うぜ?」 (多分、美童もその点では確信犯だな)
「えぇええぇぇぇぇ?????」
悠理は魅録を見つめたまま真っ赤になった。
「嘘だろ…?」 「この状況で嘘ついてもなぁ…」
「んなこといっても、美童に張りあってあんなキスされても…あたいだって困るんだよ!」 「へ??」 今度は魅録が真っ赤になる番だった。
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時間も遅くなってきたので、ラーメンは明日に持ち越し、女将に挨拶をすませ二人はホテルへ戻ることにした。 近くのコンビニでビールや日本酒を山ほど買い込み、悠理の部屋で酒盛りをはじめる。
(酒でもはいんねーと俺、ぜってー聞けねーぞこの話…) 魅録は頬が赤いのは酒のせいにしてしまって、悠理が話ししぶっていた部分を聞き出すことに成功していた。
「…結局、美童と清四郎…どっちともその…キスしたって事か」 「したっていうか…」 悠理は赤くなってそっぽを向く。
「ついでに言うと、美童とは成り行きだけど、清四郎は確信犯な訳だ」 「…………」 悠理は缶ビールを一気にあおる。
「で、お前の気持ちは?お前はどっちか少しは好きなわけ?美童か清四郎か」 「………わかんねー。でも、清四郎にはどっちもダチだと思ってるって返事したぞ」
(うわー…) 魅録は清四郎が気の毒になった。 「それが何で今朝は一緒に登校してくることになるんだ??俺はてっきり清四郎の方を選んだのかと思ったぞ?」
「−−清四郎が”あたいが学校に来づらいって言うなら毎朝迎えに行ってやる”って言ったんだよ!。あたいは別に頼んでないじょ!−−朝、飯食いに降りたらもうテーブルに着いてたんだよ!父ちゃんも母ちゃんも…兄ちゃんまで大歓待しててさ。あのまんまじゃあたい、前みたいにあっという間に結婚させられちまうと思って…」
「…そりゃ、大歓待だろうなぁ…」 剣菱家の光景を想像して魅録はうーんと天井を仰いだ。 目の前の悠理は、まだどちらにも恋心のようなものは抱いてないように見える。
魅録は質問の仕方を変えた。 「なら、世の中にあいつらしか男がいないとしたら?どっち選ぶ?」 「……究極の選択かよ……」 悠理はぶすくれる。
「つまんねーって言うなよ。お前に他に好きな奴がいないなら、考えてみる余地はあるだろ?美童と清四郎だぞ?どっちもいいやつだし」 「……お前、勧めてんのかよ。あたいがどっちかと付き合うこと!」 「嫌なのかよ?」 「わかんねーって言ってるだろ?…だいたいなあ!美童からは”好き”なんて台詞は聞いてねーし、清四郎は…」
(清四郎は…)
「−−悠理、僕がどのくらい前からお前の事が好きだったか、分かりますか?」
「じゃあ、どのくらい好きになってるかは?」
「清四郎は?」 魅録が静かに聞き返す。
「…美童もだけど、好きか嫌いかって聞かれたら、好きだよ。だって−−ダチだもん」 悠理は小さく返事をした。
しかし、その瞳が揺らぐのを魅録は見逃さなかった。
「なら悠理、−−−いっとくけど、マジな質問だから、怒るなよ?−−−その…お前がしびれたのはどっちとのキスだったんだ?どっちの時も逃げなかったんだろ?それがお前の中での優劣なんじゃねえの??」
魅録の質問に悠理はショートした。
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魅録が部屋を引き上げてからも悠理は1人でしばらくビールを飲んでいた。 いくら飲んでも酔わない気がする。
(…キスが…うまいとか下手とか、正直わかんねーぞ) (でも、ムードがあるないは、絶対美童が上だったよな…) (清四郎とのキスは…)
悠理は目を閉じて記憶を辿った。
美童からは優しく教えられるような感覚だった。 完全に翻弄され、されるがままに魅了されていた。
清四郎のキスは…強引だけど、優しくて…最後の方はあたいからも…。
悠理は全身がかっと火照るのを自覚してブンブンと首を振った。 (…あたいどうかしてるよな)
自分が思い描いた生々しい想像に、恥ずかしくなってシャワーを浴びるため、バスルームへ駆け込んだ。
昼間、チェックインしたときに大笑いした変形三角形のユニットバスにちょっぴり湯をはり、体育座りで座ってみる。
「狭!!」 「すげーなビジネスホテルって」 大笑いしながらシャワーを浴び、室内へ戻ったとき、ドアを軽くノックする音に気付いた。
「魅録?なんだ?忘れもんか?」
ここを知っているのは魅録だけだ。 悠理は確認をせず、ドアを開けた。
「−−入りますよ」 悠理には相手が誰か確認する暇はなかった。
いきなり夜気を含んだ男の身体がドアの隙間から強引に忍び込んできて、ドアの鍵を閉めた。
「せ!!??(せいしろう!)」 悠理は目を見張る。
「しー!悠理、こんな時間に大声を出したら、壁が薄いビジネスでは丸聞こえですよ」 慌てて悠理の口を手のひらでふさいで清四郎は笑った。
時刻は深夜1時を少し回ったところだ。 悠理は驚きすぎて息が止まりそうだった。
清四郎はそんな悠理に構うことなく、着ていたコートを脱いでハンガーにかける。 「1人でこんなに飲んでたんですか?あ、まだありますね。僕にも一本ください」
(???)
