闇の恋人おまけ

BY 金魚 様

 

 

 白い雪がちらほらと窓の外に降り始めたのをみて、悠理がため息をついた。
「…もうすっかり真冬なんだな」
「そうですね」
清四郎もその声につられて思わず窓の外を見上げる。

悠理と野梨子が無事に退院して、カレンダーを眺めると12月も半ばを回っていた。

「なんか、よくわかんないうちに季節が流れてるし…」
「−−−−色々信じられないことを体験させてもらいましたよ」
清四郎がコーヒーカップに口を付けつつ、しみじみという。

「−−あたいには……よくわかんないうちに期末テストが月曜からって信じらんねぇ!!。なんだよ!この試験範囲は!!授業受けてねえのに分かるかよ!こんなもん!!」
悠理が頭を抱えて唸る。

「−−悠理の場合、授業受けてたって聞いてねーだろ」
横から魅録が突っ込む。

「うるせーぞ!魅録!−−−どうせあたいは野梨子じぇねえよ!」
「そんなこと言ってねえだろ!!」
魅録が真っ赤になる。
それをみて、悠理がさらに”にやり”と口元を歪める。
「−−へん!頭の色と同じくらい顔赤くしやがって!にやけてんじゃねえぞ〜」
「−−てめぇ…」
すっと魅録の目が細くなりかけるところへ、魅録の袖をひき、真っ赤な顔の野梨子が黙って首を振る。


「やーい。女に助けられてやンの」
「悠理///!」

「……お前は余計なこと考えてないで、勉強に集中しろ…」
完全に机に背を向け、あかんべーをしたままの悠理は殺気モードの清四郎に首根っこを押さえられ、机の方向へ引き戻された。


本日土曜日。
午前中から清四郎の部屋には週明けの試験に備えて全員が集まっていた。

本当のところ、勉強が必要なのは悠理と野梨子の二人だけなのだが、その勉強をみられるのが清四郎か魅録だけだということが今回の問題となった。

「…あたしたち、おもいっきりお邪魔虫なのにねぇ」
清四郎に渡された、”可憐用・期末対策プリント”を解きながら可憐は美童相手に文句を言う。
「−−まあ、あれだけ頼まれたら仕方ないんじゃない?」

悠理と清四郎は今まで−−試験前は”お互いの家で強化合宿”いうなれば”泊まり込む”のは恒例行事だった。
−−しかし、あれだけ派手に付き合いを互いの両親に知られてしまうと、小躍りする剣菱家はともかく、菊正宗家では監視下の元での息苦しい勉強会にしかなりえない。

