「−−こんなに広いとこから探し出せる???」
買い物とは別に着替えはごく早かった可憐とともにプールドームへ脚を運んだ清四郎はぐるりと周囲を見回して一方を指さした。 「あの二人なら絶対にあっちです」 清四郎が指さすのは視界ゼロのブラックウォータースライダー・チューブに乗って流れる高速スライダーが並ぶエリアだった。 「…でしょうね」 可憐は少々引きつり気味だ。 「可憐」 「なぁに?」 傍らを歩く可憐に視線を送り、清四郎は言った。 「悠理を見つけたら、僕が−−30分だけ−−離れた場所へさらっていきます。その間に−−−あなたの勝負をしてください」 「了解…頑張ってみるわ。−−あんたも頑張って」 髪を手持ちのヘアゴムで邪魔にならないようキュッとアップにしながら歩く可憐に周囲の男どもがほれぼれした視線を送ってくる。清四郎はまじまじと可憐を見てその背中をぽんと叩いた。 「周りの男性陣があなたに見惚れてますよ。−−可憐の魅力に落ちない男なんていません」 珍しくそんなことをいう清四郎に可憐は目を丸くして笑ってしまった。
「−−ありがと!頑張るわ。−−清四郎のいうとおり、何もしないであきらめるなんてあたしらしくないものね」
****************
予想どおり、ピンク頭の魅録と悠理はスライダーエリアを駈け回っていた。 清四郎と可憐は二人に気付かれないように階段を登って、各種スライダー入り口に集まる人の中に紛れた。
「見つけやすくていいですな。魅録の髪は」 「あら、髪が黒くったって、見つけられる自信はあるわよ」 「−−−ごちそうさまです。ほら、調度悠理が先に登ってきますよ。−−魅録が来る前に僕は行きます」 そういい、可憐に片目をつぶると、アスレチックゾーンからスライダー入り口へ一人駆け上がってきた悠理を清四郎は背後からきっちり拉致し、あっという間にブラックウォータースライダーへ飛び込んだ。
その2秒後、息を切らした魅録が駆け上がってきた。 「くそ!また−−−負けた!」 そういい、ぜーぜーと荒い呼吸を整え、顔をあげると、すぐ目の前に形の良いオレンジのチューブトップの胸元が飛び込んできた。
「魅録」 「へ?−−−−可憐?」
魅録はきょとんとした表情で目の前にたち、かなり周囲の注目を集めている女友達をみつめた。
「……30分だけ、あたしに予定外の時間を頂戴」 「なんだ???」
可憐はそういうと、魅録の手をひいて、チューブに乗るタイプのウォータースライダーの入り口へ誘導した。 「え?いや、悠理は?…ということは清四郎と一緒か?」 魅録の表情が一瞬険しくなったのを見て可憐は胸が痛くなる。−−が、つとめて楽しげな口調で振り返った。
「そう。−−いいから乗って!後ろがつかえてるから」
****************
背中からいきなりはがいじめにされ、視界ゼロのウォータースライダーへ連れ込まれた悠理は暗闇の中、必死で暴れる。 むき出しの腹に後ろから手を回され、殴ろうとする右手を拘束される。
「−−誰だ!なにすんだ!」 「僕ですよ!!悠理」 「へ?!−−−清四郎???!!!」
暗闇の中、相手を確認したと思った瞬間、二人は水中へ勢いよく放りだされた。 自分の力ではない強い力の浮力が水面へと身体を引き上げてくれる。
「−−ぷは!!」
水面から顔を出して悠理に息継ぎをさせつつ、清四郎は悠理を背後から抱えるように泳ぎ、スライダーエリアから離れていく。悠理は、自分を放そうとしない清四郎に抵抗を試みたが、 「今暴れると−−沈めますよ」 と冷ややかな声で宣告され、おとなしくなる。
(なんかしらんけど、怖い〜)
こういう声音をするときの清四郎に逆らっていいことがあった試しはなかった。 それでもプールサイドへ着々と泳ぎ着き、黙って自分を引き上げる清四郎に一応文句を言ってみる。
「−−清四郎!驚くだろ!!なんでここにいんだよ!!!」 「まぁ……色々あるわけですよ」
清四郎は返事の合間にちらりと悠理を見たが返事をせず、強い力で手を引くと向かいにあった1週500mの流れるプールへぽいっと放り込み自分も続いた。
バッシャーン!!と派手な水音をたて、投げ込んだ悠理を水中で拘束し、しばらく流れに沿って潜水で泳いだ。 腕の中で悠理がジタバタともがくのに限界が来ていったん水面へあがる。
「−−オイ、清四郎!!く、苦しいだろ!殺す気かよ!」 ぜいぜいと肩で息をする悠理ににっこり笑うと、プールサイドにあった大きな無料ビート板をとらえ、それにつかまらせる。 ついでに悠理の背後から覆い被さるように自分もビート板に身を寄せた。
