cassis of sea

    by にゃんこビール様

 

 「清四郎、ただいまぁー」

悠理は玄関に入ると家の中に向かって叫んだ。

しかし返事はない。

玄関先にはきちんと並べられた靴。

そして悠理とお揃いのスリッパはない。

返答がないことに少し不安になり、バスルームや寝室も覗いた。

しかし、いるはずの姿が見えなかった。

ふと気が付くとリビングから灯りがもれていた。

決して電気を点けっぱなしになどしないその人は、ソファに座っていた。

 

「清四郎…?」

悠理はそっと前に回ると、清四郎は眠っていた。

テーブルを見ると、クリーム色のバラの花束と、ロゼワインがあった。

悠理はそばにあったカードを見る。

バラは美童と野梨子から、ワインは魅録と可憐からのプレゼントだった。

清四郎と悠理の結婚記念日のプレゼント。

今日は5回目の記念日だった。

 

そんな大切な日に悠理は剣菱のパーティに出なくてはならなかった。

ごねにごねたが百合子に「何も一晩中拘束しないでしょ!」と怒られ、

清四郎にも「悠理は取締役なんですから、出席した方がいいですよ」と

説得され、泣く泣く行くことにした。

用意してもらった剣菱の車を飛ばしてもらって、日付が変わる前に

急いでマンションに帰ってきた。

今日は清四郎は夜勤じゃないはずだから、何もトラブルがなければ

家に帰ってるはず。

 