おまけに、居合わせた白鹿夫人&時宗氏にも娘&息子に”お友達の域を超えた恋人”ができたことを知られ、事態は同様である。

試験範囲に適した勉強が必要な二人。
その二人に教えられる能力があるのも二人。
4人だけで集まるのも−−−。

どの家に集まっても今はかなり気まずい−−−。
外で勉強するには不向きなメンバー…。

そんなわけで、清四郎と魅録に
「「頼むから!みんなでいっしょに勉強しよう!!」」
と必死で頼まれた美童も同じく”美童用・期末対策プリント”を解きつつ苦笑する。

「−−それに、これ良くできる…。作るの大変だっただろうな……僕の苦手な問題ばっか集まってんだもん!!!−−おい、清四郎、これ教えてよ!わかんないよぉー!」


****************


午前中から始まった勉強会も、夕方が近い頃には野梨子・美童・可憐・魅録のノルマは終了していた。

後はいつもの問題児、悠理を残すのみである。

菊正宗家で夕飯をごちそうになる時刻までは全員が付き合ったが、さすがにそれ以上は無理があるという事で、悠理を残し、全員が帰宅していった。

「−−悠理ちゃん、居間で勉強する?」

清四郎の母が心配顔で悠理にそっと聞いてくれた。
が、きっぱりと首を振ったのは清四郎だった。

「あんたに聞いてないでしょーが!」
珍しく家にいた姉の和子が清四郎の額を小突こうとするが、ひらりとかわし、清四郎は宣言した。

「−−−−申し訳ないんですが、次回の試験で赤点取ったら悠理は本気で卒業が危ないんです!いらない心配は無用です!!いくぞ!悠理!!」

清四郎は座った目つきで家族に告げると、先にずんずんと歩いていってしまった。

「あ??お、おう。−−おばちゃん、和子姉ちゃん、ごちそうさま!」
悠理は二人にぺこりと頭を下げ、清四郎の後を追った。

(そっか−−あたいって卒業危ないとこにいるんだぁ…こりゃ、今夜も寝かしてもらえないんだろうなぁ…)
悠理は2階への階段をとんとんと登りながら頭を抱えていた。


****************


「−−清四郎?」
清四郎の部屋へ戻ると、清四郎は悠理に解かせていた問題集をぱらぱらとめくって中を確かめている。

「……うーーん」
一冊目をどさりと投げだし、次の問題集を手にとり確認している。

悠理がしごく真剣な表情の清四郎をみて、泣きそうな顔になる。
「−−なぁってば!」

背後から聞こえる悠理の声に清四郎は振り向き、黙って首を振った。
「あたいって本気で−−卒業やばいの???」

清四郎に黙って首を振られた悠理は青ざめた。
が、彼はチラッとドアの方を眺め、悠理に向かい、しーっとポーズを作る。

(???)

悠理がクエスチョンマークを飛ばしていると、清四郎はそろり、そろりとドアに近づき、一気にドアを開けた。
と、見事に和子と母がなだれ込んでくる。

「−−二人とも!!いいかげんにしないと怒りますよ!!!!」

本気モードの清四郎の怒りに、
(−−原因作ったのはあんたじゃないの!)
とぶうぶういいつつも、二人は階下へ降りていった。

しばらくドアの外の気配を辿るが何も感じられない。

「まったく!!ずーっとこの調子なんですから。たまりませんよ」
清四郎ははぁ〜と息をついて部屋の鍵をかけた。
悠理との一件が知れ渡って以来、父はともかく母と姉からは若干チクチクとする視線を受け続けている清四郎であった。

「おもしれーなぁ。二人とも、盗み聞きなんてするようなタイプに見えないのにさ。家はいつものことだけど」
ケラケラと悠理は笑う。

「思いっきり、”そーゆー関係だ”と公表したわけですからねぇ…」
清四郎がため息をついていう。

「−−−公表したのはあたいじゃないけどな」

悠理の言葉に清四郎はうっと詰まる。
そう、暴露してしまったのは清四郎だった。

先だっての心霊騒動、清四郎自身生まれて初めての幽体離脱…だったのかは定かではないが、とにかく、清四郎、悠理、野梨子の3人は通常足を踏み入れることのない世界を体験してきた。

そこで、話しをした「弥七郎」という魂。
その魂は現在の自分の中に半分存在するという。

人望があり、頭が良く、人に頼られ、正義を貫こう、民を守ろうと活動したあげく、罠に落とされ投獄…獄中死した人物。

その彼が、清四郎に告げたのだ。
残りの魂の転生先が決まった−−−−清四郎と悠理の子供に。

−−その少し前、悠理との既成事実が出来上がっていた清四郎は思いっきり勘違いした。
そして、自ら墓穴を掘る−−という生まれて初めての失態をおかしたのだった。

「……ええ、僕みたいですね」
「みたいじゃなくて、お前だっつーの」
悠理は容赦がない。

こういうときはその方がありがたいくらいだが、清四郎はとりあえず悠理がといた問題集のチェックにかかった。
ややあって、悠理に向き合う。

「悠理」
「−−ハイ?」

「あと10問、解きましょう。悠理が苦手にするとこだけ抜き出したプリントを作ってありますから。それが完璧ならとりあえず初日の試験範囲は問題ないはずです」
「−−う…。はぁーい」

先程、”卒業が危ない”と言われた悠理は、目の前に掲げられた”剣菱悠理用・期末試験強化対策プリント”を苦々しげに受け取ると再度机に向かっていった。


****************


夜10時、姉和子が清四郎の部屋に顔を出し、たっぷりの量のミルクティーとマフィンを差し入れてくれた。

「悠理ちゃん、頑張るわね」
「ありがとー。和子姉ちゃん!!」
悠理は嬉々としてマフィンを頬張りながら礼をいう。

和子はさりげなく清四郎と悠理の距離を測り、部屋の中の様子をうかがうが、抜け目のない弟のすることである。今のところは何も変わったものを見つけることができずため息をつく。

「……なにため息ついてんですか」
清四郎がいぶかしげに声をかける。
「べっつにぃ〜……ただ”可愛い悠理ちゃん”が遊びにきたとき、あんたはどこにエロ本隠すのかなって思っただけよ」
からかい口調の姉の言葉に清四郎はわずかに眉をあげる。