「おお、これは楽ちん♪楽ちん♪」 「−−清四郎///!!」 密着するこの体制に悠理が赤くなって苦情をあげるが、清四郎は相手にしない。 「このプール、1週500mで日本一です。あの先の折り返しまで行ったら、あがりますよ。もう少し移動しますから」 悠理の質問には答えず、何やら含みのある笑声でそういう清四郎に悠理は降参で目を閉じた。
「なんなんだよもう…」 「悠理の質問にはあそこで答えてあげますよ」
そういい、流れに身を任せながら清四郎が指さしたのは水着で乗れる巨大観覧車だった。 「あれは1週するのに20分かかるそうなので、時間的に−−調度いいんですよね」 「だから、なにが調度いいんだよぉ!!!」 「まあ、いいから。−−話しは後だ!いきますよ!悠理」 清四郎に引き連れられてプールから上がった悠理の手はしっかり清四郎につながれたままになっている。 自分の顔も見ずにずんずん進む清四郎に悠理は恥ずかしくなって声をかける。
「−−おい、清四郎。一人で歩けるから、手、放せよ」 「逃げられたら困りますから。ダメです!もうしばらくはいいでしょ?−−いつも魅録や美童とは手つないでるじゃないですか。それとも僕が相手じゃ嫌なんですか?」 後半はからかうような口調で自分を振り返った清四郎に悠理はもう観念する。 流れるプールから振り返ったスライダーエリアには確かに魅録と可憐を見たと思った。
****************
「そんな顔しなくても悠理がいないのは30分だけよ。すぐに戻ってくるわ」 ウィータースライダーを滑り降り、プールサイドへ移動しながら可憐は魅録を振り返った。 「んなこと言ってねえだろ///」 魅録がばつが悪そうに頬を染める。
「……隠さなくていいわよ。魅録は悠理が好きなんでしょ?−−それから清四郎もね」 そういって可憐はプールサイドを背にくるりと魅録に向き合った。 「−−な…に言って…」 笑い飛ばそうとした魅録は真剣な目をした可憐に息を飲んだ。
「魅録は悠理が好き。−−清四郎も悠理が好き。それから−−あたしは魅録が好きなの」 「え…」 可憐の突然の告白に魅録の頬が微妙に染まる。
同じく頬を染めた可憐は気が変わらないうちにと勢いを付け、一気に言い継いだ。 「今日、魅録は悠理に告白するだろうって思って…。間にあったのか間に合ってないのかわからないけど、同じ失恋するならぶつかるだけはぶつからなくちゃって…30分だけ清四郎に悠理を連れてってもらったの!だから、言いたいことは全部言っておかなくちゃ!これが最後かも知れないのよね!!」
「最後って…」 言いながらみるみるうちに瞳に涙を浮かべていく可憐に魅録は焦る。
「−−バカね。こんな派手に失恋したら、さすがのあたしだって平気な顔して側にはいられないわよ。お願い聞かせて。−−もう悠理にOKはもらったの?」 「い、いや。まだだ」 「そう。なら−−告白はしたんだ」 「−−ああ。一応な」 「……魅録」 「ん?」
魅録が問い返そうとした瞬間、可憐は魅録の首に自分の腕を絡ませ強く唇を重ねてきた。
(−−−−!!!!)
自分の心拍数が一気に跳ね上がったのが分かった。 先程、自分から悠理にキスを仕掛けたときも緊張はしたが、心の準備のないこの状況には頭がクラクラした。
だんだんと周囲からいくつかの口笛があがっている音が聞こえてくる。
現れた時から、周囲の注目を集め続けていたピンク頭の男が最初の連れの女性以外のこれまた非常にいい女から一方的にキスを受けているのだ。注目されない方がおかしい。
魅録はわずかに身体を硬直させつつ、可憐をそっと引き離そうとしたが、可憐は渾身の力で魅録に抱きついてキスを深めていく。 密着する柔らかい身体に魅録は困惑する。 悠理とは正反対と言ってもいいほどの女友達の”本気”が伝わってきて、気持ちが分かる分、突き放すことができない。
「か、可憐!−−ちょっとタンマ!!」
ようやっと可憐に恥をかかせない程度に身体を離させる事に成功すると、魅録は大胆な事をした女と同一人物には見えないほどボロボロに泣き始めた可憐の腕を引いてスライダーエリアを離れた。
とりあえず、ひやかしの口笛が聞こえないエリアまで来ると、案内板をみて近くにあった、プールサイドに設置されているジャグジーバスへ可憐の手を引いて飛び込んだ。
ゴーっというジャグジーの水流とあたたかい湯がほんの少し二人の気分を変えてくれた。 大人4人が一緒に入れるサイズのジャグジーに魅録と可憐はしばらくぼんやりと浸かっていた。
「可憐…俺…」 「ごめん。魅録」
しばしの沈黙の後、口を開いたのは二人同時だった。 二人してその後を譲り合って、赤くなる。 可憐がクスクスと笑って、続きを引き取った。
