BY ぱんだ様
「あ〜、やっと書けた〜!じい、おやつっ!!」 「どれどれ、見せてごらんなされ。」 目を細めた五代が、手に取った絵日記を読んでいる横で 僕は黙々と、次々にメイドが運んでくるヤ○ルトの空き容器を積み上げていた。 まったくこいつときたら…!! ※※※※※ いくら放任主義とはいえ、さすがに心配になったのだろう 朝食の席で母さんに問い詰められて、しぶしぶ白状したところによると 何一つ手をつけていなかった、という。 「…それで、どうするつもりだったの?」 「……。」 もじもじとうつむきながらも、口だけはしっかりモグモグさせている妹から バナナをひったくると、母さんは、きっ、と僕を振り返った。 「…あなたは、とっくに終わっているんでしょうね?」 「悠理と一緒にしないでよ、僕は七月中には…」 「そう。じゃ、お願いね。」 「え?」 「今日、明日、あと二日あります。悠理!!」 「はっ、はい…」 「兄さんが手伝ってくれるから、何とかしなさいっ!!いいわね!?」 「ちょっと、僕、今日は…」 僕の抗議なんか聞き捨てて、両親はフランスへ旅立っていった。 あ〜あ… ま、どうせ暇ではあるんだけど… 「ぼっちゃま…。」 「…しかたない、さっさと済ませよう。」 この期に及んでまだ逃げ出そうと走り回る悠理を、使用人総出で苦心して捕まえると 僕と五代は面倒な作業にかかる。 「これとこれ…あとは?」 「…絵日記と工作と<夏休みの友>。」 ようやく観念した悠理が、ふくれっ面で差し出したそれらは当然、僕にとっては簡単なものばかり。 <夏休みの友>と朝顔の観察は、こっそりつけていたメモ(…親心だよなぁ)を元に五代が。 絵日記と読書感想文は悠理、算数のプリントと工作は僕。 …バカらしい。なんで今更、一年生の算数なんか… 出来るだけ汚い字で記入したそれを重ねてとじる。 「すげ〜!兄ちゃん、もう終わったの!?」 …お前に褒められても、なあ… 「…いいから、さっさと色を… ところで悠理、工作はどうするんだい?」 「う〜ん、と…」 「じょうちゃま、お人形の家でも作っていただいては?」 「やだい、そんなの!! …あ、あれがいいっ!マジン○ーZ!!!」 マジン○ーZ…。また、面倒くさいものを。一体どうやって作れというんだ… プラモデルってわけにはいかないよなあ… 嬉々として差し出された古いテレビ絵本(僕のだ。よく残っていたものだ…)を前に とりあえず工作に使えそうなモノを集めてくるよう命じたが メイドに持ってこさせた空き箱はどれも大きすぎて、今イチ、ピンと来ない。 う〜ん… そういえば、昔ヤ○ルトの空き容器で友達が… どうやってか、大量に集められたそれに、接着剤をつけながら積んでゆく。 最初、ポカン、と口を開けて眺めていた悠理は、大はしゃぎだ。 「すげー!!兄ちゃん、すげー!!!」 ふふん。どうだ! 待ってろ妹よ、 マジン○ーZぐらい…
※※※※※ …難しいな。 すっかり熱中していた僕の向かいで、五代が悲鳴のようにも聞こえる唸り声をあげた。 「…じょうちゃま、これは、ちょっと…」 手を伸ばして、それを取り目を走らせると、僕は心底悲しくなった。 「8月30日 あさごはんのとき、かあちゃんが、もうしゅくだいわおわったの。 というから、まだだよっていったら、ものすごくおこられた。 にいちゃんがこうさくで、じいがあさがおとなつやすみのともで あたいはえにっきおやりました。 みんなでなかよくやりました。」 …たしかに嘘はよくない。 ばか正直なお前は可愛いけれど… ふと見ると、五代も涙目で、アイスクリームを食べる悠理の頭をなでていた。 「じょうちゃま…。絵日記の紙はこれしかないのですか?」 「ないよ。」 頑として書き直しを拒む悠理と、似たような画用紙に線を引いて鉛筆を持たせようとする五代の すったもんだを黙って眺めていた僕は ただただ悲しく、情けない思いでいっぱいだった。 「…もういいよ五代。とりあえず次だ。悠理、読書感想文だったな?」 「でも、ぼっちゃま…」 これでは、学校で叱られてしまう、と しばらくグズグズ言っていた五代も、やがて諦め、朝顔の記録を続ける。 いいんだよ、五代。 よその大人に叱られて、このバカも、ちょっとは賢くなるだろう…。 お前には、本当に苦労をかけるなぁ… しばし、黙々とそれぞれの作業を続ける。 いやに静かだと思ったら、絵本を広げたまま、諸悪の根源は船を漕いでいた。 さすがに腹がたって小突くと、わあわあ泣き喚き始めた。 「だって、何て書けばいいか、わかんないんだよぉ〜〜!!」 結局、横で五代の言うままに感想文を仕上げた悠理は しばらく僕の側で、物珍しそうにチョロチョロしていたが、外へ遊びに行ってしまった。 呆れてモノも言えない。 ノルマを果たした五代に手伝わせて、やっと夕方、どうにか形になったマジン○ーZ。 いつのまにか優に1mを超す大作になってしまっていたが 僕は心地よい達成感を味わっていた。 「明日、色を塗れば完成ですな。」 「うん。」 「おおぉ〜〜〜っ!!すげ〜!!」 走りこんできた悠理が感嘆の声をあげ、興奮して跳ね回る。 丸一日、拘束されてしまったが、こんなに嬉しそうな顔が見れるなら 苦労した甲斐があるというものだ。 「よし!戦うぞ、にいちゃん!!」 「こ、こらっ!壊れるぞ、やめろ!!」 なんとか無事に引き離し、僕の部屋へ確保。やれやれ…。 …翌日、色塗りの最中に飛び掛られて台無しにされるとは のち数年にわたって、同じ目ようなにあうとは、思いもせず その夜、豊作君はグッスリと眠りにつきました、とさ。
<おしまい>
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