「−−つまんないこといってるだけなら、でてってください!まだ勉強中なんです!」
清四郎はギロリと姉を睨む。
「言われなくったって、私は今から出勤よ!−−あんたを喜ばせちゃって残念だけど!」
「こんな時間から仕事なんだ。忙しいんだなー。和子姉ちゃん」

姉・弟間の無言の会話内容を理解できていない悠理は素直に感心する。
その声に振り返って、和子はにっこりと微笑む。

「個人的には悠理ちゃんのこと大好きだから(剣菱家と縁故になれるのも)姉としては喜ばしいかぎりなんだけど。けど、一応高校生同士なんですから、不純異性交遊はだ・め・よ。悠理ちゃん♪清四郎が迫ってきても負けちゃダメよ〜♪」
爽やかな笑顔でそういい、悠理を真っ赤にさせると高らかな笑い声を残して和子は出勤していった。

(−−この気まずい空気をどうしろっていうんですかね。あの人は−−)

清四郎はペンを握ったまま真っ赤な石になっている悠理の背中を見ながら深いため息をついた。


****************


「−−よく頑張りましたね。問題の8割強はあってますよ。この様子なら残りは明日に回しても間に合うでしょう」
「え?!ほんと?」
悠理は清四郎が手にしている問題集をのぞき込む。

「ええ。誤字脱字があるのをのぞけば、ほぼ9割できてます」
「−−こまかい事言うな…」
悠理は表情をげんなりと崩す。

深夜12時を少し回ったころ、最後の採点を終えた。プリントを悠理に戻して、清四郎は首を傾げる。

「わー!すげー!ほんとにマルがいっぱい!!」
「もしかして、−−授業受けるより個人指導受けた方がお前には効率がいいってことなんですかねぇ…」
清四郎はしげしげと悠理の頭を見ている。

興味深げな視線に気付いた悠理がぷいっと横を向く。
「外から頭見たってそんなもんわかるわけないだろ!変な奴だな!」

「−−まぁ…そうなんですけどねぇ……。開いてみるって訳にも行きませんしねえ…」
じーっと悠理を見ながらそうつぶやく清四郎に悠理は若干青くなって後じさりした。

(…こいつ、解剖とか好きそうで怖いよなー)

おまけにそういったきり、黙って悠理を見続ける清四郎に気付いた悠理は首を傾げる。それは”見つめる”という甘い感じではなく、じとっとした感じの視線だった。
「−−なんだよ?」
何か文句でもあるのかと悠理は眉をしかめる。

あまりにも何も気にしていない悠理の様子に、清四郎はため息をついた。
「いえね。−−勉強は一応終わったんですけど…悠理の布団、客間にひいてあるんでしょうねぇ。あの様子からすると…」

勉強の話から会話が変わっている事に悠理は赤くなった。しかも話題は布団である。
(…一瞬前までの鬼家庭教師ぶりはどこにいったんだよ///)
悠理は清四郎がいわんとしていることにやっと気付いた。

−−−−心霊騒動、呪詛騒動のまっただ中、目の自由を奪われたまま”初体験”してしまった事実までいっぺんに記憶に登ってき、真っ赤になってしまった。おまけによく考えるとあれ以来初めての二りっきりの夜である。

「−−どうするも何も、降りなきゃまずいんじゃねーの??」
「…ずいぶん簡単にいいますねぇ」
悠理の満点の返事に清四郎は少々むくれる。

「だって−−−おばちゃん達に怒られるぞ?多分。今までみたいにあたいがここに泊まってたら。あたいよりもお前の方が怒られんじゃねーの?」
「−−−まあ、うるさいのは事実でしょうね」
清四郎は悠理の腕をそっと引き寄せようとして手を伸ばし、真っ赤な顔の悠理に逃げられた。
そのまま悠理は清四郎の側を離れる。

「あ!!−−ドアの外に和子姉ちゃんがいるぞ!」
「−−いませんよ」
立ち上がった悠理をジリジリと壁際へ追いつめていく。

「そうだ!!−−なら、おばちゃんがいるぞ!!」
「−−いませんって」
「−−−清四郎、近すぎるぞ!!」
とうとう部屋の隅へ追い込まれてしまった悠理は真っ赤になって目を閉じる。
清四郎の顔があまりにも近くにありすぎる。

「−−−−悠理。嫌なんですか?」


****************


「−−−−嫌も何も/////」
悠理は焦りつつ、考えていた。

清四郎との間に起きたことを何も考えず、この場にいたことには確かに気付くと焦ったが、今、清四郎のいわんとするところを理解してみると、2度目のなにやら…に突入という状態らしい。