「−−時間がないんだもの。あたしが話したいの…いい?」 「ああ」 魅録は向かい合わせに座る可憐を見つめる。
「清四郎にもらった時間は30分。30分で勝負して来いって言われたら…あんなになっちゃった。−−ごめん」 「−−勝負?」 「そう。…今、どのくらい経ったのかな…」
可憐は時計を探しつつ、かなり移動してきてしまったスライダーエリアの方向を見る。 魅録はそんな可憐を黙って見つめている。
「清四郎は昨夜、悠理に告白したって。だけど、返事はまだもらってないって言ってたわ。あたしは−−悠理からは誰か好きな人がいるなんて話し、一度も聞いたことがない…。魅録と悠理がいっつも一緒にいるのは知ってるけど、あたしも気持ちもいいかげんじゃないから…聞いて欲しかったの。叶わないにしても…」
涙目で目をそらす可憐はいつもの様子からはうかがえない程にはかなげで魅録の胸は痛んだ。
「…ごめんな。可憐…」 「−−いいの。あたしの方こそごめん−−魅録と悠理が恋人同士になったら…しばらくはやっぱり顔見るの辛いから側にいれないけど、許してね。二人とも大好きだから、−−−絶対祝福しに戻ってくるから!」 そういって無理矢理作る笑顔に魅録は胸を突かれる。
「…俺はまだ悠理の男じゃねえよ。あいつが俺を友達以上に見てくれるのかどうかすらわかんねえからな。−−けど、俺はあいつが好きなんだ。−−清四郎に勝てるかどうかもわかんねぇけど…」 「負けないわよ!清四郎にだって誰にだって」 「可憐の方が自信あるんだな」 魅録は苦笑する。
「−−−あたしが惚れる男だもん」 「…まいったな…」
清四郎と消えてしまった悠理が気にかかるものの、まっすぐな可憐の目に魅録は動けなくなった。
****************
「ほら、グズグズしない!抵抗してると担いでいきますよ。時間ないんですから!」 観覧車へずんずん進んでいく清四郎に悠理はブーたれつつ最後の抵抗を試みていた。
昨夜の清四郎からのアプローチもさることながら、この男と二人っきりになったらとたんに先程の出来事も見透かされてしまいそうな気がするからだ。
”「悠理、−−忘れないでくださいね。−−僕がお前を好きな事を」”
昨夜、清四郎にそう言われた意味がやっとわかったばかりだ。 おまけに魅録による強引なアレである。
(清四郎に魅録にキスされたなんてばれたら…)
これまでの友人付き合いをしていた清四郎からは想像できなかった積極的な男がその中に住んでいることを昨夜知ってしまった悠理はあからさまに二人っきりでおまけに逃げ場のない観覧車に乗ることはためらわれた。
「なぁ、やっぱあっちのプールにしよーよ!!」 「−−話しがあるって言ったでしょ?」
悠理は後ろを振り返りつつ、競泳用のプールを指さしたが清四郎はまったく相手にせず半ば抱き上げるように乗り場から悠理を押し込んでしまった。
「では施錠します。20分の観覧をお楽しみくださいませ」 係員にそう告げられて観覧車は上昇を始めた。
(勘弁してくれよぉ〜(涙)) 悠理は清四郎の向かいの椅子に腰掛け、びったり窓に張り付いてため息をつく。
先程、魅録による強引なキスの後、反射で思わずひっぱたこうとした悠理はひらりと身をかわした魅録に 「悠理!勝負だ!−−アスレチック、俺が先に上に到着できたら、もう一回な!!」 そう宣言され、猛ダッシュでかけていく魅録を抜いて2度目を逃げ切ったところだったのだ。 (にゃ、にゃにぃ?!?!−−−まて、まて、まて〜!!!////) 本気かどうかも分からないほど悠理に負けると楽しそうな様子で滑り降りては『2度目のキス』を宣言して駆け上がっていく魅録を悠理はとりあえず持ち前の瞬発力を駆使して何とかすり抜けていた。
あまりにも突然の出来事が続きすぎて、思考がついていかない。 清四郎と魅録に告白されても、どちらかが好きかどうかなんて考える暇もなかった。
ただ、もう一回魅録にキスの理由を与えるわけにいかないので、必死に走った。 走って走って駆け上ったら、いきなり拉致され−−あれよあれよというまに、こんなところ。
ゴンゴンゴンとのんびりしたペースで現実に引き戻してくれる観覧車を悠理は恨めしげに感じつつ、清四郎の視線を避けたくて必要以上に窓に張り付いていた。
「−−そんなに窓に張り付いてるとブタ鼻になりますよ」 「……うるせぇ……」
楽しげな清四郎の声に悠理はギロリと視線を送る。
(こいつにどこがあたいを好きだって?!いっつもいっつも、人のことペットかおもちゃ扱いしてるくせに!−−こんな時までひとのことからかい続けるくせに!!)
