鈴虫BY いちご様
「いやだ、やめろ! 痛いってば!」 「まだ何もしてませんよ。 それより蹴るの、やめてもらえませんか? これじゃ何もできませんよ。」 それでも悠理の攻撃は止まらない。 清四郎は舌打ちすると、部屋にあった浴衣の帯を手に取った。 その意図に気付いた悠理が逃げようとするが、立ち上がる前に足を捕まえられ、 布団の上に転がされてしまう。 渾身の力を込めて抵抗するが、所詮、力で清四郎に適う筈も無い。 清四郎は悠理の体を抑えると、素早く両足首を縛り上げた。
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大学2年の夏休み。 伊豆半島のあまり有名ではない温泉地の海辺の旅館に、 清四郎と悠理は来ていた。 その夜は海上花火大会があり、二人は海浜公園に浴衣で繰り出した。
海浜公園では、『鈴虫祭り』と銘打って観光客のために鈴虫を無料で配っていた 。 プラスチックの小さな籠に、つがいの2匹が入っている。 二人で二籠をもらった。 悠理が嬉しそうに目の高さまで上げて、籠の中を覗く。 中にはちゃんと茄子の切れ端も入っていた。
花火がよく見えそうな場所を選び、旅館でもらったシートを芝生に広げる。 夜空を見上げると、東京と違い星がきれいに見えた。 公園のあちらこちらから、鈴虫の鳴き声が心地よく聞こえてくる。 波の音と潮の香り、それに鈴虫の音色が加わって日常から隔絶された空間を演出 してくれた。 そんな中、花火大会が始まった。
ドーーーン・・・パラパラパラ・・ ・・・ドドーーーン・・パラパラ・・・
海上とはいえ、公園から100メートルほどの場所から打ち上げられる花火は、 その音と共に震動が体に直に伝わってくる。 あまりに近くのため、中に仕込まれている小さな花火の弾ける音までがよく聞こ えてきた。 どこぞの花火大会のような凝った花火は上がらなかったが、目と耳と体で花火を 楽しんだ。
最後に大きな尺玉が3つ上がり、花火大会がお開きとなった。 旅館への帰り道、悠理は夜店をご機嫌で覗き歩く。 焼き鳥、綿菓子、りんご飴、・・・次々と悠理のお腹に吸い込まれていった。
旅館まで後少しという所で、悠理が下駄のささくれを足に刺してしまった。 歩けないといいながらも、こんな場所でおんぶされるのもイヤだと、片足を引 きずるように旅館まで帰った。
部屋に戻ると、清四郎はすぐさま救急セットを取り出した。 子どものように動き回る悠理と行動するようになってから、救急セットは必需品 だ。 右親指の腹に刺さった棘は、ほとんど木片と言ってもいいくらいのもので、おま けに出ている部分が折れてしまっていて、簡単には抜けなかった。 ピンセットで取るのを諦め、清四郎が小型ナイフを取り出したところで、悠理が 騒ぎ出した。
「そ、そのナイフで、何するの?清四郎ちゃん?」 布団の端に座り、買ってきたべっ甲飴を舐めていた悠理が、不安げに聞く。 「え、ああ、これですか?皮膚を少し切って、中に入った棘を取り出すんですよ。」 と、何でも無いことのように言い、メスのように輝くナイフをライターの炎で消 毒している。 「痛い・・・んじゃ・・ない?」 「そんなに痛くありませんよ。」 と言いながら、清四郎は悠理に背を向け、悠理から見えないように右足を脇に抱 え込んだ。
清四郎が手に力を込めると、悠理が暴れ出した。 「いい!いい!もういいよ。」 「ちょっ、ナイフ持ってるんですから動かないで下さい。 もういいって言っても、このままで化膿でもしたらどうするんです。 表面の薄皮をむくだけですから、本当にそんなに痛くないですよ。」 「サドの清四郎の言うことなんか、信用できるか!」 振り上げた悠理の左足が清四郎の肩にヒットした。 悠理の足を抑えていたため、モロに受けてしまった清四郎は、無言のまま、こめ かみに青筋をたてた。
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「何するんだよ・・・、ほどけよ。」 「暴れられたら、余計に危ないですからね。」 足を拘束された悠理は、今度は手を力の一杯振り上げる。 清四郎とて、悠理の肌に傷をつけたくは無いし、痛みも与えたくない。 細心の注意を払って手当てしようとしてるのに、容赦の無い拳が背中に叩きつけ られる。 悠理に信用されないことは、今までの所業から分からなくも無いが、何だか腹立 たしくなってくる。