しかし、こんな風に”清四郎に迫られる”のはいくら関係を持った後とはいえ初めての事だった。
確かに、お互いに好意を持っていることは入院中に確認できていたが、その後、気がつけば日常生活に戻るのが手一杯で、”デート”なんて”デ”の字も出ていない。

さらに、よくよく考えてみると、早乙女の呪詛のせいで清四郎には胸を触られ続けていたが、あの件がなかったらこの状況も訪れていないはずである。

(清四郎はそ−ゆうの、考えてるのか??まさか、やれれば−−−なんでもいんじゃないだろうな?)
(まあ…可憐みたいなダイナマイトバティ持ってるわけじゃなし…身体目当て??なーんていえる義理でもないんだけどさ。でも!)

悠理はそう考え至ると、一度閉じた目をぱっちりと開き、今まさに重なろうとしていた唇にすばやく自分の手を割り込ませ、清四郎の口をぴったりと塞いだ。

「−−清四郎。ちょっとタンマ」

甘い観念をしたはずの恋人にどこか冷めた口調でタンマをかけられ、清四郎も動きを止める。

「なんですか?」
(ここで、なんですか?と聞くのも色気がないな…)
とは思いつつ、悠理の表情を見ると、聞かないわけにもいかなそうだ。

「なんですか?じゃ、ねえだろ?お前なんかあたいに……いうことないか??」

頬を染め、厳しい口調で問いつめてくる悠理に一瞬清四郎は目を見張ってしまった。
(悠理もこういう台詞を口にするんですね)
(まるで、普通の女の子みたいにキスの前には気持ちの確認が必要なんですか…)

失礼ながら清四郎は軽くそう解釈した。悠理の気持ちは当然な気もしたからだ。
気恥ずかしい思いを感じつつ、清四郎は悠理の目をみて笑うと、再度悠理を壁際へ追い込み、ささやいた。

「僕は悠理が好きですよ」

至近距離で清四郎にそうささやかれ、悠理は素直に嬉しかった。
無言でキスを求めてくる清四郎に一瞬観念しかけたが、思い直して再度近づいてきた唇を手で塞いだ。

 

 



 「……悠理??」
今度は清四郎も怪訝そうな表情をしている。

(あの時−−、あたいはわけわかんないうちに勢いに流されてそうなって−−。清四郎だって”許してくれ”って言ってたよな?今のこの行動はその責任感…じゃないって言い切れるのか?)
悠理は清四郎にそう聞きたかった。

否定の言葉が聞ければ、もう迷う気持ちはない。そんなのはあたいらしくない、とも思う。

(でももし、いつもの口調で”ないとはいいきれませんが…”なんて前置きがついたら?あたいはその時、どうするんだろうか?)

悠理は清四郎の口を手のひらで塞いだまま、必死で言葉を探した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「僕はお前を愛してます。だから、何も心配しなくていい」
これは病院で聞いた台詞だ。

「悠理、あんな状態だったとはいえ、無理矢理…だったのは…」

「−−わかってるから!あやまんなよ!!−−あやまったら嘘になっちまうだろ?!」
「−−わかりました」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

そうやって、認めてしまったのも自分だ。

(でもそれって、清四郎の性格上、やってしまったことの責任取ろうって…言ってるようにも…)
(だいたい、あんな風に清四郎に胸触られることがなければ…早乙女の呪詛がなければ…清四郎はあたいのことなんか好きだって言ったか??−−だいたい”愛してる”っていつ?あたいのどこを好きになったんだ?そういえばあたいはまだ何にも聞いてない…)

「−−お前、早乙女の呪詛がなかったらあたいを抱くことなんかなかったんじゃないか?」
(うう…もっと他の言い方があるよな…)
自分でもそう思うが、うまく言葉にできないのがもどかしい…。悠理は唇を噛んだ。

「何を突然?」
(−−なにか、機嫌を損ねたんだろうか??)
清四郎も言葉を探す。

「どうなんだ?」
「それはまぁ…ないとはいいきれませんが」

「−−−−!!!」
(でたー!!!)

予想はしていたが、現実に聞く台詞にショックが走る。
清四郎の気持ちを疑っている……自分にも納得はいかないのだが、このままなし崩しになるのは嫌だ!