悠理の返事をまたず、ビールを開け、立ったまま飲み始める。
「お前、なんでここが…??」 「魅録から百合子夫人へ連絡があったんですよ。で、僕はおじさんとおばさんのヘリでここまで」
(−−−−魅録のやつ!!!!!)
悠理は真っ赤になって憤慨した。 それを見て、清四郎は眉を少しさげた。
「魅録を責めないでくださいね。魅録は”博多でシングルを二部屋とって、ビジネスに泊まる”と伝言しただけです。ここがわかったのは剣菱家の情報網ですよ」
「…どんな情報だよ」 悠理は疑いの目を向ける。 清四郎はからかい口調になる。
「悠理、今夜ふぐ食べに行ったんでしょ?その店は、時宗のおじさんと、万作おじさんのお気に入りだって知ってます?」
「…………知らなかった…じょ…」
行き先を探られないように、思いついた新幹線に乗った。 適当な住所と名前は本名を書いてホテルにチェックインした。
剣菱の名を出して、問い合わせれば分からないはずはなかった。 名前だけは本名を書いていた自分のミスだ。
悠理はそこで気力が果て、ベッドに座り込んだ。
「悠理、僕はお前に側にいて欲しい」
清四郎は唐突に言った。 驚いた表情の悠理の返事をまたずにさらに言葉をつぐ。
「…今、悠理の中に美童や他の誰かがいるのならあきらめます。これだけ答えてください。悠理、好きな人がいるんですか?」
清四郎の瞳は真剣だった。 悠理はふるふるとかぶりを振った。
「いないんですね」 「悠理は僕の事が嫌いですか?」
「好きか嫌いかって聞かれたら、好きだよ。だって−−ダチだもん」 先程魅録に返した台詞をそのままつぶやく。清四郎はこくんとうなずいた。
「−−嫌いではないんですね?」 念を押す声にうまく返事ができないのでこくんとうなずいた。
「それなら、試しに……僕をみてもらえませんか?−−いや、みてもらいます!」 (みてもらうって…)
悠理はなにやら勢いのある宣言をした清四郎に返事をしようと顔をあげた。 次の瞬間、狭いベッドに仰向けに押し倒されていた。 あまりの素早さに逆らう暇がなかった。
「−−ひゃ!!」
「悠理、僕は貴方を愛しています。どうしてもお前を他の誰かには渡したくない!」
********
清四郎は黒いタートルネックのセーターに濃茶のパンツを着ている。 が、悠理は気付いてみるとパンツの上にバスローブ一枚の姿だった。
日頃見慣れない狭い部屋のこれまた狭いシングルベッドの上で何の前触れもなく覆い被さってこられ、悠理は焦りまくった。
「おまっ!!ちょっと待て!ちょっ!!!」 「しーーーっ!!!」 大声を出す子供を叱るようなしぐさで、清四郎は悠理の唇に指をあてる。 「な…な……」 「今何時か、知ってます?−−他の部屋に迷惑ですから、静かにしてくださいね」
熱っぽい目をした男は少し意地悪そうにそういうと、再度叫びだそうとした彼女の口をキスで塞いだ。
「う…う…ちょっ!ん…」 何とかやめさせようと息継ぎの合間に声をあげようとするが、声になる前に強引な清四郎のキスに言葉をすべて絡め取られる。
悠理の抗議をキスで封じ、清四郎はバスローブの紐に手をかけ、ゆっくりとひいた。
(−−−−!!!!)