「悠理、いいかげんにして下さい。」 低くなった声に、清四郎の怒りを感じ取ったが、まだ悠理は抵抗を続けた。 「聞き分けが無いと、こうですよ。」 清四郎は帯をもう一本取り出すと、悠理の体を腕ごと縛り上げ、布団の上にうつ 伏せに転がした。
「むぐぐぐ・・。」 もう動くことができないと、悠理はようやく観念した。 (「なんだか蛇様の洞窟でのこと思い出しちゃうじゃん・・」)
清四郎は大人しくなった悠理の両足を、左手でしっかり抑え、慎重に手当てを行 う。悠理が痛みを感じない程度に皮膚を切り、刺さっていた棘を取り出した。 消毒して絆創膏を貼ると、悠理に声を掛ける。 「悠理、ほら、終りましたよ。」
「えっ」という顔をして、悠理は首だけ振り返った。 「もう終り?」 何がそんなに恐かったのか涙目になっている。 「ええ、もう大丈夫ですよ。痛くなかったでしょ?」 そう言いながら、悠理を仰向けにし、体を起こすと、汗で額に張りついた髪を梳 いてやる。
その時、鈴虫が鳴き出した。 「あ・・、鈴虫・・?」 「本当だ。鳴き出しましたね。 もともと夜行性ですし、それに、今までうるさかったから、鳴けなかったんで しょう。」 しばし、鈴虫の鳴き声に耳を傾ける。 二つの籠に入れられたそれぞれの雄は、己の魅力を誇示するかのように、必死に 羽を擦り合わせている。
「あの・・・、これ、ほどいて欲しいんだけど・・・。」 悠理が小さな声でつぶやいた。 膝立ちのまま鈴虫に聞き入っていた清四郎が、我に返り悠理を見下ろした。 「ああ、そうでしたね。」
見上げる悠理。 見下ろす清四郎。
潤んだ瞳で見つめられ、清四郎は首筋がぞくりと粟立つのを感じた。 べっ甲飴のせいか、普段より艶を増した唇、甘い吐息。 暴れた為に少し肌蹴た胸元からは、胸の下で拘束した帯のせいか、普段は有るか 無きかごとしの胸が、今はやけにその存在を主張している。 肌はほのかに上気し、清四郎を誘う。
鈴虫の鳴き声が、清四郎の耳の中にこだまする。 まるで・・・何か暗示を掛けるように・・・。
視線を合わせたまま、清四郎は悠理の背中に手を回した。 が、その手が帯がほどくことは無かった。
そのまま悠理を抱き締めると、その口を唇でふさぐ。 舌を割り入れ、歯をなぞり、舌を絡める。 甘い甘い唇と悠理の内部を味わう。 最初は驚き、抵抗していた悠理だが、段々と強張りが溶けていった。 「んー」 苦しさから漏れる声にようやく清四郎は唇を解放した。
悠理は小首を傾げ、少し怯えたような表情で清四郎を見つめる。 「ほどいてくんない・・の・・?」 そんな言葉や仕草が、男を余計に嗜虐的な思考に追いやる。 清四郎は悠理の問い掛けには答えず、部屋の明かりを抑えた。
薄闇に包まれた部屋で、鈴虫がひときわその声音を増した。
悠理がおどおどと目をさまよわせるが、清四郎は構わず両手を頬に添えると、再 び唇を重ねた。 いつもより情熱を増した口づけ。 口をこじあけ歯が触れ合うくらい奥へと侵入する。舌を絡め唾液を混ぜる。 まるで、一つに溶け合おうとするかのように・・・。
悠理の唇が冷たく感じられるのは、自分がいつもより熱を帯びているせいか。 呼吸が荒くなっているのを自覚する。
愛しい、愛しい悠理。 いつも自由に飛びまわっていて欲しいと思っているのに、心のどこかでその羽を もぎ、籠に閉じ込めたいと思っているのだろうか。 悠理を拘束し、その体を貪る。そんな歪んだ独占欲で心が満ちる。
深い口付けを繰り返しながら清四郎の手は首筋を滑り降り、浴衣の襟をなぞる。 鎖骨を撫で、小さく円を描くように、少しずつ左右に襟を広げていく。 清四郎の手が脇に、肩に触れ、ついには浴衣が肩から落とされた。
浴衣をさらに引き下ろし、いつもより存在感を増した乳房を露出させると、背中 を支え、ゆっくりと横たえさせた。 潤んだ瞳、上気した頬、魅惑的な乳房、妖しく縛られた姿態。 その扇情的な姿を、清四郎は自分の網膜に焼き付けた。
清四郎の右手が乳房を覆い、最初は優しく、段々と力を込めながら揉みしだく。 もう片方の乳房は乳輪の端を円を描くように舐め、ところどころ紅い花を散らす 。
「ん・・・ん・・」 なかなかその先端に触れないでいると悠理から抗議ともとれる声がもれた。 それが合図のように乳首を口に含む。 舌で舐め、甘噛みする。軽く吸いながら先端を舌で刺激する。 「あぁ・・・・あん・・・ん・・・」 悠理の声に清四郎はますます煽られる。 悠理の体を優しく撫でながら浴衣の裾を徐々に割っていく。
