悠理と清四郎は恋人同士になった。
ただし、恥ずかしがる悠理に口止めされて、仲間達にはまだ内緒。 二人の交際も二人っきりの時はかなり積極的な清四郎を恥ずかしがる悠理が逃げまどう形で完全に清い交際である。
昼食後の芝生の木陰で清四郎は顔の上に読みかけの本を広げ、横になる。 目元を隠してもその口元がにやにやとほころんでいるのが見え、他の4人は顔を引きつらせていた。残りの1名は固まっているが。 「…あいつがあんな顔をするとこ、みたことねえな。――悪い病気か??」 「アヤシイわよね絶対」 「…やっぱりそうだと思います?」 「そうだね絶対そうだよ……ね?悠理?そうなんでしょ?僕に隠し事したって無駄だよ。はいちゃいなってば!(小声)」 「……なんのことだよ」 (もしかしなくても、バレッバレじゃないのか?清四郎…あれじゃああたいだってなにかあったって感ずくっつーの///!(それにしても…その笑みはちょっとキモイぞ清四郎よ…))
清四郎は人生初めての本気の恋をその胸に抱きしめていた。
何しろ付き合いは長いが、こんなにも相手に惹かれていることに気がついたのはほんの半月前だ。 自覚したとたん、いきなりやってきたこの吸引力はなんだろう。 浮き立ってくるこの楽しさはなんだろう。 悠理のくるくる動く表情に一喜一憂してしまう自分のこの感情はなんなんだろう。 可憐や美童をバカにすることなんかもうできないな。…いやいや、まだあいつらには内緒なんだからバカにしてた方がいいのか…(よくないぞ(怒)by美童)。
喧嘩っ早くて、元気が良くて、よく食べて、よく笑って、泣いて、怒って、喜怒哀楽の激しい愛しい少女。 運動神経が良くて、自分ですら本気で対決すると手こずってしまう相手。 黙って立ってれば廻りが振り返るくらいにきれいな顔立ちをしているのに、あまりにも無頓着な…。
手入れなんか全然していないように見えるのに、あの肌のきれいなこと。 (見てないとこで、やっぱりエステくらいやってるんでしょうかねぇ…なにしろあのおばさんが母親ですからね。悠理が嫌がったって、引きずって行かれることもありそうですよねえ…。……悠理がエステですか。全身マッサージなんか受けてるんでしょうかねぇ) 頭の中では裸の上にエステ用バスローブをはおった悠理がマッサージ台に横になり、ローブから腕を抜こうとしているところだった。
「…ちょっと悠理」 かなりジト目の可憐が怖い。 「な、なんだよ。可憐」 「清四郎がにやけてて気持ち悪いのよ。あんたどうにかしなさいよ!」 「――なんであたいに振るんだよ!」 「どーかんがえても、お前しかとめらんねーだろうが!」 「そうですわよ。あんなに締まりのない清四郎、はじめてみますわ。見てくださいなあの鼻の下…伸びきってますわよ!……こちらの方が恥ずかしくなってしまいますわ///」 昼間だというのに、5人は頭を寄せて小声でぼそぼそと言い合いをしている。 傍らには本を目元にかぶせてヘラヘラしている清四郎が寝ころんでいる。 遠目に見るとかなり妙な光景だ…。 「見なさいよあのヘラヘラした口元」 可憐の口元はひきつっている。 「あの清四郎が(本乗せてるけど)表情を隠しきってないって気づいてないとこがすごいよね」 可憐と美童がジトっと視線を送る。常日頃なら視線を投げただけで気配を感じ取りこちらをひやっとさせることの多い清四郎がこのあからさまな視線にも気づきもしない。 「………恋の力って……すごいんですのね、悠理」 野梨子の一言で、悠理は真っ赤な石になり、他の3人はうなずきあう。 「野梨子にしては力のこもった発言だね」 「…力もこもりますわよ」 目を閉じて、ため息を付く野梨子に悠理が聞く。 「なんでだよ?」 「…毎朝、一緒に通学している間中、ああですのよ。最初はいつもの清四郎なんですけど、会話の途中で悠理の名前が出ようものならもう後の道のりは完全に夢の中ですわ。いくら私でもわかりますわよ」