悠理の言いたいことが分かったかのように清四郎はため息をつく。
「覚えててもらえましたか?僕がお前を好きだって言ったこと」 そういって、じっと悠理を見つめる。 「……お、お前なぁ…頼むから、こんなとこでそんな台詞やめてくれよ///」 悠理は首まで真っ赤に染まっていく。
あわてふためく悠理は無視して清四郎は悠理の隣に席を移した。 「わぁ!!こら!近づくな!清四郎!!」 「なんでそんなに慌てるんですか?−−別にこんなとこで襲ったりしませんよ!こっちの方が景色が見やすいだけです」 清四郎のシレっとした台詞に悠理は頭から煙を出して沈黙する。
「−−なーんてね。そんなわけないじゃないですか」 そういい、悠理のウエストに手を回し、清四郎はにっこり笑う。
悠理はもう真っ赤になったまま言い返す気力が出てこない。 この状況で清四郎から逃げられるなんてどうしても思えないからだ。
「やめろ…もう////頼むから。あたいもう頭がついていかない」
真っ赤になったまま、涙目の悠理が清四郎を見返した。 その真剣な目の色にからかい混じりに悠理の肌をすべっていた清四郎の腕が緩む。 わずかに身体を離し、悠理に距離を与えると口調を変えた。
「−−魅録に、好きだと言われました?」 清四郎の問いに悠理は黙ってうなづいた。
「−−返事をしたんですか?」 今度は首を振る。
ついで大粒の涙がボロボロとあふれだし始め、清四郎は困惑した。
「−−悠理?」 「ファーストキス…もってかれた」 「−−え?」 「もう、なんなんだよ!お前ら!!あたいのことからかって遊んでんのか?!」 悠理は泣きながら清四郎の胸をバンバンと叩いた。
「−−悠理」
途中清四郎に両手をつかまれてしゃくりをあげた悠理はどこにもすがりつけず、そのまま泣き始める。 清四郎はそっと悠理の手を解放し、悠理の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「からかってなんかいません。−−僕にしてもこんな風に誰かを好きになるのが初めてで、どうしていいのか分からないんですから」 清四郎の声に悠理は目を閉じたまましゃくりあげる。 「嘘付け!お前なんか昨日っから余裕綽々じゃねえか!」 「−−余裕なんかありませんよ。−−ないから我ながら格好悪いのを承知の上でこうやって乗り込んできてしまってるんです」
清四郎の真剣で静かな声に悠理は目を開けた。 が、すごく近くにある清四郎の目に慌てて目をそらす。
「それに−−可憐が魅録を好きだと聞いたので…30分間の勝負時間を作ったんですよ」
「可憐が?」 (魅録を好き?−−嘘、気がつかなかったぞ)
「僕も初耳でした。けど、魅録がお前を好きだっていうのは旅行の初日に魅録から聞きました。昨夜は魅録と勝負をして、一応僕が勝ったわけです。−−その、お前に告白できる権利…とでもいうしかないんですけど」 「−−あの、バカのみ?それが理由??」 「僕が仕掛けたんじゃありませんけど…まあ、流れ上そうですかね」 「…………バカだなぁ……」 悠理はあきれ果てた目で清四郎を見つめた。
「−−−今回は否定できませんが…悠理にバカだと言われる日が来るとは思いませんでしたよ」 こちらはいくぶん表情が読めない。 「………」 「−−そんな黙らなくても、冗談ですよ。−−もう、完全にお前に降参してますから。僕は」 「しんじらんねー…」 悠理はぷーっと頬を膨らして清四郎を睨みあげたが、視線がぶつかり瞬間、緊張した。
「それは僕の台詞ですよ…こんなに誰かを好きだと思えるのが嘘みたいだ」
そう言うと、清四郎はゆっくりと悠理に唇を寄せた。 嫌ならば充分に逃げる時間を与えているのは悠理にも分かった。 ゆっくりと唇の端からぬくもりが重なってくる。 悠理の頬に涙がつたう。
ほんのわずかな時間のキスからそっと身を放し、清四郎は問いかける。
「−−逃げないんですか?」 「あたいは魅録ともキスしたぞ?−−お前そんなんでいいのかよ」 悠理は涙で濡れた目で挑むように清四郎を見上げる。
「僕が好きなのは−−目の前にいるお前だから。そんなことは関係ありませんよ」
そういうと、清四郎は悠理の目尻の涙を吸い、そっと頬にキスを落とす。 もう一度キスをせがんだとき、悠理の両手がおずおずと清四郎の肩へ回ってきた。その頬は真っ赤に染まっている。 清四郎の口元にゆっくりと笑みが浮かび上がる。