執拗なキスと胸への愛撫、何より縛られている事が、悠理の心を乱れさせる。 いつもと違う快感に身を捩って逃げようとする。 いや、逃げようなどとは思っていない。 (「あたい、なんか変、縛られてるのなんて嫌なはずなのに・・・。 こんなの・・・、なんで?」) 悠理は未だ付けたままの下着が、いつもより濡れていることに気付いていた。嫌 なはずなのにいつもより感じている自分が恥ずかしい。 やめて欲しいという気持ちと、もっとと求める気持ちが綯い交ぜになる。 所有物のように扱われることに戸惑いながらも、その激しい想いに喜びを感じて しまう。
清四郎の長い指が下着の上から、悠理の中心を撫でる。 「あぁっ・・・ん・・・」 悠理の体がびくりと揺れた。 指先の感触と悠理の反応に、清四郎は満足そうな笑みを浮かべると、足首の戒め を解き、悠理の浴衣の帯を外した。
清四郎はぐしょぐしょになった下着を、ゆっくりと脱がしていった。 足を開き片足を肩に乗せると、太腿から悠理の中心目掛けて舐めあげる。 足の付け根の弱い部分を刺激され、悠理の体が震える。 悠理の花びらを広げ、蜜をすくい、堅い蕾を愛撫する。 舌でつつき、舐め上げ、軽く吸う。 「んん・・・ん・・・あぁ・・」 中指を悠理の中に侵入させ、膣の奥深くに存在する子宮の入り口を愛しげに撫で る。指を増やし、内壁を緩急をつけ刺激する。
舌と指の愛撫で悠理はもう何も考えられない。 口から漏れるのは懇願する言葉だけ。 「あ・・・お・・願い・・・もう・・もう・・あ・・・」 悠理は自由にならない体を捩って快感に耐えていた。心と体が清四郎を求める。
清四郎は指を撤退させ、ようやく悠理を拘束していた帯を解いた。 赤くなった腕を癒すように口付ける。 悠理の浴衣を開き、自分も浴衣を脱ぐと、今までに無い程昂ぶっている自分自身 を悠理にあてがい、一気に貫いた。 「くっ・・!」 爆発しそうな快感が体を突き抜ける。
悠理の膝裏を抱え、体をぶつけるように激しく穿つ。 清四郎は自分の心を持て余す。 大事に慈しみたい気持ちと、激しく責め立てたいと思う気持ち。 悠理を気遣う余裕も無く、熱に浮かされたように激情をぶつける。 荒れ狂う衝動が制御できない。 「あっ・・あっ・・あうっ・・」 清四郎の下で、悠理の顔が歪む。その声は痛みのためか快感のためか。
「ああ、悠理・・・僕の・・ものだ・・・、離・・さ・・ない・・・」 清四郎の言葉は独り言のような小さなつぶやきだった。
「ん・・・離・・さ・ない・・で・・・」 悠理が切れ切れの呼吸の中で言葉を返す。
限界が近づき、ひときわ大きく突き始めた清四郎を抱き締めるように悠理自身が 収縮を始めた。 「あーっ・・・あっ・・・・」 自分ではどうすることもできない体の反応に、溢れるような快感に、ただただ清 四郎に縋りつく。 「くっ・・・・悠理!」 そして、その刺激に呼応するかのように清四郎も至上の時を迎えた。 覆い被さるように悠理を抱きしめ、口づける。 悠理の手が清四郎の背中に回り、お互いがお互いを縛り付けるように、強く強く 抱き締めあった。
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鈴虫が、涼やかな声で鳴いている。 先程までの熱波が嘘のように、空気は凪いでいた。
まだ力の入らない体を清四郎に預け、悠理がその鳴き声に聞き入っていた。 清四郎は後ろから両腕を悠理の前に回し、その腕をさする。 「・・・痛かったですか?」 悠理は小さく首を振る。 「ううん、大丈夫。」
「・・・ねえ・・・、帰ったらこの鈴虫どうする?」 清四郎の胸に顔を寄せる。 「そうですね、秋には終わってしまう命ですから、庭に放しましょうか。そうす れば、きっと卵を産んで命を繋いでいくでしょう。」 「・・・そだね。」
「鈴虫の鳴き声を聞いたら、今日のこと・・・、思い出す・・かも・・。」 悠理がぽそりとつぶやく。激しく求められた記憶に体の芯が熱くなる。
「・・思い出したくない・・ですか・・・?」 清四郎の問いかけに悠理は言葉を返さなかった。 ただ俯いたまま首を小さく振った。 清四郎は悠理を抱く腕に力を込める。
鈴虫の涼やかな声が、二人の熱い想いを包みこんだ。
owari |
背景:季節素材の雲水亭 様