「うっひゃー。清四郎が」 魅録の笑い声とともに、一同もう一度清四郎に目を向けて固まる。 「うーん…何回見ても気持ち悪いわね!。あのニヤけっぷりは!。ほら!悠理!何とかしなさい!」 「……何とかってあたいにどうしろっていうんだよぉ////!」 悠理は半分泣きが入っている。 「とりあえず、あの本をどかせれば治まるんじゃない?今の清四郎にそんなことして怒られないのは悠理だけだよ」 「そうですわね」 「―おら、いけ!悠理!」
魅録に背中をどんっと押された悠理は仕方なく清四郎の隣にぺたんと座り、顔からひょいと本をとりのぞいた。 「清四郎…」 しかし、なんといっていいかわからない。ただ真っ赤になるだけである。 「悠理?どうしました?」 木陰のため、まぶしいことはなかったが、いきなり目隠しを奪われると、悠理が視界いっぱいに入ってきた。清四郎はさらに満面の笑みを浮かべる。 悠理はその満面の笑顔に出会って、さらに真っ赤になってしまう。 「悠理?」 「あのなぁ…清四郎////」 「はい?」 脱力している表情の悠理に、なんだか様子がおかしいと上半身を起こしてみると、にやにや笑いを浮かべた魅録が近づいてきて、悠理を拉致するように引き寄せ、清四郎に向かい合った。清四郎が思わず身を起こすと、あっという間に他の3人が魅録と悠理の背後にまわる。 「なんですか?みんなして…何やってるんですか?」 さすがの清四郎にも、なにやら嫌な予感がした。
「ねぇ清四郎、なにか私達に報告があるのではありませんこと?」 野梨子が目を細めて静かな口調で問う。 「―何の話しですか?」 清四郎はいつもの表情を保っている。 「………」 「…清四郎、今週末、悠理をツーリングに誘ってもいいか?…泊まりがけの予定なんだが」 わざとらしく悠理の肩に後ろから両手をかけて、魅録が挑発する。 清四郎の眉が一瞬ぴくっと持ち上がった。 「魅録、お前なに言って…」 「あんたは黙ってなさい」 楽しそうな可憐に小声ですごまれて、悠理は真っ赤になったまま唸る。 「ねぇ悠理、最近綺麗になったよね?今夜にでも僕と二人で食事にいかない?美味しい店、知ってるんだ。なんでも好きな物ごちそうしてあげるよ?…構わないかなぁ?清四郎」 魅録の手からひったくるようにして、今度は美童が悠理の肩に自分の手をかけながら清四郎を見ながらウィンクする。 いつもの悠理なら、蹴りの一つや二つ入っているところだが、魅録も美童も悠理相手に喋っているわけではなくあからさまに清四郎に話しかけているのだから、真っ赤になったまま、動けない。 (お前らなぁ〜/////) 清四郎を説き伏せたのは悠理の方なのだ。まだみんなには内緒にしろと。
「な…//////////」
(ちょっとやりすぎましたかしら) (表情を変えないまま、真っ赤になる男なんて初めてみたわよ。これはこれで面白いわね〜。でもやっぱり気持ち悪いわよ清四郎…) (僕達、あとで殺されたりしないよねえ?魅録) (怖いこというなよ美童。……それにしてもいいかげん観念しろよな〜)
「悠理…ですか(ばらしました)?」
真っ赤な男の質問に5人は一斉にがっくりうなだれた。 悠理に至っては言い返す気力も湧かない。 「………」 「違うぞ清四郎!!」 「誰が見たってわかりますわよ!!」 「悠理は何にもいってないよ!」 「悠理を見つめてはニヤニヤニヤニヤ…あんたここ数日、確実に気持ち悪かったのよぉーーーーー!!!!!!!」
可憐さんの怒りの叫びは清四郎の胸にぐっさりと突き刺さった。 (ふん!!!) 自慢のウェービーヘアを跳ね上げてすっきりした可憐が笑うと、残りの4人も爆笑した。
(…普段の清四郎からはまったく想像つかなかったこのにやけ男は同一人物なんだろうか…。いっつも人のことバカにするからこんなとこで仕返しがくるんだじょ清四郎) 木陰で真っ赤な石になっている恋人にフォローを入れるべきかどうか悩む悠理がいた。
END
|