「−−−あたい、降りる。また明日な。清四郎」
悠理は清四郎から顔を背け、ドアノブに手をかけた。


****************


「悠理!−−ちょっと待て!」

あきらかに何か思い詰めた表情の悠理を清四郎は必死で止めた。

「−−なんだよ。あたいがここで寝たら、おばちゃんだって怒るぞ?」
悠理は可愛くない答え方をする。

「おふくろの話しなんか今、関係ないでしょう?!お前、何か言いたいことがあるんだろ?!黙ってたって分からないんだ。きちんと話せ!」
清四郎は思わず悠理の肩を力一杯つかんだ。

「−−痛っ!痛いよ、清四郎」
「あ、わるぃ…」

二人の間に沈黙が流れる。

清四郎がもう少し女性の気持ちに敏感だったら。
お互いに「恋」が初めてでなかったら…。
問題にならない事だったのかもしれない。

もっとも清四郎は”精神的な恋愛は”初めて…と補足があるわけだが。

「悠理、どうしたんです?僕はなにか、気に入らないことを…しましたか?もしそうなら謝るから。訳を話してください」
真剣な口調の清四郎の顔をみて、悠理は涙が止まらなくなった。

「−−清四郎、あたいのどこが好きなんだ?」

泣きながらそう聞いてきた悠理に清四郎はもう一度目を見張ってしまった。
(悠理もやっぱり女の子なんですねぇ…)
(今まで、男同士のような付き合いをしてきてしまったノリで構わなすぎたんですかね…)
(でも、それをいうなら、悠理だってまったく意識してくれているようには感じませんでしたがね)
(…なんて言ってあげたらいいんですかね)

清四郎は抵抗する悠理の身体を力づくで腕の中に抱きすくめた。
慣れない行動に恥ずかしくて顔が赤くなるのを自覚しつつ、小さな声で告げた。

「…どことは決められませんませんが…全部ですよ」
自分の肩に顎を乗せた清四郎が小さな声でそう言うのを聞いて悠理は少し笑って、目を開いた。

「それっておおざっぱすぎ…」
「…じゃあ、よく笑うとこです。−−それから、よく泣くところ」
「−−そんなの可憐や野梨子だって同じじゃん…」
「なら、よく食べるとこも」
「−−誉めてないじゃん」
悠理は真っ赤になる。

清四郎はクスクス笑うと、悠理の額に軽くキスをした。

「悠理−−−僕がお前の全部が好きだ。−−お前といると、一人でいるより倍楽しくて、驚かされて…。予想のつかない答えばかり返ってくる。そういうのが全部、お前の魅力なんですよ。」
「…あたいはびっくり箱かなんかかよ」

「まあ、そういう見方もありますが…。とにかく、早乙女の件がなかったらもう少し後にはなってましたが…僕は必ずお前に告白してましたよ」
「…嘘臭い…じょ」

「…まだ信じられませんか?」

清四郎が悠理の目を見つめて問う。

「あの時、僕は…確かに…早乙女の呪詛に流されてしまった感もありますが、お前に言ったはずだ。”お前の意識がない間にお前を犯してしまうかもしれない。−−だけど、僕は意識のあるお前を抱きたい”って。…覚えてもらってますか?」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「お前に意識があったのか、なかったのかはわかりませんが、さっきの”峰”がお前の身体に戻ってきたら、意識のないお前を犯してしまう事になる…。僕は本気でお前を愛しています。だから、たとえお前を…犯してしまうことに変わりはなくても…どうせお前に嫌われてしまうなら、僕は”お前を”抱きたい!!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「そんなことをしたら、お前に二度と口をきいてもらえないんじゃないかと思って…」
「清四郎…」
「それから、僕はあの時、お前の目が見たくて−−−気が狂いそうだったんですよ」

そう言い、ゆっくりと近づいてくる清四郎から今度は悠理も逃げなかった。


****************


「悠理、お前を抱きたいんです。−−許してくれますか?」
清四郎はそっと悠理を抱きしめてたずねた。

しかし、3度目のキスの誘いを悠理はそっと顔をそらせてかわした。
間近で見る清四郎の表情にわずかに失望の色がのぞく。
悠理は代わりに清四郎の顎に軽いキスをした。

悠理からの初めてのキスに、清四郎は微笑むが、その唇を探した口元は再度悠理の手に覆われてしまった。
(−−−またですか−−−)
じらされまくった清四郎は、参ったとばかりに目を閉じる。欲望が形をとりつつある自分の身体が恨めしい。