「−−悠理、まさか僕のことを嫌いだなんていいませんよね?」 「わかんねーぞ。あたいはもう少し謙虚な男が好きかも知れないだろ?」 「お前を扱えるのは僕だけですよ」 「その自信たっぷりが気にくわないんだよ!」 「−−憎まれ口を叩いてないで、早く返事を聞かせてください。−−悠理、僕を好きですか?」
一瞬の沈黙の後、清四郎の唇に悠理の唇が触れてきた。
「−−これが返事なんですね?」 悠理は黙ってうなずく。
「もう、誰にも渡しませんから−−覚悟してください」
観覧車はゆっくりと下降をはじめた。
****************
清四郎は満面の笑みを浮かべ、真っ赤になってジタバタしている悠理を抱きしめていた。 何を話すわけでなく、何をするわけでなく。それでも引き寄せられるのは水着なのだから当たり前だが、裸の胸元である。先程から自分の心臓の音がうるさくて、悠理はなんとか離れようともがく。 「せ、清四郎…放せよぉ////」 「嫌ですよ。やっと捕まえたのに」 「あのなぁ////」 逆らっても一向に放してくれない男の腕に嘆息し、あきらめて引き寄せられるままに頬を寄せた。 抵抗をやめた悠理に、清四郎がにんまり微笑むのが分かった。
「−−−−悠理」 自分の名前を呼ぶ清四郎の声に顔をあげた悠理は先程のキスよりはもう少し深いキスを受けていった。
****************
一つ前のゴンドラの扉の施錠解除音が聞こえてき、清四郎は人目に触れる前にそっと悠理を解放した。
もっとも外の景色を見る余裕などなく、繰り返したキスでフラフラになっている悠理を降り口でしゃんとさせるのに骨をおるはめになったのは否めないが…。
「ほら!悠理、しっかりして!」 「んなこといったって…足が…」 ふらつく悠理を半ば担ぐように観覧車から降り、清四郎は可憐と約束しているスライダーエリアへ戻るべく、流れるプールへと歩き出す。
「−−悠理、急いで」 「……わかってるよぉ!!」 (くっそー!!なんであんなキスしといて何にもなかったみたいな顔してられんだよ!!)
真っ赤な顔で、むかつき半分の悠理は清四郎の横を走ってすり抜け、勢いを付けると流れるプールへ飛び込んだ。 行きがけにそうしたように、プールサイドにおいてあったビート板を引きずり込むとその上に上半身を乗せ、流れに身を任せる。 清四郎も悠理の後に続く。こちらも行きと同じように背後から当然のように張り付いてくる。悠理は焦って抗議の声をあげた。
「あのなぁ!こんなのあいつらに見られたら−−」 「どちみち報告しないわけにはいきませんから。僕は構いませんよ?」
背中から清四郎の体温が伝わり、右後ろから寄せられる頬が熱い。 悠理がうーっと唸っていると清四郎が後を続けた。
「−−この場だけごまかして戻ったとしましょうか?今度魅録にキスを迫られたら悠理はどうするんです?」 清四郎の声は真剣だった。悠理は魅録からの強引なキスを思い出し、一瞬返事に詰まる。 「−−それは…きちんと話すよ…」
「誘いが強引だったら?−−拒否できない状況だったら?」 しっかり嫉妬心をのぞかせる見たこともない清四郎に悠理は驚いた。 「−−−お前ってあんがい……」 悠理は身体をよじり、水に流されながら清四郎と向き合った。
長い付き合いにも関わらず、昨夜まではメンバー一同『恋愛面:情緒障害者』扱いしてきた清四郎が相手である。悠理は”初めて会う男”を−−−思わずまじまじと見つめてしまった。 悠理のあからさまに驚いている視線を受け、さすがの清四郎も自分の顔が赤くなるのをとめられなかった。
「−−悠理が魅録と合意の上にキスしたとは思えませんからね。何度も言いますが、−−僕はお前が好きなんです。幸い悠理にOKも貰えたことですし、この先、他の男には譲れませんからね」 さらっと言ってのける清四郎に悠理は赤くなり、ついで清四郎がどう魅録と接触するのか不安になり黙って清四郎を見返す。 「…………」 「−−心配しなくても喧嘩をするような事はしません。僕にとって、魅録も可憐も大事な友人なんです。でも、お前のことは別だ。−−分かりますね?」 清四郎の言葉に悠理がわずかに頷いたとき、清四郎があっと声をあげた。