悠理は眠っている清四郎を起こさないように寝顔を見た。

気持ちよさそうに上下する胸。

下ろしている前髪。

長い睫、なめらかな頬、筋の通った鼻、引き締まったくちびる、

端正な顔立ち。

自分の夫がこんなに綺麗な顔をしているのかと胸がドキドキする。

悠理は指でそっと清四郎の頬に触れた。

ゆっくりと清四郎の瞼が開いた。

黒い瞳に悠理の顔を確認すると、ふっと柔らかい微笑みを浮かべた。

「悠理… おかえり」

悠理もにっこりと微笑んだ。

「ただいま。ごめん、起こしちゃった?」

清四郎は腕を伸ばして悠理を膝の上に抱き寄せた。

「うわっ!あたいまだ着替えてないし…」

「せっかくドレス着てるんだからよく見せて下さいよ」

そう言うと清四郎は大人しくなった悠理をじっくりと見つめた。

今日は百合子が用意したカシス色のドレスを着ていた。

早く帰りたかったので着替えずにそのまま車に乗り込んだのだ。

「すごく綺麗ですよ」

ちゅ、と軽く音を立ててキスをする。

「あんまり見るなよ、恥ずかしいじゃん…」

少し頬を染めて悠理は清四郎のおでこに自分のおでこをつけた。

「いいじゃないですか。今日は記念日なんですから」

清四郎は悠理の髪に指をかき入れ、深くキスをする。

「んっ…」

悠理も清四郎の首に腕を回して、キスにこたえる。

「今日はごめんね、せっかくの記念日だったのに」

くちびるが離れると悠理は清四郎に謝った。

「謝ることないですよ。僕だって誕生日のとき、病院に呼び出されたじゃないですか」

それに…と、清四郎は続けた。

「こうやってふたりでお祝いできたでしょ?」

うん…と悠理は小さく頷いた。

「あ、あたいからのプレゼント見た?」

「ええ。かわいいですね、ありがとう」

清四郎にプレゼントしたのはネクタイ。

明るいグレーに黒の模様。その裾には、赤い刺しゅうのネコが5匹。

清四郎が病院で白衣を着たときはネコが隠れるようになっている。

「5周年だから5匹?」

「そう!美童の知り合いのデザイナーに頼んだんだ。気に入った?」

悠理はキラキラと瞳を輝かせた。

「もちろんですよ。早速、明日して行きますよ」

清四郎の返事に悠理はニコニコと微笑んだ。

「僕からは… 悠理、ワインクーラーの横の箱を取って下さい」

清四郎に言われて取った箱はジュエリー・アキの包み。

「これ?」

開けてごらん、と言われて悠理は包みを開いた。

「可憐に頼んでデザインしてもらったんですよ」

蓋を開けると中にはクロスのネックレスが入っていた。

波のようなディテールに小さいルビーが5つはめ込まれていた。

「かわいい!!」

「可憐がルビーを入れてくれたんですよ。悠理の誕生石だからって」

清四郎はネックレスを手にとって悠理の首に付けた。

「似合う?」

「ええ、とっても。喜んでもらえました?」

「うん!もの凄ーく、嬉しい!」

悠理は嬉しさのあまり清四郎に抱きついて、ずっと清四郎の膝に座って

いることに気が付いた。

「うわっ、ごめん!重いだろう?下りるよ」

「いやです。このままでもいいじゃないですか」

清四郎は回した腕に力を入れてますます悠理を抱きしめた。

「ばっ… よせって…」

清四郎は顔を悠理の胸元に埋めた。

悠理が身体を捩ると白い胸元にクロスのネックレスが揺れた。

そのネックレスを見ていた清四郎がゆっくりと悠理を見上げる。

下ろした前髪からのぞく黒い瞳は熱を帯び、色香が漂っていた。

「清四郎…」

その色は悠理の瞳にも移った。

 

 

  寝室へつづく廊下には絹の海が広がっていた。

カシス色に染まった海は悠理のドレス。

白い波は清四郎のシャツ。

渦巻く潮は清四郎のネクタイ。

弾ける波はふたりの愛液。

波が砕けた音はふたりの身体がぶつかる音。

波間に聞こえるふたりの甘い声。

 

「ああん… せいしろう…」

「悠理… 悠理…」

激しくキスをしては舌を絡める。

悠理の白い裸体を清四郎の舌が愛撫する。

悠理は清四郎の髪を掻き乱す。

「よく… 見せて…」

清四郎は繋がったまま、悠理の身体を抱き反転させた。

悠理は清四郎をしなやかな脚で挟んだ。

「ああっ… あっ…」

下から突き上げる動きに悠理の形のよい乳房が揺れる。

その胸元にはシルバーに光るネックレスがいっしょに揺れる。

5つのルビーも動きに合わせて光っている。

清四郎は悠理の乳房に手を伸ばし、柔らかく揉み上げる。

悠理は下肢からの突きの激しさと、乳房と乳首に感じる優しい愛撫に身悶え、

自分の髪を掻き乱した。

「あ… んん…」

清四郎は自分の身体の上で踊る悠理を見上げていた。

「悠理… とても… 綺麗です」

悠理の細い腰を掴んでもっと突き立てる。

「あああっ… あっ… あ…」

「くぅ… 」

清四郎と悠理は同時に果てた。

一気に脱力した悠理は清四郎の胸に倒れ込んだ。

ふたりはお互いの身体を撫でながら、荒い呼吸を整わせた。

悠理は清四郎の厚い胸板を撫でながら、清四郎の顔を上目遣いで見た。

「おまえ… ちょっとハード過ぎ…」

清四郎は額の汗を拭って、悠理の顔を見てふっと笑った。

「ここのとこ、夜勤が続きましたからね。その分取り戻してるんです」

「…ばか」

くすっと悠理は笑って、清四郎のくちびるにキスをした。

清四郎は悠理の髪に手を差し込み、もっと深くキスをする。

舌を入れ、お互いの唾液も絡め取る。

「ん… ねぇ、喉乾いた。可憐たちのワイン飲もうよ…」

「後で… ほら」

清四郎は悠理の手を掴んで、堅く、勃ち上がった己を握らせた。

「や…ん もう?」

「ええ、今日は結婚記念日ですからね。特別です」

そう言うと清四郎は悠理に覆い被さった。

 

家の中に漂うバラの香り。

飲みかけのワインが入ったワインクーラーには水滴が流れた。

テーブルに置いてある5匹の赤いネコのネクタイ。

そして悠理の肌の上で揺れるクロスのネックレス。

清四郎と悠理の結婚6年目が始まった。

 

 

 

 

END

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