言葉を封じているため、清四郎は悠理の身体を見ることはできない。 指先の感触だけでバスローブの前をはだけさせ、右手をなめらかなウエストへ這わせていく。 さらにゆっくりとした動きで彼女の胸元へ向かって手を進めていく。
清四郎の意図に気付き、悠理の身体は緊張で跳ねた。
「んんん…!!」
抵抗する脚は体重をかけて押さえ込まれ、動けない。 必死で抵抗するが、抵抗すれば抵抗するだけ清四郎のキスは深まっていく。
さらに無言のままの愛撫が続く。 温かい、大きな手で胸を強く・優しく、刺激されていく。
悠理は頭がクラクラしてきた。
言葉を塞ぐためとはいえ、続けられる執拗なキスと、初めて体験する愛撫に…嫌なはずなのに、全身が熱を持ってくるのが自分で分かる。きっと顔だって真っ赤になっているんだろう。
「悠理…」
ぐったりとおとなしくなった悠理をやっと口づけから解放し、清四郎はその額にキスを落とす。 その間も、清四郎の手は休むことなく、悠理の胸を包み込み、まさぐる。 強い刺激に全身が粟立ってくる。
(自分の身体が熱い−−。清四郎の手が熱い−−)
「ん…!!…もうだめ………」 悠理は両手で胸をかくそうとあがくが、あっさりと組み敷かれる。
「悠理、−−僕はお前が好きだ」 清四郎は悠理の耳元でそうささやくと、両手がふさがってしまったので、ゆっくりと悠理の胸の頂を唇でついばんだ。
「やあぁあ!!」 思わず大声をあげる。
「しー!。悠理…だめですよ」 清四郎は再度悠理の唇を塞ぐ。 ややあって、悠理の抵抗が弱まってから、そっと離れる。
「ダメって…お前なぁ!自分がやってること、わかってんのか?!−−同意がなかったかこんなのレイプだぞ!!」
悠理の目に涙はない。 ただ、羞恥のためか全身真っ赤に染まっている。
「−−レイプになんてしませんよ。僕はお前を愛してますから。お前を傷つけることはしない。…でも、もうお前に触れずにはいられないんです。これ以上はお前を待てない」
「−−あたいの気持ちはどうなるんだよ!それじゃストーカーだぞ?!」 悠理は真っ赤な顔で言い返す。
本当は大声でどなりたかったが、大声を上げればどうなるか、この数分の間に学習させられてしまっていた。
「ストーカー…はあんまりですね。…そうしたら、もう一度聞きますよ?。悠理」 清四郎の指が悠理の形の良いへそをなぞる。
「−−悠理は、僕が好きですか?嫌いですか?」
腹部を温かい手のひらで愛撫されながら、清四郎は悠理の耳元にキスをして問う。
(身体の中がなんだかぞくぞくする) (全身が熱い…熱い…熱い…) (嫌いだと言ってしまえば、清四郎はやめてくれるんだろうか?) (あたいは清四郎の事を…) (好きか嫌いかって?)