「何?」 悠理が振り向くと、プールサイドのジャグジーに向かい合って浸かっている二人の姿が見えた。 少し大きな声をかければ聞こえる距離だろう。 清四郎と悠理は思わず顔を見合わせる。
「−−可憐との待ち合わせって、ここ?」 「いいえ。さっきのスライダーエリアって事になってます」 「…可憐、やっぱ、魅録に告ってる最中だよな?」 「…だと思いますが…」 プールの水流に流され移動しながら二人は小声で話し合う。 「あたい、−−可憐の邪魔したくないよ。−−約束したならその通りにあっちに戻ってよう?清四郎」 泣きそうな悠理の表情をみて、清四郎は黙ってうなずく。 野梨子達と合流予定は宿泊旅館の部屋での夕食時7時だ。 それまでに戻れれば問題はない。 プールドーム内の時計は午後2時を少し回ったところだ。まだまだ時間はある。
二人は魅録と可憐に見つからないようにと急いで泳ぎ始めた。
****************
見つからないように…と思ってはいるんだろうと魅録は思う。
だけど、いくら流れるプールだからって、あんな高速で移動していく奴なんかそういない。 普通に泳いでるつもりなのか、いつの間にか張りあって競争になってるんだかはわからないが、ものすごい水しぶきをあげ移動していく男女が見える。
「−−−−見つかってないと思ってるんだろうなぁ…」 魅録のつぶやきに放心気味だった可憐がなに?と声をあげる。 「いや、今、おもしれーもんが流れていったからさ…っていや、いいんだ。なんでもねぇ」
競争するように泳いでいく二人の姿を遠くに認めながら魅録は苦笑した。
(あいつら、泳ぎ始める前−−−ぴったり寄り添ってたよな。悠理が−−簡単にそんなことさせるわけねぇもんな…。ってことは俺の失恋は確定か?)
「だーーー!!!」 魅録は額を抱えてジャグジーの背もたれへひっくり返るように伸びをする。
「魅録?」 少し離れて向き合っていた可憐がひっくり返ったまま起きあがらない魅録の顔をのぞき込みに近寄った。 そばへ寄ったからといって、魅録の体に手をかけるのはためらわられ、可憐はとまどう。 そばでみれば見るほど、魅録はいい男よね…と思う。裸の腕や胸元へ触れてみたい衝動にもかられる。
(−−−やだあたしったら…何考えてんのよ!−−でも…) 魅録は額の上で手のひらを組み、上半身を仰向けに湯の中へ倒した状態で動かない。 (もう、こんな風に魅録に触れられることもなくなっちゃうんでしょうね…) (この可憐様ともあろうものが…お子ちゃまみたいにまったく動けないなんて…笑っちゃうわよね)
可憐は頬を染めたままほんの少し周囲を見回すと、湯の中へのばされている魅録の右腿をまたいでその上へ座った。 胸にそっと両手をかけた。
湯の中の自分の脚になめらかで柔らかい脚の感触。さらにここちよい重みを感じ、魅録はあわてふためいた。
「か−−可憐!?」 思わず湯の中へ沈みそうになった魅録の背中へ手を回し、可憐は慌てて引き上げた。 「−−−なにやってんのよ!バカね!」 「オイオイ!−−んなことしてると…」 「−−してると?何?」 誘うような可憐の目に魅録はドキリとさせられる。
これまで可憐の事は確かに綺麗でいい女だと思っては来ているが、その魅力は常に他の誰かに向かって磨かれ、放たれているものであった。 学校中の男子生徒の人気を野梨子とほぼ2分する可憐である。 顔・スタイルとも申し分なく、性格だって悪くない。 艶めかしい身体を普段とは少し違うスポーツタイプのビキニで包み、髪を無造作にまとめている可憐は年相応に綺麗だった。
−−−可憐相手に普通の男ならこの状況で反応しないのも難しいだろう。 二人でジャグジーバスの中、脚に座り込まれたら−−。
プール施設の一部であることを周りの風景が忘れさせてくれなくて助かった−−と魅録は思う。 「可憐−−−自分がいい女だって自覚有るんだろ?−−−んなことしてっと」 「−−魅録ならいいわよ」 魅録の目をじっと見つめたまま可憐は笑った。 「−−玉の輿可憐の台詞じゃねえな」 魅録が可憐を降ろそうと自分の胸に添えられている細い手首をそっと掴もうとしているのに気付き、可憐は手をとられまいと自分の背中に両手を隠してしまった。
「−−可憐」 魅録が言葉を探していると可憐がもう一度魅録の鍛えられた腹筋にそっと手をかけた。 「もう少しだけ…こうしてたいの…だめ?」
(−−−!!!!)