「あたい…その前にさ、その、お前ともう少し……。お前が今回の事がなくても、いつかあたいを好きだって言っただろうって…言ってくれて…すごい嬉しいけど、あたいは…」

(もしかして、悠理は僕が思うようには僕を好きではない…と?)
清四郎に緊張が走る。

「お前は…?なんですか?」
それでも、優しくたずねる。

「−−あたいは、まだお前を知らないだろ?」
真剣な目をした悠理にそう言われ、清四郎は胸にわずかな痛みが走るのを感じた。

「−−子供の頃からずっと一緒にいて、いつも一緒にいるのにですか?」
思わず即答してしまい、やっぱり…といいたげな表情の悠理の視線とぶつかった。
「−−いつもあいつらと一緒だろ?あたいはしょっちゅう魅録とつるんでるけど、お前と二人だけで出掛けたこと、あるか?」

清四郎は視線を天井へ向けて考える。
「…確かに、主立った用事がある時以外は…。和尚のとこは別ですか?」
「−−じっちゃんのとこ行くのがデートになるのかよ!!」
悠理の憤慨をみて、清四郎はやっと合点がいった。

目の前の悠理はしまった!という顔でみるみる赤くなっていく。
清四郎はにやけた表情であからさまに、にいっと笑うと、悠理を力一杯抱きしめた。

「−−僕としたことが、僕の子供まで産んでくれる”運命の女性の確定”に舞い上がってましたよ!!しましょう、悠理。これからたくさん、たくさんデートを!お前が満足してくれるまで、僕は付き合いますよ!」

楽しげな清四郎の胸に顔を押しつけられたまま、悠理はジタバタともがく。
「苦しいぞ!清四郎。分かったから、少し力緩めろ!」

「おや、これは失礼−−」
真っ赤な顔で息継ぎのため顔をあげた悠理の唇に清四郎はちゅっと音をたててキスをした。

「−−ばっ!お前なぁ!///」
「これくらいは許してくださいよ。男の立場から言わせてもらえば、結構辛いんですから。−−僕の方は、お前を…一度お前を抱いてしまったら、触れずに過ごすのは拷問みたいなもんですよ」

明るい口調の中に男を意識させる声が入り交じり、悠理は胸がどくんと鳴るのを感じた。

「…んな、辛いの?」
じっと自分をみあげてくる悠理の瞳にクラクラし、大きく息を吸いこむ。

(…思いっきり誘ってるような仕草にうつるのは…もちろん自覚はないんだろうな…)

「そんな目で見つめられたら…我慢できなくなりますよ」
清四郎は悠理の背中に回した手をそっと撫でる形へと移行する。

背中から、肩、首筋と清四郎の優しい愛撫を受け、悠理も喉をそらす。
その白い喉に清四郎はたまらず唇を這わした。
悠理の身体がびくんと震える。

「そんなことしてたら…余計に…」
悠理が甘い抗議を口にする前にその唇はキスで塞いで。

「んん…」

悠理の身体から力が抜けてくる。そのここちのよい重さを腕の中に感じ、清四郎は思わずキスを深めた。

その素敵な瞬間−−−



開かないドアがガタガタと揺れ、父・修平の大きな声が響いた。

「清四郎!そろそろ勉強は終了しろー!!母さんが、悠理君が降りてこないと心配で寝られないぞー!!」



「!!!」
清四郎の無言の表情に悠理はクスクス笑い出す。

「公開したのはお前だかんな♪」
「…………分かってますよ!…」

悪戯な表情の恋人にもう一度だけ強引に口づけ、清四郎は唸りつつ、観念してドアの鍵を開けた。


室内の様子を眺め、変わった様子がないことに安堵した表情の修平につい恨めしげな視線を送ってしまうのは否めない。
「鍵をかけるんじゃない!このバカ息子が」

自分を見て、ニコニコしている悠理に修平も思わず笑みをこぼす。

「悠理君はあずかった」
悠理の肩に後ろから両手をかけ、某刑事ドラマの台詞の口調をまねた修平がにやりと笑う。

「(怒)…………寒いですよ。親父……」

「布団に入ればあったまる!さっさと寝ろ!−−さ、悠理君は下でな」

「はーい♪お休みぃ♪清四郎〜また明日な♪」

悠理まで修平には見えない位置なのを確かめて父と同じニヤニヤ顔をしている。
清四郎は一瞬うっと詰まってから大きな声で返事をした。

「−−おやすみ!!!」

わっはっはと笑う修平の手によってぴしゃりと閉まった自室のドアが恨めしい。

(今度は絶対邪魔の入らないとこにいきますからね!!)

恋人に知られたら蹴りが入りそうな妄想と、今後のデート計画を練りはじめる清四郎が思いを遂げられるのはもう少し先の話し…。


 

 

 

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