思考を遮るようなキスの嵐と、愛撫に悠理は清四郎に返事をすることができなかった。
数秒間、見つめ合った後、悠理は再び唇を塞がれた。 強引で激しい絡め取るようなキス。なのに、ちゃんと清四郎の優しさも伝わってくる。
今夜初めて、清四郎の腕にそっと指をかけ、悠理は観念の目を閉じた。
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「悠理…」 自分の身体の下で目を閉じてキスを受けている悠理を強く抱きすくめてから清四郎は服を脱いだ。 悠理はもう抵抗しない。
(すっげー、鍛えた体だよな…) (引き換えて、あたいの身体って薄くて…ほんとはみられんのだって恥ずかしいっつーのに…) (昔はあたいの方が強かったのに…)
清四郎は、悠理を白いシーツの上に横たえて、小さな白い下着を抜き取った。
「…後悔はさせませんから」 にっこり笑った清四郎に悠理は再度真っ赤になる。
「…なんでこんな時まで、そんな自信たっぷりなんだよ!…後悔ならもうしてるぞ!」 真っ赤になったまま、この状況でも憎まれ口を叩く悠理に清四郎は安堵した。
「悠理、もう一度聞くぞ。−−僕はお前が好きだ。お前に触れたい。−−お前は?僕が好きか?嫌いか?」 本気の声をだった。
悠理は生まれたままの姿で、清四郎の頬に触れた 小さな声で言う。 「…嫌いな奴にこんなこと、させないだろ?」
清四郎は悠理の言葉にそのまま我を忘れそうになる。が、何とか自制し、深く息を吸い込んで、ゆっくり発音する。 自分の心臓の音がうるさい。
「悠理、もう一度。−−好きか、嫌いか、だ」
これ以上の抵抗を許さない甘い強制だった。
「…好き…」 悠理は真っ赤になった顔を見られたくなくて、清四郎の胸に額を寄せた。
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隣の部屋では魅録が眠っている。
お互いの気持ちを伝えあって、清四郎はいったん悠理を追い上げることをやめた。
清四郎の言うとおり、ビジネスホテルの壁や天井はどうやら薄いらしく、上の階の人の歩く音や、TVの音がかすかに聞こえる。 清四郎の心臓の音とその他のそんな雑音を聞きながら、悠理は落ち着きを取り戻す。
「…悠理、以前の婚約の時、どうしてあんなに嫌がったんですか?」
至近距離で、今までお互いに触れなかった話題がいきなりあがってきて悠理は驚いた。 しかし、悠理だって聞いてみたい内容だ。なんとか返事を返す。
「…あの時、あたいは”剣菱のおまけ”だったろ?人をおまけ扱いする男となんか結婚できるかよ!」
「…おまけ…だったわけではありませんが…あの時は少々強引すぎたのは認めます」 清四郎は苦笑する。
「今の悠理は僕にとって、”剣菱のおまけ”じゃありません。−−今すぐにはきっと考えられないだろうから、話しておきたいんだけど…」
ここまで強引に人を押し流しておいて、今更口ごもる清四郎を悠理は不審な目でみた。
「東京へ戻れば悠理の家では婚約話や結婚話で大騒ぎになってるはずです…。なんてったって、ここまで僕はおじさんのヘリで送ってもらいましたからね」
「−−−−−!!(なんですと?!)」
清四郎に告白されてから、顎を外しそうになったのは何度目だろうか。 悠理は蒼白になって、固まった。
「…でも悠理。今度は僕も間違いたくないんだ。時間をかけて、ゆっくりいこう。悠理が嫌がることはもうしたくありませんし、悠理がいいなら”菊正宗”にお嫁に来てもらってもいいですし」
「−−−−−!!」
悠理の目にゆっくりと涙があふれ出す。
「清四郎…」 悠理の涙を指でぬぐって、清四郎は軽いキスをした。 悠理は幸せな気持ちで清四郎の胸に頬をすりつけた。
次の瞬間、楽しそうな男の声に硬直する。
「−−そういうわけで、愛の告白は終了です。なら悠理。心の準備はいいですか?」
「へ???」 悠理は抱きしめてくる清四郎の腕に力がこもったことを実感した。
「−−中途半端は身体に悪いって知ってますか?それに、さっきも言いましたが、僕はこれ以上お前に触れずにはいられないんです」
「な!!!」 「ほら、悠理。他の部屋に迷惑だから、大声出さないでください」 「///!!!」
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その夜、…正確には明け方近くまで、悠理は眠らせてもらえなかった。
執拗に自分を責める意地悪な男の指、未知の体験に翻弄されながら、声をあげることを禁じられ続け…。 (やっぱりこいつは悪魔だ…) 悠理は少々後悔しかかっていた。
翌朝、朝食の時間になっても悠理が連絡をしてこないので、魅録は内線を慣らして硬直した。
「おはようございます」 電話に出たのは間違いなく、清四郎。
さわやかな声でのたまう。 「悠理はもう少し眠るそうですので、魅録は先に朝食を取ってきてください。9時までには支度をさせますから、昼頃の飛行機で東京へ帰りますか?−−それともせっかくですから博多観光でもします??」
「…考えとく」 内線を切り、隣の部屋の壁を見つめ、魅録は自分が真っ赤になっていることを自覚する。
何も気付くことなく、ぐっすり眠っている間に隣ではどんな夜を過ごしたのか……二人には顔を合わせないように一足先に失礼する事を決意しながらとりあえず朝食を取りに1Fへ降りていった。
東京で待ち受けるのは一気に盛り上がる剣菱邸に既成事実に傷心の美童。
この先、あきらめるのか、再度立ち上がるのかはまた別のお話で。
END
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