ダメも何も、魅録だって男である。 可憐に誘われてクラッとしない男はいないだろうと思ってはいた。 自らが鍛えて磨いている美肌、抜群のプロポーション…。こうやって間近に見て、触れてしまうと、考えないわけにはいかない。なのに可憐が好きなのは自分だという。
魅録はいったん目を閉じて、ゆっくりと返事をした。 「だめだ」 「−−わかったわ。ごめんなさい」 魅録の言葉に可憐は苦笑して素直に離れた。 そっと湯の中を移動し、元いた場所へ戻る。そのまま魅録に背を向け、ジャグジーの縁へ両腕をかけてその上へ顎を乗せた。 (完全に玉砕…か。−−でももうこれ以上我が儘言わないようにしよう−−友達としても側にいられなくなっちゃう…) 可憐が静かに気持ちを整えようとし始めたとき、背中からそっと抱きしめられた。
「え?!」 「可憐…」
後ろ向きのまま、ジャグジーの真ん中へ運ばれ、あぐらをかいた魅録の膝の上へ座らされた。 小さな子供を抱くようにお互いに同じ方向を向いているので、魅録の表情はわからない。焦って降りようともがいたが、今度は強い力で抱きしめられてしまい動けなくなった。
泣きたくないのに涙があふれてくるのはもう押さえられない。好きでもないのに魅録からこんな事をするのは反則だとぼんやり思う。 「−−魅録、あたしはふられたんでしょ?」 精一杯強気な口調で言う。魅録はそれには返事をせず、抱きしめる力を少しだけ緩めた。
「失恋が確定したからってさすがに−−今すぐは他の女を好きになるのは無理だけどさ」 小さな声で絞り出される魅録のささやきに可憐は意識を集中する。
「可憐が嫌じゃなかったら−−今日はこのまま夕食まで一緒に外へ出ないか?ここで車借りれるから−−景色のいいとこでも行かないか?」 「−−失恋確定って…あたしのことを言ってるの?それとも」 「俺だよ。−−さっき見ちまった。あそこのプールをいっちゃいちゃしながら流れていくあいつらをさ。−−さすがに認めざるを得なかったよ。清四郎との勝負は−−−どうやら俺の負けだ」
そう言われて、可憐は今の目線から正面に見える流れるプールを見つめた。 しばらくの間、二人とも黙って水音を聞いていたが、可憐が先に口を開いた。
「……そんなこと、悠理の口から返事をもらったわけでもないのに、自分だけで決めちゃダメよ」 「−−そう思うか?」 「思うわ」 そういって、自分の膝から飛び降り、こちらを振り向いた可憐に魅録は苦笑する。
「なら……一緒に来るか?悠理の返事ももう出たみたいだし…。あ…でも…」 「なに?」 「ついでに薄情しちまうと−−もしかしたら俺、清四郎に殴られるぜ?」 「−−悠理に何かしたの?」 一瞬返事に詰まった魅録は、大きく深呼吸してから白状した。
「−−告白ついでにキスした」 そういって、肩をすくめる魅録を見ながら、可憐は一瞬白くなり、ついで真っ赤に頬を染めた。 自分を見つめたまま真っ赤になっている可憐に、怒鳴られるか泣かれると思っていた魅録は拍子抜けする。
「−−可憐?」 「…あたしも同じ事しちゃった」 「へ?」 「あたしもしたわ。−−魅録に告白してキス」 「あ…///」
自分に負けないくらいに真っ赤になった魅録を見て、可憐は可笑しそうに笑うと立ち上がった。 「いいわ。行きましょ。魅録が悠理に振られたら残り時間を付き合ってあげる。もし、上手くいったなら失恋男の清四郎を引き取ってってあげるわ。今日のあたしのパートナーは−−あいつだから」 「ああ。−−なら、行くか」 可憐が差しだした手につかまって魅録も湯から立ち上がった。
****************
スライダーエリアに戻った二人はプールサイドに立ち、高い飛び込み台を見上げている清四郎を発見した。
「待たせたな」 魅録が声をかける。 清四郎はいつもとまったく表情を変えていない。 「いえ。−−悠理ならあそこですよ」 「え?」 可憐と魅録が上をみあげると5mの高さの飛び込み台の先端に悠理が立っている。 「これで2度目です。1度目はフォーム満点でしたよ−−悠理!!」 清四郎は大きな声で悠理を呼んだ。清四郎の声が聞こえたのだろう、プールサイドに軽く手を振ると、悠理は飛んだ−−。
−−いや正確にいうと落ちた。
悠理は先程からもんもんとし続けていた時間の到来に、思ってもみなかった緊張に襲われてしまった。
体勢を崩したまま空中で半ば固まった悠理は、何とか立て直そうと空中でわずかにもがいたが、水面に向かって殆ど体を水平に保ったまま落下してしまった。
パアーーーン!!!
おそらく見事な腹打ち。 痛々しい程の水音が聞こえてきた。
「きゃぁあ!!!悠理!!」 「「悠理!」」 可憐の叫び声と男達の叫びが交差する。
深さのある飛び込み用プールに悠理が沈んでいったのをみて、清四郎が満点なフォームで飛び込んでいった。
ややあって…
「あいたたたたた…」 水でしたたかに打ち付けた腹や腿を真っ赤にした悠理が清四郎に引っ張られてプールサイドへあがってきた。
「なにやってんだ。お前にしては珍しいな」 普段通りの口調で声をかけてくる魅録に悠理はちょっとほっとする。 「う、うるせー!ちょっと失敗しただけだい!」 「大丈夫?悠理」 可憐が悠理の引き締まった腹部に指を添えて尋ねる。 「ちょっとひりひりするけど、平気。−−それより格好ワリー!!」 ものすごい水しぶきをあげ、周囲の大注目を浴びてしまった悠理が周りを見回すとまだまだ結構な人波がこちらに注目しているのを感じた。 「なんか、あたいさらしものって感じだし…」 「まぁ、結構な見物でしたけどねぇ…それだけにしては確かに注目度が高いように感じますな」
思わず魅録と可憐は顔を見合わせた。 よくよく思い出せば、先程二人はこのエリアで濃厚なキスシーンを展開してしまった。 さらにその後泣き出した可憐の手を引いてフェイドアウトしていった場面を見ていたものがいれば、興味があるのは当然だろう。 さらに水中だったとはいえ、魅録は悠理にもこの場所で−−。 そのことに思い至り、思いっきり赤面した二人はお互いに顔を逸らした。
「お前らなに赤くなってんだ??」 きょとんとした悠理の言葉に清四郎も首を傾げる。
「あ、いや、なんでもねぇ。−−それより話しがあるんだけど、いいか?」 魅録は悠理と清四郎を正面に切り出した。 「−−はい」 悠理の代わりに清四郎が返事をする。それだけでもう後は聞かなくても分かったような気がしたが、聞かなければならない。魅録は清四郎から悠理へ視線をうつした。
「悠理」 魅録の視線と声の響きに悠理は思わずびくんと反応する。言葉の出てこない悠理に魅録が優しく尋ねる。 「−−お前の中にいるのは、誰かわかったか?」 「……うん」 悠理が小さく返事をする。
「返事を聞かせてくれるか?」 魅録の問いかけにほんの少しの間が空き、悠理が答えた。
「あたいが好きなのは−−清四郎だ。−−ごめん」 わかってはいても、魅録の胸はズキンと痛みを訴える。同様に側にいる可憐も息苦しいかのように自分の喉元へ手をやった。−−魅録の痛みが伝わってきて−−苦しい。
「いや、俺の方こそ悪かったな。お前の返事も聞かないで−−その」 「魅録…」 悠理が魅録の言葉を遮ろうとした−−その時、可憐が動いた。
ぐいっと悠理の頭を抱え寄せると可憐は思いっきり悠理にキスをした。 唇と唇。 可憐はぎゅっと目を閉じているが、悠理はあまりのことに目を見開いたまま。
その数秒間、−−−全員が文字通り固まって動けなくなった。
「うわぁあああ!!!なにすんだ!可憐!!/////」 我に返って飛び上がった悠理は一気に2〜3mジャンプし、そのまま先程あがってきたプールへドボンと潜っていった。
そんな悠理を目で追ってから、可憐は真剣な目をして清四郎に向かう。 「−−清四郎、魅録のキスは悠理に返したわ。−−だから魅録を許してやって」 清四郎は苦笑し、可憐と魅録を見比べる。 「−−そういうこと−−ですか」 魅録は驚きすぎて言葉が出てこない自分をもどかしい思いをしながら、目の前の二人を見つめている。
「そう。キスのせいで−−あたしたちの関係がおかしくなるのが心配なら…清四郎もあたしとキスする?−−それで全部なかったことにする?」 さらなる可憐の大胆発言に魅録が声をあげる。
「可憐!」 「−−魅力的なお誘いですが、そんなことをしたら今度は僕が魅録と悠理に殴られます」 「魅録を−−許してくれる?」 「許すも何も…」 そういって、清四郎は魅録に向き合った。 「魅録。−−−ついさっき悠理からOKをもらいました。勝負は僕の勝ちです」 「−−ああ」 「悠理だけはやはり譲れません。僕は長い間あいつだけを見てきたんです」 「知ってるさ−−それよりな清四郎」 「はい」 魅録は苦笑しながら小声になった。 「−−さっきよりも確実に注目度があがってるぞ?悠理を引き上げて来いよ。さすがにここにはいらんねえだろ?」
魅録の言葉に可憐と清四郎が周りを見回すと、3人を取り囲むように遠巻きではあるが人だかりができている。 映画かドラマの撮影か何かと思い始めているような会話が聞こえてくる。 「−−夕食まで、可憐借りてくぜ。あの様子じゃ…だいぶごねるだろ?−−後は任せたぜ」 「わかりました」
(確かに…なだめるのに手を焼きそうですねぇ…)
清四郎は可憐の手を引き歩いていく魅録を見送った後、いまだプールの中でじとっとこちらを見ている恋人の姿を振り返った。
未完(涙)
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